38 / 146
ボルストン城
しおりを挟む
北の大国・ボルストン。
この大陸における四大国の一つである。
ボルストン王国は、サルサーレ領を含む七つの広大な領地を治めるが、その土地の殆どは山脈であり、一年の半分が雪に覆われ、決して恵まれた土地、環境ではない。
それでも、この国を大国たらしめるものは、ひとえに魔法による発展であろう。
魔法を司り国家を支える魔法省。
魔法の深淵を追究する魔法研究院。
賢者や聖女を多数輩出する魔法学院。
国民の生活を豊かにする様々な魔具を開発、製造する魔導工房。
魔法によりこの国は他国を圧倒してきた実績がある。
そして今、首都ボルストンの城には、先日誕生したばかりの導きの巫女エナの予言により、待望の勇者を召喚する事に成功していた。
——ボルストン城・謁見の間
「よく来てくれた勇者カインよ!
やはり我が北の国に生を受けておったか!
お告げ通りだ」
国と同じ名の王ボルストン七世が、謁見の間に通された勇者だという青年に呼び掛けた。
勇者の登場に満面の笑みを浮かべ、嬉しさが声にも表れている。
青年はその凛々しい顔を上げ、王にうやうやしく挨拶をする。
剣と盾、鎧には返り血が付着し、横に置いた大きい背鞄からは何とも言えぬ異臭が漂う。
ツンツンに立った短い金髪や日に焼けた顔は土埃で汚れ、未だ冒険の途中で立ち寄ったといった風貌だ。
その汚さ、不潔さを見て、大臣達はヒソヒソと批判や非難の陰口を叩いている。
自信に満ち溢れた表情をしている金髪の青年は、謁見の間にいる面々をぐるりと睨むように見回すと、王に向かい声を張り上げる。
「今!
南の大国では既に魔族に占領された領地があると言う!
東の帝国はそれを好機とし、その南国を攻めようと戦の準備をしている噂もある!
私が仲間を置いてわざわざ召喚に応じたのは、帰郷などと言う呑気な理由ではなく、王に直にこの北の国はどうするつもりなのか問う為!」
勇者の言葉に神官や大臣達がざわつきだす。
胸に届く程の立派な黒髭をさすりながら、深い皺があってもなお鋭い眼光を放つボルストン王は悠揚迫らぬ態度で勇者を見据える。
「ほう、既にそこまでの情報を掴み、動いておったとは……
問いに答えよう。
まず、国家の防衛が第一は、必然である!
国無くして民は守れぬからな。
我が国が現段階で出来る事は、東の帝国に対する警戒と警告、其方の仲間になるべき伝説の英雄達の捜索、魔法省の惜しみない協力だ。
無論、神託の導きに従うのみだが」
勇者カインは得心いった様子で頭を垂れた。
「ありがとうございます。
人同士の争い、国同士の問題は王にお任せするしかありません。
私は早急に仲間を集め、魔族を倒せるだけの力を身に付けたいと思います。
では、旅立つ前に、ここに二人会いたい者がいるので、会わせて貰えますか?」
「あいわかった。
来たばかりというのにもう旅立つと申すか?
其方が会いたいと申す者は、すでに城の礼拝所で待たせてある。
会っていくがいい」
勇者は一礼すると、颯爽にその場を後にした。
男ですら見惚れるその立ち振る舞いは、人類の命運を背負う重責で研磨されたものだろう。
勇者が歩いた深紅の長絨毯は、土塗れの足跡がくっきりと残っていた……
——————
その昔。
赤子だったカインは、デカス山の麓でスーレ村の若い夫婦に拾われる。
冬の最中、捨てられた赤子が無事な事に不思議だとは思いつつも、子供がいなかった夫婦はその子を大事に育てた。
いつしか、村長となった夫婦に待望の娘エナが生まれる。
三つしか年の差のない二人はとても仲が良く、何をするにも一緒だった。
二人はお互いがとても大好きだった。
とある日、飼っていた犬が行方不明になり、二人は雪に残った足跡を辿ってデカス山に向かう。
カインが十三歳、エナが十歳の時である。
足跡は血の跡となり、犬は既に狼に襲われ殺されていた。
沢山の狼に囲まれ、必死にエナを守るカイン。
しかし、ボス狼は手強く、カインは次第に傷付き動けなくなっていく。
気絶するカインに覆い被さり泣き叫ぶエナ。
その頭上に光が注ぐと、たちまち狼はいなくなった。
フードを被った何者かが、エナの顔を覗き込み話し掛ける。
とてもとても優しい目。
背中から差し込む光は翼の様に広がっていた。
「もう、大丈夫。
この子はね、勇者になるの。
強くする為に、カインは私が預かるね。
もし、エナが巫女になったらカインを呼んであげて。
それまでエナを守れるくらい強くしておくから」
エナは最初は戸惑ったが、あまりに優しい目を見ていると全てを受け入れる事ができた。
次に目を覚ました時は、いつもの自分の布団の中。
両親に、カインはどうしたの?と問われると、エナは、カインは勇者になるの、エナが巫女になって迎えにいくの、とずっとうわごとのように言っていた。
夫婦はエナを送り届けた人物を思い出し、エナの言う事を全て信じ、そして、それら一切口外しない事をエナに約束させた。
——ボルストン城・礼拝所
エナと別れてから五年の月日が経ち、カインは礼拝所の扉を開ける。
期待に胸を膨らませて。
礼拝所にいた二人の人物が立ち上がる。
前にはボルストンの英雄にして稀代の賢者リンツォイ。
まだ九歳でありながら類い稀なる魔力と知識によって当国最年少で賢者となった魔法研究院院長である。
そしてその奥には、五年前に別れたきりのエナが!
「ああ、エナ!
大きくなったな……」
大賢者への挨拶を忘れる程、脇目も振らずにエナの前へと駆け出すカイン。
「カイン、久しぶり……」
昔と変わらぬエナの優しい目と声は、スーレ村を、故郷を、カインに一瞬で想起させた。
胸の中に優しい風が吹き抜ける。
ああ、何もかもが懐かしい。
「あれから五年か……
親父さん達は元気かい?」
「ええ、元気よ……」
エナからそこはかとなく物悲しさを感じる。
カインは目頭が熱くなっていた所為もあり、その違和感に気付くのが遅れてしまう。
違和感……?
いや、エナは巫女になって俺を呼んでくれた。
会いたかった気持ちは俺と変わりない筈だ。
将来を誓いあった仲だ、と。
カインは綺麗でサラサラな金の髪を撫でる。
きめ細かい指通りは少女時代のエナを思い出させた。
違和感は気のせいだ。
勇者らしく勇気を出して、両手を広げ、更に一歩エナに近付く。
「会いたかった、エナ」
ギュッと抱き締め、エナを全身で感じたい。
手を回そうとしたその刹那、カインの胸を軽く、本当に軽く、エナの手がそっと押した。
その僅かな仕草でも、カインの胸を深くえぐるには十分過ぎる程だった。
感じた事の無い斥力。
「え、ど、どうしたんだい?エナ」
引きつった笑顔でエナに問う。
気が付けば肩を強く掴んでいた。
エナの顔が歪む。
それは痛みのせいか、それとも……
「カインさん、落ちついて」
賢者の金属製の錫杖がカインとエナの間に割って入る。
「あ、俺の身体が土埃で汚れてるからか!
そっか、汚いよな!ごめんな!」
カインが鎧を必死に拭い、顔をゴシゴシと擦る。
「カイン、ごめんなさい。
私はもうあの時の、貴方の知ってるエナじゃないの」
賢者の錫杖を片手で制し、核心を問う。
「そんな……まさか……他に好きな人が……いる、のか?」
正直にコクリと頷くエナ。
カインは知っている、エナが嘘をつけるような娘じゃない事を。
聞きたくなかった事実に打ちのめされるカイン。
頭が混乱して、身体が宙に浮いてるみたいだ。
足を踏ん張ろうにも、膝が、いや全身が震える。
「でも、エナは巫女になって俺を呼んでくれた……」
「それは、頼まれたから……」
「カインさん、もう止めましょう。
彼女が困っています。
その……五年という月日は人の気持ちが変わるには十分です」
「九歳の子供に何が分かる!」
エナがビクリと震え、リンツォイは目を瞑る。
「すまない。失言だった。
許して欲しい。
……いやしかし、エナに一体何が?
もしや、……悪魔の術か何か?」
尚、釈然としない勇者。
呆れ果てる賢者。
「私は早く貴方とこれからについて話がしたいというのに。
えらく直情的なんですね、当代の勇者は。
ふぅ、いいでしょう。
エナさん、もし貴女が許すならば術が掛かっていないかを、私の魔眼で鑑定してもいいですか?」
「……はい、構いません」
賢者リンツォイは魔法の目でもって、エナを観察する。
「ふむ……最近までは何も無い……が」
「が?」
勇者は結果が気になって落ち着かない。
「む、数日以内に、魔法を掛けられた痕跡がある!」
「何!どんな魔法なんだ!?」
賢者に詰め寄るカイン。
リンツォイは魔力を目に集中させ深く読み解いていく。
礼拝所が暫し静寂に包まれる。
そして、賢者の鑑定が終了した。
「うーん、回復魔法……だけか。
特に悪い魔法や術が掛けられた形跡はありませんね。
何かを感じる気がするのだけど……何もない」
露骨に肩を落とすカインに、賢者は溜息をついて言葉を続ける。
「さぁ、もう良いですかカインさん。
次は私の番ですよ」
カインは頭をガシガシと搔きむしり、大きく深呼吸をする。
「わかった。
色々すまない、賢者よ。
エナ、また今度ゆっくり話そう」
「カイン…………」
賢者は勇者の腕を引き、エナから遠ざけるように礼拝所から出ていった。
椅子にへたりと座り込むエナ。
頭の中が、幼い頃一緒に過ごしたカインとの思い出でいっぱいに満たされ、胸にズキリと痛みが走った。
エナは自ら初恋に終わりをつげたのだ。
悲しくなったが不思議と涙は出なかった。
そんな自分に戸惑いを覚えた。
そして、あの人に無性に会いたくなった。
次はいつ会えるのだろう?
寄り添いたい。
あの人を癒してあげたい。
好きの感情がどんどん膨らんでいく。
エナは耳の魔石ピアスにそっと触れる。
…………ああ、テツオ様。
この大陸における四大国の一つである。
ボルストン王国は、サルサーレ領を含む七つの広大な領地を治めるが、その土地の殆どは山脈であり、一年の半分が雪に覆われ、決して恵まれた土地、環境ではない。
それでも、この国を大国たらしめるものは、ひとえに魔法による発展であろう。
魔法を司り国家を支える魔法省。
魔法の深淵を追究する魔法研究院。
賢者や聖女を多数輩出する魔法学院。
国民の生活を豊かにする様々な魔具を開発、製造する魔導工房。
魔法によりこの国は他国を圧倒してきた実績がある。
そして今、首都ボルストンの城には、先日誕生したばかりの導きの巫女エナの予言により、待望の勇者を召喚する事に成功していた。
——ボルストン城・謁見の間
「よく来てくれた勇者カインよ!
やはり我が北の国に生を受けておったか!
お告げ通りだ」
国と同じ名の王ボルストン七世が、謁見の間に通された勇者だという青年に呼び掛けた。
勇者の登場に満面の笑みを浮かべ、嬉しさが声にも表れている。
青年はその凛々しい顔を上げ、王にうやうやしく挨拶をする。
剣と盾、鎧には返り血が付着し、横に置いた大きい背鞄からは何とも言えぬ異臭が漂う。
ツンツンに立った短い金髪や日に焼けた顔は土埃で汚れ、未だ冒険の途中で立ち寄ったといった風貌だ。
その汚さ、不潔さを見て、大臣達はヒソヒソと批判や非難の陰口を叩いている。
自信に満ち溢れた表情をしている金髪の青年は、謁見の間にいる面々をぐるりと睨むように見回すと、王に向かい声を張り上げる。
「今!
南の大国では既に魔族に占領された領地があると言う!
東の帝国はそれを好機とし、その南国を攻めようと戦の準備をしている噂もある!
私が仲間を置いてわざわざ召喚に応じたのは、帰郷などと言う呑気な理由ではなく、王に直にこの北の国はどうするつもりなのか問う為!」
勇者の言葉に神官や大臣達がざわつきだす。
胸に届く程の立派な黒髭をさすりながら、深い皺があってもなお鋭い眼光を放つボルストン王は悠揚迫らぬ態度で勇者を見据える。
「ほう、既にそこまでの情報を掴み、動いておったとは……
問いに答えよう。
まず、国家の防衛が第一は、必然である!
国無くして民は守れぬからな。
我が国が現段階で出来る事は、東の帝国に対する警戒と警告、其方の仲間になるべき伝説の英雄達の捜索、魔法省の惜しみない協力だ。
無論、神託の導きに従うのみだが」
勇者カインは得心いった様子で頭を垂れた。
「ありがとうございます。
人同士の争い、国同士の問題は王にお任せするしかありません。
私は早急に仲間を集め、魔族を倒せるだけの力を身に付けたいと思います。
では、旅立つ前に、ここに二人会いたい者がいるので、会わせて貰えますか?」
「あいわかった。
来たばかりというのにもう旅立つと申すか?
其方が会いたいと申す者は、すでに城の礼拝所で待たせてある。
会っていくがいい」
勇者は一礼すると、颯爽にその場を後にした。
男ですら見惚れるその立ち振る舞いは、人類の命運を背負う重責で研磨されたものだろう。
勇者が歩いた深紅の長絨毯は、土塗れの足跡がくっきりと残っていた……
——————
その昔。
赤子だったカインは、デカス山の麓でスーレ村の若い夫婦に拾われる。
冬の最中、捨てられた赤子が無事な事に不思議だとは思いつつも、子供がいなかった夫婦はその子を大事に育てた。
いつしか、村長となった夫婦に待望の娘エナが生まれる。
三つしか年の差のない二人はとても仲が良く、何をするにも一緒だった。
二人はお互いがとても大好きだった。
とある日、飼っていた犬が行方不明になり、二人は雪に残った足跡を辿ってデカス山に向かう。
カインが十三歳、エナが十歳の時である。
足跡は血の跡となり、犬は既に狼に襲われ殺されていた。
沢山の狼に囲まれ、必死にエナを守るカイン。
しかし、ボス狼は手強く、カインは次第に傷付き動けなくなっていく。
気絶するカインに覆い被さり泣き叫ぶエナ。
その頭上に光が注ぐと、たちまち狼はいなくなった。
フードを被った何者かが、エナの顔を覗き込み話し掛ける。
とてもとても優しい目。
背中から差し込む光は翼の様に広がっていた。
「もう、大丈夫。
この子はね、勇者になるの。
強くする為に、カインは私が預かるね。
もし、エナが巫女になったらカインを呼んであげて。
それまでエナを守れるくらい強くしておくから」
エナは最初は戸惑ったが、あまりに優しい目を見ていると全てを受け入れる事ができた。
次に目を覚ました時は、いつもの自分の布団の中。
両親に、カインはどうしたの?と問われると、エナは、カインは勇者になるの、エナが巫女になって迎えにいくの、とずっとうわごとのように言っていた。
夫婦はエナを送り届けた人物を思い出し、エナの言う事を全て信じ、そして、それら一切口外しない事をエナに約束させた。
——ボルストン城・礼拝所
エナと別れてから五年の月日が経ち、カインは礼拝所の扉を開ける。
期待に胸を膨らませて。
礼拝所にいた二人の人物が立ち上がる。
前にはボルストンの英雄にして稀代の賢者リンツォイ。
まだ九歳でありながら類い稀なる魔力と知識によって当国最年少で賢者となった魔法研究院院長である。
そしてその奥には、五年前に別れたきりのエナが!
「ああ、エナ!
大きくなったな……」
大賢者への挨拶を忘れる程、脇目も振らずにエナの前へと駆け出すカイン。
「カイン、久しぶり……」
昔と変わらぬエナの優しい目と声は、スーレ村を、故郷を、カインに一瞬で想起させた。
胸の中に優しい風が吹き抜ける。
ああ、何もかもが懐かしい。
「あれから五年か……
親父さん達は元気かい?」
「ええ、元気よ……」
エナからそこはかとなく物悲しさを感じる。
カインは目頭が熱くなっていた所為もあり、その違和感に気付くのが遅れてしまう。
違和感……?
いや、エナは巫女になって俺を呼んでくれた。
会いたかった気持ちは俺と変わりない筈だ。
将来を誓いあった仲だ、と。
カインは綺麗でサラサラな金の髪を撫でる。
きめ細かい指通りは少女時代のエナを思い出させた。
違和感は気のせいだ。
勇者らしく勇気を出して、両手を広げ、更に一歩エナに近付く。
「会いたかった、エナ」
ギュッと抱き締め、エナを全身で感じたい。
手を回そうとしたその刹那、カインの胸を軽く、本当に軽く、エナの手がそっと押した。
その僅かな仕草でも、カインの胸を深くえぐるには十分過ぎる程だった。
感じた事の無い斥力。
「え、ど、どうしたんだい?エナ」
引きつった笑顔でエナに問う。
気が付けば肩を強く掴んでいた。
エナの顔が歪む。
それは痛みのせいか、それとも……
「カインさん、落ちついて」
賢者の金属製の錫杖がカインとエナの間に割って入る。
「あ、俺の身体が土埃で汚れてるからか!
そっか、汚いよな!ごめんな!」
カインが鎧を必死に拭い、顔をゴシゴシと擦る。
「カイン、ごめんなさい。
私はもうあの時の、貴方の知ってるエナじゃないの」
賢者の錫杖を片手で制し、核心を問う。
「そんな……まさか……他に好きな人が……いる、のか?」
正直にコクリと頷くエナ。
カインは知っている、エナが嘘をつけるような娘じゃない事を。
聞きたくなかった事実に打ちのめされるカイン。
頭が混乱して、身体が宙に浮いてるみたいだ。
足を踏ん張ろうにも、膝が、いや全身が震える。
「でも、エナは巫女になって俺を呼んでくれた……」
「それは、頼まれたから……」
「カインさん、もう止めましょう。
彼女が困っています。
その……五年という月日は人の気持ちが変わるには十分です」
「九歳の子供に何が分かる!」
エナがビクリと震え、リンツォイは目を瞑る。
「すまない。失言だった。
許して欲しい。
……いやしかし、エナに一体何が?
もしや、……悪魔の術か何か?」
尚、釈然としない勇者。
呆れ果てる賢者。
「私は早く貴方とこれからについて話がしたいというのに。
えらく直情的なんですね、当代の勇者は。
ふぅ、いいでしょう。
エナさん、もし貴女が許すならば術が掛かっていないかを、私の魔眼で鑑定してもいいですか?」
「……はい、構いません」
賢者リンツォイは魔法の目でもって、エナを観察する。
「ふむ……最近までは何も無い……が」
「が?」
勇者は結果が気になって落ち着かない。
「む、数日以内に、魔法を掛けられた痕跡がある!」
「何!どんな魔法なんだ!?」
賢者に詰め寄るカイン。
リンツォイは魔力を目に集中させ深く読み解いていく。
礼拝所が暫し静寂に包まれる。
そして、賢者の鑑定が終了した。
「うーん、回復魔法……だけか。
特に悪い魔法や術が掛けられた形跡はありませんね。
何かを感じる気がするのだけど……何もない」
露骨に肩を落とすカインに、賢者は溜息をついて言葉を続ける。
「さぁ、もう良いですかカインさん。
次は私の番ですよ」
カインは頭をガシガシと搔きむしり、大きく深呼吸をする。
「わかった。
色々すまない、賢者よ。
エナ、また今度ゆっくり話そう」
「カイン…………」
賢者は勇者の腕を引き、エナから遠ざけるように礼拝所から出ていった。
椅子にへたりと座り込むエナ。
頭の中が、幼い頃一緒に過ごしたカインとの思い出でいっぱいに満たされ、胸にズキリと痛みが走った。
エナは自ら初恋に終わりをつげたのだ。
悲しくなったが不思議と涙は出なかった。
そんな自分に戸惑いを覚えた。
そして、あの人に無性に会いたくなった。
次はいつ会えるのだろう?
寄り添いたい。
あの人を癒してあげたい。
好きの感情がどんどん膨らんでいく。
エナは耳の魔石ピアスにそっと触れる。
…………ああ、テツオ様。
1
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる