33 / 146
ノムラさん
しおりを挟む
メルロスが美人だとは分かっていたが、なんか一生仕えるとか言い出したので、ジロジロと吟味してみる。
エルメスと同じエルフだが、メルロスの方が遥かに巨乳。
身長はエルメスよりちょい低いが、リリィより全然高い。
薄い白金色の長髪で、優等生タイプの真面目そうな清純派というのか、眼鏡が似合いそうなぱっちりお目目のスーパー美女だ。
うん、一生お仕えしてほちぃ。
ん?
俺にしか見えないかも知れないが、メルロスの肩に、まん丸フォルムの真っ白な土竜みたいな何かが乗っていた。
数本の髭が生えた丸っ鼻がピョコピョコ動き、つぶらな黒い瞳でキョトンと俺を見ている。
なんだ、コイツは?
というかモフモフで可愛い。
「あら?
もしかしてこの子が見えるんですか?」
「あ、はい」
「私に力を貸してくれてる土精霊です。
父の様に真の力を引き出せないので、小動物の様な見た目ですけど。
モグラのノームなので、ノムラさんと呼んでます」
ノ、ノムラ?
モグとかモムとかじゃなくて、ノムラ?
ニコッと自信満々に紹介されてしまった。
なぜだろう?凄く違和感がある。
「この子こう見えて凄いんですよ」
するとメルロスが、ノムラさんを両手でギュッと抱えて詠唱を始める。
果たしてそれは詠唱の力なのか、押し当てられた巨乳の力なのか、むきゅー!と鳴いたノムラさんが眩く光り輝き、治療施設に向かって優しい風が通り抜けた。
程無くして施設内からどよめきと驚き、そして喜びの声が上がる。
負傷者の怪我や、病気がたちまち治り、重傷者も意識が戻ったらしい。
広範囲の回復効果。
これは中々に凄い力の持ち主だ。
さてと、そろそろいいか。
三十五人待たせているし。
「では、これから治療施設に向かう。
全員、俺に出来るだけ密集してくれ」
美女のおしくらまんじゅう状態。
おしくらまんじゅう~押されて勃つな~。
とか歌ってる場合じゃない。
【転移】
——デカス山頂・デカスドーム
テツオ邸内。
三十六人もの女性が、ズラリと一階リビングダイニングのテーブルに座っている。
一人の男が、三十六人の美女と共同生活。
いきなりとんでもない展開だ。
リリィやエリンが知ったらなんて思うだろうか?
いや、俺はあくまで彼女達の治療場所を提供しているに過ぎない。
俺の夢は終わらねぇ、ゼハハハ。
「さて、君らにはここで、心をゆっくりと癒しながら共同生活をしてもらう。
ここでは、身分も種族も年齢も関係無く、全員が平等だ。
食材や生活用品はたくさんあるが、明日からは色々な仕事をしてもらう」
全員、俺に注目している。
美女に一斉に見つめられると、緊張するが同時に興奮もするな。
テーブルに手を翳すと、テーブル上に映像が浮かび上がる。
この館の間取りと周辺の畑や各作業場のマップが映し出された。
魔石を応用するとこういう事も出来るのだ。
まず、各階の部屋の説明をし、全員に個室と仕事を振り分けていく。
まずは農業部門。
食材はたんまり貯蔵されているが、新鮮な食材が毎日食べたいので、野菜や果実などの畑を管理するグループ。
実際の力仕事や水質管理は、人型タイプのゴーレムが担当するから、彼女達はあくまで管理でよい。
次に、貴族や王族もしているという、髪やネイル、肌などを手入れする美容管理部門。
そして、彼女達や俺が着る為の服や下着を作る服飾裁縫部門。
とりあえず今は、この三部門を設立した。
別に俺が全て用意出来るから、何もしなくていいんだが、暇な時間を過ごすのは辛いだろう。
俺が居ない間の料理、掃除、洗濯などの雑務は、彼女達が話し合ってやっていけばよい。
「もし何かあれば、このピクシーのピピが対応する。
ピピを通じて俺に連絡が繋がるようになっている。
最初は慣れないだろうが、皆んな協力して過ごしてくれ」
「ピピ二、任セトケ」
ピピは、他に住人が大勢来て嬉しそうだ。
一匹で寂しかったのだろう。
「メルロスさんも少しの間、ここで彼女達のまとめ役というかサポートお願いします。
えっと、今から敬語を止めても大丈夫ですか?」
紳士はちゃんと確認をとる。
「はい、もちろん大丈夫です。
貴方は、私のご主人様なのですから」
ご、ご主人様……
なんだ、
この淫靡で高まる呼び方は?
「では、宜しく頼む。
眼鏡と時計を渡すから身に付けてくれ」
メルロスはいずれパーティに入る可能性もある。
とりあえず、こんなとこかな。
「ふかふかのベッドに美味いメシと飲み物。
今夜からは快適な生活が送れるだろう。
みんな、ゆっくり休むように」
「はい、ありがとうございます」
三十六人が一斉に可愛い声で返事する。
女子校気分だ。
たまりません。
リビングにある壁一面の嵌め殺し窓からは、すでに闇夜が広がり満天の星が輝いていた。
もう、七時か……
リヤドが待っているかもしれない。
後は、メルロスに任せておけば大丈夫だし、【転移】してクランに一旦戻ろう。
——【北の盾】クラン・ホーム
盾印の鉄細工があしらわれた玄関扉を開けた途端、カンテが血相を変えて俺に掴みかかってきた。
「せいっ!」
「グボァッ!」
ついカウンターの正拳突きをクリティカルってしまった。
カンテは突っ伏したまま、慌てふためく。
「イテテテツオさん!団長がっ!
団長がっ!」
ど、どうした!
まさか急に容体が……?
というか、台詞に俺の名前を混ぜ込むんじゃないよ!
「目を覚ましましたぁ!」
吐血しながら叫ぶカンテをそのまま放置し、急ぎ医務室へ駆け付ける。
目を覚ましてくれた!
やった!よかった!
医務室の扉を勢いよく開け、ベッドを見ると上半身を起こしたソニアが俺に気付いた。
周りにはヴァーディやリヤド、あと年季の入った強面爺さんがいる。
「テツオ……」
団長が微笑んでいる。
団長に笑顔が戻った。
それだけで、このホーム全体に光が満ちている気持ちにさせる。
「団長、……良かったどす」
やべっ、嬉しくて噛んでしまった。
「リヤドに全て聞いた。
テツオ、よくやってくれた。
私を救う為に、わざわざエルフの国にまで行ってくれたんだってな」
あんまり新入りが目立つのは良くない。
「全ては団長の人徳と天運の為せる事。
私はその天命の大流に従ったまででございます」
「……プッ。
ハハハハハ!
テツオは面白い奴だな!」
大笑いされた。
いつも厳しい顔をしているけど、実は無理をしているのかも知れない。
笑うと可愛いただの女性に戻るな。
「今回、ギルドから特別に沢山の報酬をいただきました。
今夜、団長の快気祝いとして、そしてテツオの歓迎会として、宴会を開きましょう」
リヤドが話題を変えると、ヴァーディが続ける。
「いや、もう準備は出来てるぜ!
団長の好きな酒もちゃんと用意してある。
腹減っちまった。
爺様、早く行こうぜ!」
爺さんは、儂まだ挨拶しとらんぞ、とか言いながら、ヴァーディに背中を押され出て行ってしまった。
回復したばっかりの人間にすぐ酒を飲ませるのってどうなの?
——ホーム・食堂
トントン拍子で宴会の流れになってしまい、五十人近くの団員達が食堂に集まっていた。
クランには百人以上の団員が在籍しているが、半分は任務中で街に居ないようだ。
それでも、こんなに見た事無い人達が大勢いると、それだけで緊張してしまう。
既に、ヴァーディやカンテ、若い団員達は、食堂から繋がっている外庭で、焚き火を囲むように円を作り、陽気な音楽に合わせて踊っている。
まさにドンチャン騒ぎだ。
…………踊るとか絶対無理だ。
俺のテーブル席の横には、さっき医務室にいた爺さんが、ぐびぐびとエールの入ったジョッキで豪快に飲んでいる。
顔は日に焼けて黒く、いくつもの古傷が刻まれ、眼光は途轍もなく鋭い。
一言で言えば、怖い。ヤバい。臭い。
一言で収まらない。
「新入り飲んでるか?」
ああ、とうとう絡まれた。
これが、地獄の始まりかも知れない。
「儂は副団長のモーガンだ。みんなは爺様と呼ぶがな。
儂ゃ、ソニアの爺さんが団長の頃からこのクランにおる。
金等級だったソニアの親父カスパーは、この街でずっと貴族の犯罪を探っていた。
忘れもせん十年前、カスパーは死んだ。
崖から転落死したとか言われたが、あいつは魔道具の浮遊靴を履いとる。
誰もが殺されたと分かっとった。
お前さんは今日、カスパーの仇を討ち、盾の誇りを取り戻す最高の仕事をしてくれた。
カスパーに代わり感謝する!」
気がつくと周りが徐々に静かになっていった……
なんか全員が俺と爺様の方を見ているような……
食堂正面の団長席にいるソニアが、ガタッと立ち上がる。
「今日カスパーの悲願は遂に達成した!
前団長カスパーに!」
グラスを高々と掲げて献杯する。
「「カスパーに!!」」
団員もソニアに続く。
若い団員は笑顔を称え、年配団員は涙を浮かべている。
ソニアは更にグラスを掲げる。
「新団員のテツオに!」
「「テツオに!!」」
ヤバい、こういうのめちゃくちゃ恥ずかしくて照れるし、困る。
それを察してくれたのか、リヤドが大声で盾コールを始めた。
「盾!盾!盾!」
盾コールの熱気に包まれ、音楽隊が曲を奏でると、全員が歌い始めた。
【北の盾】の団歌だろう。
歌を知らない俺は、何か食べようとテーブルに目を移す。
ちょっと遠い大皿に乗った串焼きに手を伸ばすと、横からひょいと串を渡された。
「あ、ありがとう」
横を観るといつのまにか銅等級の女の子がニコニコと座っていた。
「あたし、クロエって言います。
テツオ様、よろしくね!」
すると、更に後ろから黄色い声がキャッキャと騒ぎ出す。
「ちょっと、何抜け駆けしてんのよ!」
「テツオ様、今度稽古つけてくださぁい」
「もう!私も話したいのにぃ。テツオさまぁ」
若く可愛らしい女の子団員達だ。
有望な新人団員に唾を付けとこうと、近付いてきたか?
でも、ちやほやされるのは気持ちいい。
大勢の女性にガンガン話掛けられるのは、俺の性格上ちょっと戸惑うが、嬉しいものは嬉しい。
それより、その輪に入れず後ろでモジモジしている引っ込み思案な女の子が点数高くて気になる。
「静かにせんか!
テツオが困っとろうが!」
俺は全然困ってないのに、隣でジジイが怒鳴り散らす。
エールが混じった口臭が漂ってきてヤバい。臭い。怖い。
一人一人じっくり話をしたかったが、爺様の圧で、蜘蛛の子を散らすかの様に女の子達は逃げていった。
恨むぞ、ジジイ。
ふと周りを見渡すと、団長と目が合った。
ソニアが俺に向かってクイクイと親指を振り、扉の外へ向かうようジェスチャーをする。
団長様のお呼び出しだ。
はっ、只今!
エルメスと同じエルフだが、メルロスの方が遥かに巨乳。
身長はエルメスよりちょい低いが、リリィより全然高い。
薄い白金色の長髪で、優等生タイプの真面目そうな清純派というのか、眼鏡が似合いそうなぱっちりお目目のスーパー美女だ。
うん、一生お仕えしてほちぃ。
ん?
俺にしか見えないかも知れないが、メルロスの肩に、まん丸フォルムの真っ白な土竜みたいな何かが乗っていた。
数本の髭が生えた丸っ鼻がピョコピョコ動き、つぶらな黒い瞳でキョトンと俺を見ている。
なんだ、コイツは?
というかモフモフで可愛い。
「あら?
もしかしてこの子が見えるんですか?」
「あ、はい」
「私に力を貸してくれてる土精霊です。
父の様に真の力を引き出せないので、小動物の様な見た目ですけど。
モグラのノームなので、ノムラさんと呼んでます」
ノ、ノムラ?
モグとかモムとかじゃなくて、ノムラ?
ニコッと自信満々に紹介されてしまった。
なぜだろう?凄く違和感がある。
「この子こう見えて凄いんですよ」
するとメルロスが、ノムラさんを両手でギュッと抱えて詠唱を始める。
果たしてそれは詠唱の力なのか、押し当てられた巨乳の力なのか、むきゅー!と鳴いたノムラさんが眩く光り輝き、治療施設に向かって優しい風が通り抜けた。
程無くして施設内からどよめきと驚き、そして喜びの声が上がる。
負傷者の怪我や、病気がたちまち治り、重傷者も意識が戻ったらしい。
広範囲の回復効果。
これは中々に凄い力の持ち主だ。
さてと、そろそろいいか。
三十五人待たせているし。
「では、これから治療施設に向かう。
全員、俺に出来るだけ密集してくれ」
美女のおしくらまんじゅう状態。
おしくらまんじゅう~押されて勃つな~。
とか歌ってる場合じゃない。
【転移】
——デカス山頂・デカスドーム
テツオ邸内。
三十六人もの女性が、ズラリと一階リビングダイニングのテーブルに座っている。
一人の男が、三十六人の美女と共同生活。
いきなりとんでもない展開だ。
リリィやエリンが知ったらなんて思うだろうか?
いや、俺はあくまで彼女達の治療場所を提供しているに過ぎない。
俺の夢は終わらねぇ、ゼハハハ。
「さて、君らにはここで、心をゆっくりと癒しながら共同生活をしてもらう。
ここでは、身分も種族も年齢も関係無く、全員が平等だ。
食材や生活用品はたくさんあるが、明日からは色々な仕事をしてもらう」
全員、俺に注目している。
美女に一斉に見つめられると、緊張するが同時に興奮もするな。
テーブルに手を翳すと、テーブル上に映像が浮かび上がる。
この館の間取りと周辺の畑や各作業場のマップが映し出された。
魔石を応用するとこういう事も出来るのだ。
まず、各階の部屋の説明をし、全員に個室と仕事を振り分けていく。
まずは農業部門。
食材はたんまり貯蔵されているが、新鮮な食材が毎日食べたいので、野菜や果実などの畑を管理するグループ。
実際の力仕事や水質管理は、人型タイプのゴーレムが担当するから、彼女達はあくまで管理でよい。
次に、貴族や王族もしているという、髪やネイル、肌などを手入れする美容管理部門。
そして、彼女達や俺が着る為の服や下着を作る服飾裁縫部門。
とりあえず今は、この三部門を設立した。
別に俺が全て用意出来るから、何もしなくていいんだが、暇な時間を過ごすのは辛いだろう。
俺が居ない間の料理、掃除、洗濯などの雑務は、彼女達が話し合ってやっていけばよい。
「もし何かあれば、このピクシーのピピが対応する。
ピピを通じて俺に連絡が繋がるようになっている。
最初は慣れないだろうが、皆んな協力して過ごしてくれ」
「ピピ二、任セトケ」
ピピは、他に住人が大勢来て嬉しそうだ。
一匹で寂しかったのだろう。
「メルロスさんも少しの間、ここで彼女達のまとめ役というかサポートお願いします。
えっと、今から敬語を止めても大丈夫ですか?」
紳士はちゃんと確認をとる。
「はい、もちろん大丈夫です。
貴方は、私のご主人様なのですから」
ご、ご主人様……
なんだ、
この淫靡で高まる呼び方は?
「では、宜しく頼む。
眼鏡と時計を渡すから身に付けてくれ」
メルロスはいずれパーティに入る可能性もある。
とりあえず、こんなとこかな。
「ふかふかのベッドに美味いメシと飲み物。
今夜からは快適な生活が送れるだろう。
みんな、ゆっくり休むように」
「はい、ありがとうございます」
三十六人が一斉に可愛い声で返事する。
女子校気分だ。
たまりません。
リビングにある壁一面の嵌め殺し窓からは、すでに闇夜が広がり満天の星が輝いていた。
もう、七時か……
リヤドが待っているかもしれない。
後は、メルロスに任せておけば大丈夫だし、【転移】してクランに一旦戻ろう。
——【北の盾】クラン・ホーム
盾印の鉄細工があしらわれた玄関扉を開けた途端、カンテが血相を変えて俺に掴みかかってきた。
「せいっ!」
「グボァッ!」
ついカウンターの正拳突きをクリティカルってしまった。
カンテは突っ伏したまま、慌てふためく。
「イテテテツオさん!団長がっ!
団長がっ!」
ど、どうした!
まさか急に容体が……?
というか、台詞に俺の名前を混ぜ込むんじゃないよ!
「目を覚ましましたぁ!」
吐血しながら叫ぶカンテをそのまま放置し、急ぎ医務室へ駆け付ける。
目を覚ましてくれた!
やった!よかった!
医務室の扉を勢いよく開け、ベッドを見ると上半身を起こしたソニアが俺に気付いた。
周りにはヴァーディやリヤド、あと年季の入った強面爺さんがいる。
「テツオ……」
団長が微笑んでいる。
団長に笑顔が戻った。
それだけで、このホーム全体に光が満ちている気持ちにさせる。
「団長、……良かったどす」
やべっ、嬉しくて噛んでしまった。
「リヤドに全て聞いた。
テツオ、よくやってくれた。
私を救う為に、わざわざエルフの国にまで行ってくれたんだってな」
あんまり新入りが目立つのは良くない。
「全ては団長の人徳と天運の為せる事。
私はその天命の大流に従ったまででございます」
「……プッ。
ハハハハハ!
テツオは面白い奴だな!」
大笑いされた。
いつも厳しい顔をしているけど、実は無理をしているのかも知れない。
笑うと可愛いただの女性に戻るな。
「今回、ギルドから特別に沢山の報酬をいただきました。
今夜、団長の快気祝いとして、そしてテツオの歓迎会として、宴会を開きましょう」
リヤドが話題を変えると、ヴァーディが続ける。
「いや、もう準備は出来てるぜ!
団長の好きな酒もちゃんと用意してある。
腹減っちまった。
爺様、早く行こうぜ!」
爺さんは、儂まだ挨拶しとらんぞ、とか言いながら、ヴァーディに背中を押され出て行ってしまった。
回復したばっかりの人間にすぐ酒を飲ませるのってどうなの?
——ホーム・食堂
トントン拍子で宴会の流れになってしまい、五十人近くの団員達が食堂に集まっていた。
クランには百人以上の団員が在籍しているが、半分は任務中で街に居ないようだ。
それでも、こんなに見た事無い人達が大勢いると、それだけで緊張してしまう。
既に、ヴァーディやカンテ、若い団員達は、食堂から繋がっている外庭で、焚き火を囲むように円を作り、陽気な音楽に合わせて踊っている。
まさにドンチャン騒ぎだ。
…………踊るとか絶対無理だ。
俺のテーブル席の横には、さっき医務室にいた爺さんが、ぐびぐびとエールの入ったジョッキで豪快に飲んでいる。
顔は日に焼けて黒く、いくつもの古傷が刻まれ、眼光は途轍もなく鋭い。
一言で言えば、怖い。ヤバい。臭い。
一言で収まらない。
「新入り飲んでるか?」
ああ、とうとう絡まれた。
これが、地獄の始まりかも知れない。
「儂は副団長のモーガンだ。みんなは爺様と呼ぶがな。
儂ゃ、ソニアの爺さんが団長の頃からこのクランにおる。
金等級だったソニアの親父カスパーは、この街でずっと貴族の犯罪を探っていた。
忘れもせん十年前、カスパーは死んだ。
崖から転落死したとか言われたが、あいつは魔道具の浮遊靴を履いとる。
誰もが殺されたと分かっとった。
お前さんは今日、カスパーの仇を討ち、盾の誇りを取り戻す最高の仕事をしてくれた。
カスパーに代わり感謝する!」
気がつくと周りが徐々に静かになっていった……
なんか全員が俺と爺様の方を見ているような……
食堂正面の団長席にいるソニアが、ガタッと立ち上がる。
「今日カスパーの悲願は遂に達成した!
前団長カスパーに!」
グラスを高々と掲げて献杯する。
「「カスパーに!!」」
団員もソニアに続く。
若い団員は笑顔を称え、年配団員は涙を浮かべている。
ソニアは更にグラスを掲げる。
「新団員のテツオに!」
「「テツオに!!」」
ヤバい、こういうのめちゃくちゃ恥ずかしくて照れるし、困る。
それを察してくれたのか、リヤドが大声で盾コールを始めた。
「盾!盾!盾!」
盾コールの熱気に包まれ、音楽隊が曲を奏でると、全員が歌い始めた。
【北の盾】の団歌だろう。
歌を知らない俺は、何か食べようとテーブルに目を移す。
ちょっと遠い大皿に乗った串焼きに手を伸ばすと、横からひょいと串を渡された。
「あ、ありがとう」
横を観るといつのまにか銅等級の女の子がニコニコと座っていた。
「あたし、クロエって言います。
テツオ様、よろしくね!」
すると、更に後ろから黄色い声がキャッキャと騒ぎ出す。
「ちょっと、何抜け駆けしてんのよ!」
「テツオ様、今度稽古つけてくださぁい」
「もう!私も話したいのにぃ。テツオさまぁ」
若く可愛らしい女の子団員達だ。
有望な新人団員に唾を付けとこうと、近付いてきたか?
でも、ちやほやされるのは気持ちいい。
大勢の女性にガンガン話掛けられるのは、俺の性格上ちょっと戸惑うが、嬉しいものは嬉しい。
それより、その輪に入れず後ろでモジモジしている引っ込み思案な女の子が点数高くて気になる。
「静かにせんか!
テツオが困っとろうが!」
俺は全然困ってないのに、隣でジジイが怒鳴り散らす。
エールが混じった口臭が漂ってきてヤバい。臭い。怖い。
一人一人じっくり話をしたかったが、爺様の圧で、蜘蛛の子を散らすかの様に女の子達は逃げていった。
恨むぞ、ジジイ。
ふと周りを見渡すと、団長と目が合った。
ソニアが俺に向かってクイクイと親指を振り、扉の外へ向かうようジェスチャーをする。
団長様のお呼び出しだ。
はっ、只今!
0
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる