53 / 146
革命軍
しおりを挟むデカス山脈の隙間から注ぐ朝日が、寝室から長い夜を奪っていく。
巨大な窓から見える朝靄は、まだ早朝だろう事を教えてくれる。
黒で統一された巨大なベッドの上は、既に俺一人だけとなっていた。
時計を見ると六時を少し過ぎたくらい。
リリィとアデリッサ、起きるの早いなぁ。
目覚めのキスで起こしてくれるの、少し期待してたんだけどな。
起き上がると素っ裸だったので、ガウンを着てスリッパを履き、階下へ降りる。
一流ホテルを意識しているのでアメニティは充実している。
生地はサラサラなシルクで真っさらな白。
何て気持ちのいい朝なんだ。
リビングに到着すると、ダイニングに全員が揃っていた。
リリィ、メルロス、アマンダ、ナティアラ、アデリッサ、三十五人の美女達。
朝食の準備は既に整っているようだ。
俺の到着を待っていてくれたのか?
ちょっと、感激してしまう。
「おはようございます、ご主人様」
三十五人が立ち上がり揃って挨拶をする。
全員が、テカテカした素材のレースにフリルが付いたキャミソールとタップパンツを着用して、朝からとても刺激が強い。
下着よりはソフトだが、肩やら谷間やら太ももやら、露出度が高過ぎる。
恐らくメルロスの指示でこんな格好をさせられているのだろうが、目の保養になる以上お咎めは無しだ。
メルロスに案内され、長テーブルの上座に座ると、起立していた三十五人も乱れなく揃って着席する。
ここまで、メルロスの教育が行き届いているとは。
手前から右にリリィ、アデリッサが並び、左にメルロス、アマンダ、ナティアラが並ぶ。
そこから三十五人が座り、俺の方に視線を送っている。
テーブルには、果実やスープ、パン、卵料理、薫製肉などが俺が用意した高級食器に盛られ、いい匂いを漂わせている。
この光景に、不意に涙が出そうになった。
大勢で食事が出来るこの状況に感動しているのだ。
一時はこの世界に来てどうなる事かと思ったが、今こうやって人との繋がりが築けている。
ナティアラがお腹空いた!と催促し、アマンダが注意する。
「みんな、おはよう。
待たせたようで済まない。
みんなと揃って食事が出来る事が、こんなに嬉しいとは思わなかった。
さぁ、今日はみんなに仕事をしてもらうつもりだからしっかり栄養をとってくれ。
お喋りも自由だ。
では、いただこう」
俺が手のひらを合わせると、みんなは手を組んで、いただきますと挨拶をする。
あっ、この世界では手を組むのね。
すると、俺の仕草を全員が真似をする。
「テツオの国ではそうするのね」
リリィが不思議そうに微笑んでいる。
照れ臭そうに笑みで返す。
「今日は新領地で一仕事するつもりだが、リリィはどうする?」
リリィに尋ねると、じゃあ今日もエルドールに行こうかな、と返事が返ってきた。
リリィと訓練もしたいとこだが、今日はじっくりと街育成をしたい。
どうせなら北の国で一番を狙おう。
何の一番かは決まってないが。
次にメルロスに確認を取る。
三十五人にはそれぞれの仕事先があるが、今日の派遣先は新領地だ。
各自準備出来次第、ジョンテ城に転移装置を使い、来てもらうよう伝えた。
アマンダ、ナティアラにもみんなと一緒に来るように言っておく。
色々な話をし、食事を終え、服を着て、準備万端一足先に新領地へ向かう。
「では、みんな宜しく頼む」
【転移】
——ジョンテ城・玄関ホール
ラウールの居る場所に【転移】すると城の入り口に着いた。
てっきり執務室にいると思いきや、何故、こんなところにいるんだ?
ラウールを見ると、またも徹夜明けなのか痩けた顔がよりげっそりとしていた。
「ああ、テツオ様。
大変な事になっております」
「一体どうしたんだ?」
聞くと、城門を叩く音や騒ぐ声が一晩中続き、いつ門を破られるかと気が気じゃなかったという。
やはり一睡もしてなかったらしい。
「如何致しましょう?」
昨日の魔獣や悪魔では抑止力にならなかったのか?
案外、革命の意思は固いのかもしれないな。
「大丈夫です。
一人で対応します。
新しい領主の試練だと思ってちょっと行ってきます」
「いやいやいやっ!昨日より人数が増えてますし、武具を装備した者も多数います!
無茶です!」
俺の腕を掴んで行かせまいとするラウール。
睡眠不足からかフラフラで力を感じない。
「領主が誠意を示せば分かってくれる筈です」
そう言い切り、城の扉を開ける。
門までの通路は100メートル以上はあり、途中の深い堀には長い橋が架かっている。
にも関わらず、怒号や騒音がここまで響いていた。
ラウールは顔を歪ませながらも俺の後を追う。
正直、休んでて欲しい。
もうすぐ、デカスから女性達がやってくるんだ。
なるべく早く騒動を収めなければ。
そこへ、一際大きな衝撃音が響き渡った。
とうとう城門が破壊される事態に。
こいつらは城門を壊す事に、どうしてこんなに執念を燃やすのだろうか?
革命が成功したという民衆への分かりやすいアピールか?
それとも城の占拠こそが、革命成功の証なのか?
門へ続く橋を歩いていると、銀の鎧に身を包んだ兵士達が大挙して押し寄せてきた。
今回は武装した領民なんかじゃない。
凄い迫力だ。正直、怖い。
堀の向こうには、騒ぎを聞き付けた領民達がこちらの様子を伺っている。
領民達に見られている以上、無茶苦茶に暴れる訳にもいかないか。
「一旦、止まってくれないかな?」
丸腰をアピールして両手を上げる。
戦う意思はない。
これは領民達へのアピールだ。
先頭に立つ一際ゴツい銀の鎧を着た兵士が片手を掲げ、後続を止める。
「死にたくなければそこをどけ!
この領地は既に腐敗している!
民衆は平和を求めているんだ!」
スキンヘッドの兵士が何やら主張した。
領民達から喝采の声が上がる。
俺も何か返さないと。
「ジョンテ家は終わった!
新領主の俺が平和を約束する!」
「貴族は信用出来ない!」
矢継ぎ早に否定された。
貴族の信用が地に落ちているとは、サルサーレ公の言葉だが。
領主代わるって言ってるのに、ここまで拒否られるのはショックだなぁ。
「暴力で何になる!
話し合って解決しよう!」
俺の言葉に、領民達はおろか兵士達までざわつく。
スキンヘッドの兵士が横にいる強面の兵士に話し掛ける。
「カルロス、昨日の魔獣を追い払った事といい、この新領主、俺達が聞いている貴族と話が違わないか?」
「昨晩言ったろ!
こいつがどんな貴族だろうが関係ない!
ロナウド、覚悟を決めるんだ!
正義は俺たちにある!
皆の者ぉっ!突撃ぃいいいい!!」
強面兵士が鬨の声を上げると、兵士達が再び突進を再開する。
くっ、ダメか。
戦うしかない。
だが、相手は人間。
やり過ぎると死なせてしまうかもしれない。
力を出し過ぎると、民衆に恐怖を与えかねない。
加減が難しい。
よし!リリィとの特訓の成果を見せる時が来たようだな!
魔法は無しだ。
背中から、木の棒を取り出して構える。
「では、俺がお相手しよう」
橋の上という事もあり、横幅には制限がある。
上手く立ち回れば、囲まれる事は無い。
前方からの攻撃にだけ集中すれば制圧出来るだろう。
フルフェイスの銀兜が、顔を隠してしまっているので、表情の見えない兵士達がにじり寄ってくる威圧感は異様だ。
それでも冷静に、前から次々と襲いかかる兵士を一人二人と、突いたり、薙ぎ払ったりして、戦闘不能にしていく。
兵とはいえ大事な大事な領民達だ。
後で【回復】してやるから我慢してくれ。
「一人ずつ行くな!
まとめて行け!」
強面兵のカルロスが支持を出すと、三人揃って、一斉に槍で突いてくる。
後ろに飛んで躱すが、腹を少し切られていた。
イテテ。
一瞬で【回復】させるが、シャツに血が滲む。
危ないな、それ。
「押しているぞ!
詰めろ詰めろ!」
槍の三段攻撃が思ったよりキツい。
防御に徹していると、その間隙を縫って、強面カルロスが奇襲攻撃を仕掛けてきた。
巨大なハンマーが直撃し、後方に大きく吹っ飛ばされる。
これが、吹き飛ばしスキルか。
腕の上からだったが胸を強打し、口から血を吐く。
うぅ、戦いってこんなに厳しいのかよぉ。
痛えよぉ。辛いよぉ。
「テツオ様!」
後方からラウールが叫ぶ。
危ないから出てくるなよぉ。
俺自身、【回復】で傷は治せるが、痛みはレベル相応に喰らうので、精神的に参ってくる。
朝食後の運動にしては激し過ぎる。
何でこんな事に?
仕方ない、魔法を使うか。
木の棒と全身に【風の付与魔法】を掛ける。
銀等級冒険者以下の相手になら遅れをとる事は無い。
槍兵三人の槍をかいくぐり、まとめて足払いすると、ガシャガシャと三つの鎧が折り重なり潰れた。
「盾を前に!」
カルロスの素早い号令と共に、大盾をギッチリ重ねた兵士達が橋を埋めるように並び、ジリジリとこちらへと迫ってくる。
十枚は並ぶ盾の異様な圧迫感。
壁が迫ってくるようだ。
棒でドンと突いてみるが、衝撃が分散されびくともしない。
それもその筈、背後にいる魔道兵が何かしらの【強化魔法】を付与していたからだ。
盾が一枚岩となって光を放っている。
こいつら、戦い慣れてやがる。
【火球】
【氷の矢】
盾兵の後方から、魔法が飛んできた。
弓兵の矢まで大量に飛んでくる。
人間たった一人相手になんて事するんだ。
「カルロス!
ここまでする事ないだろう!
民も見てるんだぞ!」
ロナウドという兵士がカルロスに詰め寄るが、カルロスの攻撃命令は止まらない。
城を囲む豪の辺りでは、民衆が橋の上で起こっているこの衝突を、固唾を飲んで見守っている。
迫り来る魔法も矢も、強化された棒で叩き落とすから問題無い。
さてどうしようか?
殺さずに、恐怖を与えず、民衆の支持を得ながら事態を収めるには。
「ご主人様!」
背後からデカスからやってきた女性達の声がする。
城の玄関から何人かが騒ぎを聞きつけ、ぞろぞろと出てきたみたいだ。
まずい!
「出て来るんじゃない!
今すぐ戻れ!」
避けるまでもないと無視していた大量の矢や放出魔法が背後に飛んでいたのだ。
運悪く一人の女性にその矢が刺さってしまった!
誰に刺さったのか女性達が重なって見えない。
だ、誰に?
堀の向こうで一部始終を見ていた民衆から悲鳴が上がる。
次いで民衆からブーイングが起こり始め、弓兵が攻撃の手を止めた。
駆けつけたラウールが、女達を扉の中へ早急に避難させたお陰で、被害の拡大は防げたが……
俺がもっと早く片付けておけば良かったんだ!
くそっ!
「お前らのやってる事は革命じゃない!
ただの暴動だ!
これ以上被害者を増やさない為に今から鎮圧する!」
兵士達ではなく、これは民衆へのアピールだ。
どちらに正義があるかは民が決める。
だが、俺の女を傷付けた事は我慢できない。
絶対に許さん。
身体の魔力が高まっていく。
すると、頭の中にソニアの真剣な眼差しが浮かんできた。
——【北の盾】は決して人を殺しはしない
……そうだった。
分かったよ、団長。
民衆に絶対バレないように、こいつらを懲らしめてやる。
0
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる