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グルサム金鉱山
しおりを挟むソニア率いる【北の盾】の団員達は、既に廃坑となっているグルサム金鉱山の坑道前へと到着していた。
ギルドでソニアに合流した後、すぐにパーティを組んで出発したのだ。
何でも、調査していた部下の一人が、行方不明になった女性の足取りを掴んだとの事。
新加入かつ末端の俺は、詳しく聞かせてもらってないんだが、どうやら若い貴族主催のパーティに招かれた際、その女性がこの鉱山方面へ連れていかれたと、知人男性が証言したらしい。
それ以降、彼女は二週間以上戻っていないそうだ。
俺は、その情報提供者が、彼氏じゃなく知人男性と名乗ったところに引っかかったね。
そして、この証言の信憑性は確かなものだと断言しよう。
もしも、この男が彼氏だとしたら、すぐに鉱山内へ追いかけたり、ギルドや冒険者にすぐ助けを求めたりする筈だ。
なのに、この知人男性は二週間何もしていない。
それなのに、足取りは知っている。
つまり、こいつは常日頃からこの女性に付きまとう、または後をつける気持ち悪いストーカーって訳さ。
自分の命可愛さに、今まで報告すらしないこんなクズ。
後で、情報提供報酬の百ゴールド小金貨を握り締めた拳で、殴ってやりたい気分だ。
だが、この男に一日もかからず辿り着いた、【北の盾】団員の迅速な行動力に感服する。
——グルサム金鉱山跡・坑道前
さて、坑道入り口の門前ではトラブルが発生していた。
門兵の二人が中へ入れてくれないらしい。
これいかに?
「これはこれは、サルサーレが誇る盾の皆さんお揃いで。
どうされやした?」
ヘラヘラ笑いながら門兵が話しかけてくる。
団長のソニアが応える。
「人探しをしていてな。
この洞窟を調べさせて欲しい」
「ひひひっ。
ここは跡地と言えど、貴族指定の金鉱山なのは知ってらっしゃるでしょう?
いくら盾の皆さんといえども、お通ししたら、あっしの首が胴から離れらぁ」
「ちげぇねぇ。
へへへ…………」
不遜な態度で取りつく島もない。
俺の出番か?瞬殺ですよ?
するとソニアの横から、鷹のように鋭い目をした男性団員ヴァーディが躍り出た。
「おい、お前らグエンバンドルスの構成員だろ?ブチ殺すぞこの野郎」
胸を押し当てて威嚇する。
負けじと門兵も胸を突き返す。
「おう、だったらなんだ?
やんのかこの野郎。
手ぇ出したら戦争だ、馬鹿野郎!」
いきり立ってはいるが、門兵も手は出さない。
気になって隣にいた鼻のデカい青年団員リヤドに話を聞くと、クラン同士の抗争は場所によってはご法度らしい。
そこへソニアがさっと手を上げる。
すると、後ろにいた背の高い最年少団員カンテが、門兵に見えるように羊皮紙を広げた。
何だこれ?
「これはギルド本部から正式に出た捜索許可証だ。
我らには捜査権限がある。
通してもらおうか?」
ソニアが俺にも門兵にも分かり易く説明してくれた。
「へっ、ここは俺達の縄張りだ。
中に入るなら覚悟しな。
ここから一歩入れば、もう殺されても文句言えねぇぞ」
「そちらも覚悟する事だ」
なるほど、縄張りに入られるのと、捜査を邪魔されるのと、どちらのクランにも大義名分が成立する訳だ。
つまり、こういうパターンならお互い手を出してもいいって事ね。
なんか面倒なんだな。
でも、人間同士が簡単に殺し合わない様にするこの国の法律なんだろう。
とか、考えていると鷹の目ヴァーディがドンと門兵を突き飛ばす。
「おい、そこはもう門の中だよな?」
「このや……」
既に門兵の腹には、拳がめり込んでいた。
「ぐぅおおぉお……てめぇ……」
口から血を吐き翻筋斗打って倒れた。
殺してないよね?
「くっ、貴様ら覚悟しろよ!」
流れる様にリヤドが、もう一人の門兵を縛り上げる。
中にいる仲間に報告させない為だ。
「ヴァーディ、無駄な殺生はするなよ。
我々の目的はあくまで行方不明者の救助だ」
「へいへい」
おい、なんだ!俺の団長に向かってへいへいとは!
この鋭い目つきの男ヴァーディは今後要注意だな。
————————
坑道内を進んでいく。
坑内は薄暗いが、団員全員が魔石灯ランタンを所持しているので、周囲は一定の明るさが保たれている。
大きな盾を持つソニアと片手剣と片手盾を持つデカ鼻リヤドが先頭を歩き、次いでやたら大きい両手剣を持つヴァーディが二列目、後列に槍を持つ背が高いカンテと俺が並んで歩く。
鉱山跡だから何本も掘り進めた穴や道があり、迷宮の様に入り組んでいた。
運搬トロッコ用の線路もボロボロで、土に埋もれている。
長年、放置されていたせいか魔物が巣食うようになったようだ。
隣を歩く長身坊やカンテが話しかけてきた。
「僕、洞窟みたいな場所初めてなんですよ」
「そうなんだ」
「テツオさん最近、銀等級になったばかりなんですよね?
実は僕もなんですよ」
「そうなんだ」
「金等級目指して頑張りましょうね!
負けませんよ」
「そうなんだ」
緊張感の無い奴だな。
死亡フラグ、ビンビンに立てまくりやがる。
俺は悪魔が出るかもしれないと、少し緊張してるくらいなのに。
あと、リリィも心配だ。
ああ、気が重い。
あと、俺はもう金等級確定だ。
ああ、ラーチェちゃんのお尻。
「うるせぇな、お前ら。
ここは敵地だぞ」
木偶の坊、いやカンテ坊のせいで、俺までヴァーディに叱られてしまったじゃないか。
カンテは頭を掻いて笑っている。
よく笑えるね。
若者は怖いもの知らずなの?
「おい、何かお出ましだ」
リヤドがデカい鼻に似合わず、小さな声で警戒を促す。
「テツオは初めての戦闘だから、後ろで見ててくれ。
もし、援護出来そうなら頼む」
ソニアから補欠扱いされた。
スタメン落ちだ。
でも、こいつらがどんな戦い方をするのかは興味がある。
見せてもらおうか、クランの実力とやらを!
さて、敵はなんだろうか?
【解析】
サーベルライガー
年齢:8
LV:41
HP:1550
MP:40
暗い穴の奥、二つの目が光り、こちらを伺っている。
姿を現したのは、巨大な牙を二本剥き出しにした獅子型の黒いたてがみの魔獣。
レベル的にはデカス山の蜘蛛に近いか。
なかなかの強敵だが、女性以外の年齢は興味ないので、今後表示しないようにしよう。
「サーベルライガーか。
こんな魔獣を飼ってるとは、奴ら相当危険を冒してるみたいだな。
よし、行くぞ!【絶対防御】!」
ソニアが大声と共に盾を構えると、光の膜が展開されパーティを包み込んだ。
その瞬間、サーベルライガーの突撃を受けきる。
すごい、突撃を予測していたのか?
やだ、団長めちゃカッコいい!
そこへデカ鼻リヤドが片手剣で目を突く。
堪らず離れようとする魔獣の足を長身カンテが、槍で貫き転かす。
「トドメだ、【大斬撃】!」
中二臭い雄叫びと共に、ヴァーディが魔獣の脳天をかち割る一撃を叩き込んだ。
ドゴンと鈍い衝撃音が響き、サーベルライガーは絶命した。
流れる様な連携プレイ。
ま、まぁ、ちょっとはやるんじゃない?
「ヴァーディさん、流石ッス!」
カンテ坊やが、トドメを刺したヴァーディをすかさず褒める。
おい、カンテよ。
何も得点を決めた選手ばっかりが偉いんじゃないんだぜ?
俺の中のMVPはやはりソニアだ。
魔獣の突撃を完全にパリィして、魔獣の体勢を大きく崩し、その後の連撃を喰らわせるきっかけを作った。
【解析】するに、あの光膜は本人だけでなく、仲間の戦闘力までを強化している。
これが、金等級の実力か。
凄いのは胸の大きさだけでは無かったと言わざるを得ない。
「引き締めろ。
サーベルライガーは、通常、草原や森に棲息し、こんな洞窟に潜んでいる訳がない。
何か理由がある筈だ」
そうなのか、各生体の分布図とかあれば勉強したいくらいだな。
とにかくイレギュラーが起こっているのなら、それは悪魔の仕業かも知れない。
何匹も湧いて現れる魔獣を倒しつつ、ひたすら奥へと進んでいった。
ここまで、俺は一切手を出していない。
まさにVIP待遇。
楽で仕方がない。
横ではカンテがはぁはぁ息を切らしている。
大丈夫か?お前。
「こんな暗い場所でいきなり襲われたら、ほんとビビりますよね?
ここだけの話、俺、暗いとこ苦手なんすよ」
「そうなんだ」
それ、冒険者向いてなくね?
まぁ、俺もタンタルの森の暗さにはかなりびびってたけどな。
こんな暗い坑道、怖くてドキドキするけど、こんなに人数がいれば心強い事この上ない。
クラン、いいやん!素敵やん!
————————
たくさんある通路をしらみつぶしに探し、リヤドがようやく下へ向かう通路を発見した。
階下を【探知】すると、複数の人間の存在を感じる。
気を引き締めていこう。
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