時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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グエンバンドルス

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 下の階に到着すると、やたら長そうな一本道にぶつかった。
 運搬に使われていただろうトロッコ用の線路が、ずっと先まで続いている。

 それを辿り、ひたすら奥へ向かうと、一際広いエリアに到着した。
 天井まで5メートル、奥行きは50メートルくらいだろうか。
 ここで、金を大量に採掘していただろう当時の面影を残したまま、時間が止まっていた。
 年季が入って錆び付いた大量の道具類が、今もずっと放置されている。

 離れた場所からもそれが分かるのは、松明がいくつも焚かれ明るいからだ。

 人の気配はするが、何処にも見当たらない。
 どういう事だ。
 隠れているのか?

「団長、気配はずっとしています」

 一応、団長に警戒を促しておく。

「ああ、分かっている。
 だが、どこだ?」


 ——ハーッハハハハ!



 突如、下卑た笑い声が響く。

「ようこそ、【北の盾ノールブークリエ】!
 わざわざ、こんなところまではるばる殺されに来やがって、どうもありがとう!」

 声がした方向へ全員が振り向き、警戒するがそこには誰もいない。

「おい、出てきやがれ!腰抜け野郎!」

 ヴァーディが苛つき叫ぶ。
 はい分かりました、と出てくる阿保がいると思ってるのか?

「腰抜けだとーッ?
 誰に言いやがる!
 いいだろう!
 野郎ども、全員出て来いやぁっ!」

 男の号令に合わせ、影からズズズ……と二十人以上のグエンバンドルスの構成員達が姿を現した。

 ……馬鹿なのか、こいつらは。

 不意打ち、闇討ち、騙し討ち、何でもありの絶対有利な勝ちパターンをドブに捨て、伏兵も残さず全員登場してしまった。
 そもそも、なんで笑った?
 敵に存在をアピールする意味が分からない。
 笑い堪えるの我慢できなかったのか?
 阿保過ぎて頭が痛くなってきた。

「盾共、たった五人で来たってのか?
 舐めやがって!
 おい、皆の衆やっちまえー!」

「集中しろ!【絶対防御アブソリュートガード】!」

 ソニアの指示で、入り口付近まで位置を下げ、前方からの敵にのみ対応出来るよう布陣を整える。
 後は各個撃破を続けながら、徐々に数を減らしていった。
 俺は戦うどころか、まだ何もしていない。
 何もする必要がないくらい、このパーティの連携は見事だった。
 この男達は、銀等級シルバーでもかなり上位なのかもしれないな。

 それにひきかえ、グエンバンドルスのこいつらときたら…………
 統制が取れてないと、ここまでお粗末なものなのか。
 ボス以外、全員を難なく撃破した。、
 切れたりもげたりした手足が散らばっているが、命までは奪っていないようだ。
 流石は、団長の部下達。
 余計な殺生はしない指示をきちんと守っている。
 でも、このまま放っておいたら、出血多量で死ぬんじゃないか?
 まぁ、俺には関係ないが。

「な、なんだと?
 こんなに差があるってのか?」

「おい、ドルス。
 攫った女性達はどこだ?」

「ひぃっ!言うっ!言うっ!
だから、命だけは助けてくれぇーい」

 リヤドに剣を突き付けられ、クランのボスは両手を上げ、あっさりと降参した。
 自分の命がなにより大事らしい。
 構成員の人数はこちらの四倍以上、一人一人は決して弱くなかった。
 自分の本名を、そのままクラン名に登録するくらい阿保なこいつが、全て悪い。

 ドルスが、壁際に近付き手を翳すと、壁一面が瞬時に消え、奥に隠し部屋が現れた。
 なるほど、そういう仕掛けがしてあったのか。

 ————そこには牢があった。
 こんなところに…………
 両手で足りないくらいある牢の中には、何十人もの若い女性が囚われていた。
 かなり劣悪な環境だったのが分かる。
 入ってきた我々を見て、すすり泣く者、助けを叫ぶ者、喜ぶ者。

「こ、こんなに」

 女性の惨状を見て驚愕するソニアや団員達。
 ヴァーディの握り拳がブルブルと震え出す。

「おい、何やってんだコラァ!」

 ドルスに掴みかかり、思いっきりぶん殴った。
 血と同時に何本かの歯が、地面に飛び散る。

「ヴァーディさん!死にますって!」

 リヤドとカンテが、ヴァーティを羽交い締めにして止めるが、まだ怒鳴り続けている。

 気持ちは分かる。

 魔族とか悪魔なんて関係ない。
 人間だって、悪魔になれるじゃないか。

 俺の中で、何かが湧き上がるのを感じた。
 殺した方がいい人間も世の中にはいるのかもしれない…………
 こいつは死んだ方がいい人間だ。

 突然、団長が俺の両肩をガシッと掴み、真剣な眼差しを向ける。

「我がクランは、何があろうと絶対に殺人はしない。
 テツオ、守れるか?」

 どうやら、相当酷い顔をしていたみたいだ。
 放っておいたら、このまま人殺しをしてしまうと思われたのだろうか?
 透き通る真剣な目には、説得力があった。

「……はい、守ります」

 ソニアが優しい顔で、俺に微笑んだ。
 団長の慈愛が、俺を踏み留まらせてくれた。

「よしテツオ、全員を救助だ」

 そう言った矢先、ソニアの顔が苦悶に歪み、俺の胸に向かって血を吐く。

「え?」

 俺の肩に乗っていた手から力がみるみる失われ、ズルリと倒れゆくソニアの背後から、男の顔が現れた。
 全く気配を感じさせず突如現れたその男は、俺を直視している。
 長めの金髪に、青い目の優男。
 片手に、血の付いた短剣を持っている。
 その顔には何の感情も読み取れない。
 この無表情はどこかで見た事がある。
 俺は暫し、呆然としていた。
 他の団員まで気が回らない。

「こんだけの女集めるのに、どんだけかかったと思ってんだよぉー。
 こんなとこまで、あっさり乗り込まれやがってよぉー」

 突然、部屋の壁際から、イラついた声が聞こえてきた。
 暗くて良く見えないが、松明の灯りが風で揺らめき、男の顔を一瞬だが照らす。
 長くうねった前髪を、気持ち悪く垂らした灰色の髪から、そばかす混じりの細い目が覗く。
 滲み出る表情はとても下品だ。
 こんな低俗な奴でも貴族なのか?

 そもそも、こいつら、いつの間に現れたんだ?
 まさか、俺の様に【転移】してきたのか?

 とにかくソニアに【回復魔法】を掛けなければ!
 死なせる訳にはいかない。

 すると、後ろで固まっていたカンテが口を開いた。

「あいつ、ジョンテ家の次男坊エリックだ。
 こいつが黒幕?」

「あー、バレちゃったかー。
 俺ってば、有名人だからなー。
 やっぱ、街のクランは使えねぇな。
 最初から全部、お前に頼めば良かったよ、カース」

 エリックという名の貴族が、脇に抱えていた荷をドサッと降ろす。
 暗くてよく見えなかったが、若い女性のシルエットだ。
 また新たに攫って来たのだろうか?

 ん?

 見覚えのある背格好に……青く長い髪?

 まさか、まさか!?
 そんな!

 リリィ!!!

 何で?

 頭が混乱する!
 こんなとこにいる訳がない!


 駆け付けようと前に出ると、カースと呼ばれた男が行く手を阻む。

「どけっ!」

 強めに魔力を込めて殴る。
 俺の右拳を、左手であっさり受け止めた。
 貴族なんかじゃ絶対に止めれない威力なのに、だ。
 こいつは、只者じゃない。

「こいつらは殺していいのか?」

 カースが、後ろにいる貴族の次男坊とやらに確認をとる。
 この余裕が不気味だ。

「も、もちろんこいつらは誰一人として生かして帰せない。
 まだ街には狙ってる女がいるんだからな」

「ふふふ、欲深い人間は本当に面白い」

 口では笑っているが、カースの目は笑っていない。

「テツオ、後退し陣形に戻れ!
 連携だ!」

 後ろからリヤドの声がする。
 俺が後ろに飛び退いたのと交差するように、リヤドが前に出る。
 そのスピードは迅速で、既にカースに迫っていた。

 カースは、口元に余裕の笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
 構えるまでもないというのか?

 リヤドの素早い剣撃を、カースは短刀であっさり受け切る。
 そこに、カンテが胴へ、槍を突く。
 カースは最小限の動きで躱すが、足元にいつのまにか植物の蔓が巻き付いていた。

「【植物魔法】だ!」

 カンテの魔法で、バランスを崩したカースに、再度リヤドが迫る。

「【超加速スーパーアクセル】!」

 先程の剣速は囮とばかりに、凄いスピードで、短刀を持った手首ごと切り落とした!

「ナイスリヤド!喰らえ【爆斬撃バーンストライク】!」

 ずっと力を溜めていたヴァーディの渾身の一撃が、カースの左肩口に直撃した。
 どれだけの力があれば可能なのか、カースの左腕を肩ごと、バターの様に切り落とす。
 決まった!
 カースが、その場に崩れ落ちた。

 彼らの強さは、状態異常やスキル、魔法を効果的に絡めた、卓越した連携力にあるだろう。
 この男は相手を舐め過ぎた。

 その隙にリリィに近付き、【回復魔法】を掛ける。
 上半身を抱き上げて起こすが、どうしてか目を開けない。

 腕の魔石時計を見ると、ゴーレムは未発動だし、アラームが鳴った形跡もない。
 リリィ程の猛者を、一瞬で気絶させたのだろうか?


「お、おい!カース、嘘だろ?おい、カース!」

 エリックが慌てふためき、倒れているカースに必死に声を掛けている。

「うるせぇ」

 ヴァーディが大剣を横薙ぎして、エリックの両足首を切断した。

「ぎ、ぎゃああぁああいああ!
 あ、あひぃいいいぃ!」

 両あひという支えを失ったエリックは、床ペロ状態で情け無い悲鳴を上げている。

「へっ、もっとうるさくなっちまったか。
 安心しろ、俺らは殺しはしねぇ」

 団員にいいとこ持っていかれたが、これで任務達成か。

 ……ん?カースがいない!

 入り口付近で倒れてたグエンバンドルスの構成員達もいないぞ?

「おい、お前の部下はどこに消えたんだ!」

 ヴァーディが、ドルスを蹴飛ばして詰問する。
 縄で縛られている為、無抵抗のままゴロゴロ転がり、岩で顔面を強打した。
 カンテが痛そうなジェスチャーをして、顔をしかめおどけると、ドルスが血だらけの顔で振り返り、必死に命乞いをする。
 その顔には鬼気迫るものを感じた。

「ひゃ、ひゃめろ!
 殺ひゃないでふれ!」

「さっき言ったろ!
 殺しはしねぇって」

 ヴァーティが面倒くさそうに唾を吐く。
 だが、ドルスは身体を激しく揺さぶり、半狂乱になっている。

「ひ、ひやだ!
 まだ、ひにたくな……」

 ドルスの倒れている地面の影が、広がっているような……?

「おまへら!ひげろ!影にくわへるほ!」

 え?なんて?

「影に喰われる?」

 リヤド、耳いいな。
 すると、なんと!
 ズブズブという音と共に、ドルスがまるで底なし沼にでも嵌まったかの様に、影の中に沈みだした。
 必死にもがいているが、中から影の触手が伸びて纏わりつき、完全に沈み、消えた……

「え?
 な、なんなんだよ、コレはッ!?」

 完全にビビっているカンテの背中を、リヤドが掌でバチンと叩く。

「気合い入れろ!カンテ」

 三人はフォーメーションを整え、周囲を警戒する。
 先程とは、明らかに空気が変わった。
 不気味な気配が漂っている。
 


 ————貴様らは皆殺しだ!



 影からゆっくりとカースが浮かび上がってきた。
 身動きが取れない!
 勝手に身体が震え出す。身が竦む。
 感じた事の無い恐怖。

 間違いない。
 目の前にいるこいつは、

 ————悪魔だ。
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