時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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カース

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 宙に浮いたカースの目が青く光る。

 床一面、一瞬で影に覆い尽くされた。
 そこから黒い触手がシュルシュルと大量に湧き出し、【北の盾ノールブークリエ】のメンバーに襲い掛かる。

 カースはもう次の攻撃モーションに入っていた。
 まずいな、団員達は触手に気を取られ、全く気付いていない。
 急がないと!
 自分に迫った触手を弾き、すぐさま【光魔法:光の加護ライトフォース】を団員とソニアに向けて放つ。

「【影の捕食シャドウイーター】」

 カースの影の波動が、前方向へ放射状に放たれる。
 間一髪、【光の膜】が先に団員達を包み込んだ。それでも!

【転移】

 俺はカースの背後に移動し、なんとか回避できたが、団員達はまともに魔法を浴びてしまった。

 何やってんだよ、俺は!

 人を守る戦いを今までしてこなかった事が、大きなハンデとなっている。

 カースの魔法は、対象の生命力、魔力を吸い取る効果があり、直撃した団員全員が意識を保つ事が出来ず倒れてしまう。

 もし【光の加護】でダメージを減少できなかったら、影に取り込まれ即死もあり得たかもしれない。
 倒れた団員の周りに展開する【光の膜】を壊そうと、今も影の触手がまとわりついている。

 腕を斬られた筈のカースが、全快しているところを見ると、恐らくグエンバンドルスの団員達はその影に取り込まれ、回復の為に既に吸収されてしまったのだろう。

 【光の膜】を浸食によって壊される前に、こいつを倒す必要があるが、守りながらでは正直ジリ貧だ。
 いよいよ、あいつの力を借りる時が来たな。

「【召喚サモンヴェリアス】」

 ああ、なんかこういうのって男の憧れかもしんない。
 俺の影の中から、黒髪前下がりボブでお馴染みベルがズズズ……と現れた。
 白の襟シャツ以外は全て黒尽くしのハーフベストにミニスカートにヒール。
 エロかっこよくてドキッとする。
 性欲は恐怖に勝つ。

「すいません、ご足労掛けちゃいまして」

「ふざけた奴だ」

 丁寧に労ったつもりだが、ベルに無表情のままスルーされる。
 何で?

「で、アレはやっぱり悪魔……なのか?」

「ああ、かなりの上位魔族だ」

 やっぱり!
 ちゃんと答えを教えてもらえたらスッキリするなぁ。
 ずっと【解析】してるのに全然見れないし、モヤモヤしてたんだよね。


 ——ククククク


 カースが静かに笑う。
 それだけなのに威圧感が凄い。
 肌がビリビリする。

「使い魔を呼ぶ、か。
 貴様一人だけ異質な力を感じていたのだ。
 街にいるクランの人間は、全て調査済みだが……貴様は誰だ!」

 再びカースの目が青く光ると、全身影となって俺に目掛けて一瞬で飛んでくる。

 突如、横にいたベルが、俺の目前に巨大な鎌を振り下ろす!
 危ねっ!
 が、その鎌はパリィンと高い金属音を残し、砕け散った。

 動きが一切止まる事なく、迫りくる影の中から、俺の喉元を狙い、手が伸びてくる。

時間遅行クロノスラグ

土魔法:水晶剣クリスタルソード

 迫る手を次々と斬っていく。
 しかし、どういう事だ。当たった瞬間、俺の剣まで粉々に砕け散る。
 ホント、どういう事だよ、これ?

 一旦、ベルの意見が聞きたい。
 他の攻撃もしつつ、距離を取ろう。

光魔法:光の矢ライトアロー

 ベルの腰に手を回し、入り口付近まで一気に移動する。
 腰の細さがあの夜を思い出させる。
 これは淫魔のせいで、決して俺がエロいせいではないだろう。
 時流が戻り、カースに無数の矢が刺さり、小爆発を繰り返す。

「ベル、攻撃が効かないぞ?」

「私より上位の悪魔には、そもそも私の攻撃は効きにくい」

「じゃあ、俺の剣が効かないのは何でなんだ?」

「来るぞ!」

 爆煙が晴れ、徐々にカースの姿が見えてくる。
 俺の光魔法もあまり効いていないようだ。

 カースはまたも、影になって突っ込んでくる。

【時間遅行】を再度発動するには、数秒のクールタイムが必要だ。
【時間遡行】なら常に発動可能だが、倒せるという明確な突破口が無いとすれば、いくら戻したとて意味が無い。

 カースの絶え間ない猛攻を躱しながら、かつてエリンと戦った時の事を思い出す。
 時間を戻しても全然ダメージを与えれず勝てる気がしなかった。
 あの時の霧が、今回、影に変わっただけじゃないか。
 ん?つまり、影は何かしらの【自動魔法パッシブ】か?

 強い魔法を撃とうにも位置を気にしないと、牢にいる女性達に被害が及んでしまう。
 カースもそれを気にしてるのだろうか?
 基本、近接攻撃しかしてこない。

 そこに突破への糸口があるかもしれない。

 カースは、影を伝う瞬間移動を繰り返しながら攻撃をしてくる。
 それは俺の【転移】より圧倒的に早い。
 それを躱しながら、光の付与をした水晶剣でちまちまとダメージを与えていく。

 ベルが団員達を取り巻く触手を刈り取ってはいるが、四人分をケアしきれず、このままじゃいずれ団員達が吸収されてしまう。

 カースもそれが分かっているのだろう。

 ベルが俺の背後から話しかけてくる。

「エリンから貰ってきた魔力が尽きて、もう消えそうだから言っておく。
 もしもだが、私が、あいつの魔力を上回る事が出来るなら倒せるかもしれない」

「お前、もっと早くそれを言えよ」

「そんな暇ないだろう!」

 そんな可能性があるのなら、それに賭けるしかないか。
 団員達の体力も限界が近い。

時間遅行クロノスラグ

 時流を遅くし、ベルの後ろに回り込み、両胸に手を当てて魔力を注ぎ込む。
 別にどこからでもいいんだけど、女性の身体を触るとして一番集中出来そうな箇所といえば?と、二十代男性百人にアンケートをとれば、一位は間違いなくおっぱいだろう。
 だから、俺は今一番集中出来る状態で魔力を注いでいるんだ!と声高らかに宣言出来る。

 お願いします!ベルさん!
 時間が操れる俺なのに、時間が無いんです!

 もっと集中出来そうな気がしたから、後ろから首筋や耳にキスをする。
 ああ、いい匂い……乳首硬くなってきたかも……たまらん。
 あ、キスに夢中になりすぎて魔力が滞った。

 ——時流を戻す

 無駄に多い俺の魔力だが、五万も注ぎ込む前に入りきらなくなった。

 悪魔が異変を感じたのか、動きを止める。

「な、なんだこの膨大な魔力は!」

「すごい」

 ベルも、自分の中に溜まった魔力量に驚愕している。
 身体から禍々しい魔力が溢れている。

「ば、馬鹿な!」

 初めて。
 今まで崩す事の無かった余裕の仮面が遂に外れ、カースが初めて焦りの表情を見せた。

 危機感からかカースが、こちらへの攻撃を中断し、牢の女性に向けて影を伸ばす。
 監禁されている女性達から魔力を吸収するつもりだ!
 そうはいくか!

土魔法:幻鉱石の壁ガルヴォルンウォール

 牢を俺が現在知り得る一番硬い鉱石の壁で完全に防ぐ。
 影の波動にもカースの拳にも、ビクともしない完全高耐久の安心設計で提供致しております。

「なんだ!この壁はぁっ!」

 どうやら、カース自身への攻撃であれば破壊される【自動魔法パッシブ】が発動する仕組みだったか。
 これ以上、俺の女性達を傷つける事は絶対に許さない。

「くっ、ならばっ!」

 影がニューッと伸び、光の膜に守られている団員達に狙いを変える。
 そりゃ悪手じゃろ、アリンコ。

 実体化したカースの胸を、背後から瞬間移動したベルの手が突き抜けた!
 カースの目の前に、背中から突き抜けたベルの腕が伸びる。
 その手に握られた黒い心臓が、ドクンドクンと脈動を刻む。
 グロい。

「アハァ、気持ちいいぃぃ」

 ベルがトロンと恍惚の表情を浮かべる。
 やだ、こいつ。
 目がイっちゃってるよ。

「ま、待て!
 貴様らの命は助けよう」

 悪魔が不思議な命乞いをしている。

「はぁ?何言ってんの?
 テツオ、もう潰していい?」

 心臓をギチギチ締め付けながら、イラついている。
 ベルもやっぱり悪魔なんだな。
 めちゃくちゃ怖い。
 なんだこの光景。

「儂は、魔界の侯爵マモンだぞ!
 知らんのか!?
 儂を殺せば多くの魔族が、貴様らに災厄を齎すであろう!
 儂を見逃せば、巨万の富を永遠に約束しようではないか!」

 儂々、煩いな。
 悪者ってなんでどいつもこいつも、死に際になってから悪足掻きをするんだろうか?

 俺の脳裏に、魔族に苦しめられたたくさんの大切な人達が思い起こされる。
 ソニア、アマンダ、ナティアラ、【北の盾】関係者の方々、ドルス……は違うか、ブレイダン、そして、リリィ!

 あ、もうキレた。

 具現化させたガルヴォルンソードを持って、ツカツカとマモン侯爵ことカースに近付く。
 その迫力に気圧されたのか、ベルが心臓を握ったまま胴体から手を抜く。

 支えを失ったカースはフラフラとよろめき、テツオの前に跪いた。

「お前は俺に殺されるべきなんだ!
 バカ野郎ー!」

 一閃、首を刎ねる。

 てめーは俺を怒らせた。

 殺人を犯したドス黒い感覚が残る。
 思わず怖くなって手が震え、床に剣を落とした。

 金髪イケメンの生首が胴体から離れ、ゴロゴロ転がり止まると、次第と鳥の頭に変化していく…………
 これがカースの正体?
 鳥やん。

 白い鸚鵡の容貌に、目がギョロギョロ動き、嘴がパクパクと開くと、クツクツと笑い出した。

「随分、楽しまセテ貰ったヨ。
 コノ三百年、人間にハ、儂が授けた悪しき強欲ガ、しっかリと根付いタ。
 儂にハ、分かル。
 魔族ガ手を下さずトモ、いずれ貴様ラ人間は、お互いに殺シ合イ、滅ビルだろウ」

 気絶している貴族のエリックを見て、確かにマモンの言う通りかもしれないなと怖くなった。
 人間は悪魔になれる。

「黙れ!」

 ベルがグシャッと心臓を握り潰すと、珍しく俺の目を真っ直ぐに見る。
 目を合わせてる間に、鳥頭と胴体が黒い塵となって消えていった。

悪魔デモンは人の心の隙間に入り込むのがとても上手い。
 鵜呑みにしない事だ」

「ははっ、悪魔のベルがそれを言うのか?」

 ベルは手に持った黒い玉を俺に投げると、ふぅ……と呆れた様に溜息一つ吐き、身体が透明になって消えていった。
 完全に消える直前、ベルが微笑んだ気がしたが、ホント毎回消える度に、俺をドキッとさせるのやめてほしい。
 もしかしてだけど、俺に惚れてるんじゃないの?

 黒玉を手でキャッチすると、ビチャッと残り血が俺の顔に飛び散る。
 イテッ、目に入った!

 え?
 これ感染しないよね?


 ——マモン討伐完了。
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