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9 あべこべの世界
しおりを挟む「すまない、イツキ。俺のせいで巻き込んでしまった」
「え!?いやいや、ラインハルトさんは悪くないですよ!急に絡んできたあの人が悪いんですから」
長机と椅子が並べられた会議室のような部屋に入ると、突然ラインハルトさんが頭を下げる。
慌てて顔を上げてもらおうと肩を押しても体格の差からびくともしない。
「ミューズ、イツキさんが困っとるやろ?早よぉ顔上げんかいな。あ、イツキさんここ座ってくれます?今から手続きしますんで」
「ぐっ.........わかった」
「はい、ありがとうございます!」
バラードさんの一声もあり、ひとまず皆んなで椅子に座る。
僕とラインさんの向かい側に座ったバラードさんは手に抱えた何枚かの書類を僕に向けて差し出す。
「ミューズから話は聞きましたんで、幾つかはこっちで書いといたから、空いとるところだけ書いてもらえれば大丈夫です」
書類を見ると、確かに出身地や住所などの僕が書けないことがすでに記入されていた。だけど書いている文字は僕にはよくわからない言語で、何故か読めはするものの書くことは難しいだろう。
「俺が代筆しよう。異世界からの来訪者はスキルの影響で文字は読めるが書けないだろう」
「スキル?」
確かラインハルトさんが見せてくれたあのカードにそんなことが書いていたような....。それにしても、スキルなんていよいよファンタジーな世界なんだな。
隣でラインハルトさんが道中話していた僕の名前や年齢を書いてくれている。
僕の名前そうやって書くんだ.....。
ルーン文字でも見ているような気分でちょっとワクワクする。機会があればこの世界の文字も書けるように練習しようかな。
「イツキさんは...その、地球からやってきたん..やんな?」
「?そうです」
「それやったらちょっと話しとかないといかんことがあってなぁ。話長くなるかもしれんけど聞いてくれる?」
「はい、大丈夫です!」
そう伝えるとバラードさんは一枚の少し古ぼけた巻紙を机に広げる。
その紙には絵本の内容を一枚の紙に詰め込んだようにたくさんの絵が描かれており、文字は書かれていないため細かい内容はわからないが二人の男性が結婚するような話らしいことが見て取れる。
「これは今から300年ぐらい前に自分と同じ地球から来た青年がいてな。これはその人と時の王が結婚したっていうお話を書き記したもん何やけど......。ここに書いてある内容によるとやな。その......」
「その?」
「イツキのいる地球と、この世界は美醜感覚が全くもって違うんだ」
言いにくそうに言葉を澱ませるバラードさんの言葉を遮り、ラインハルトさんが答える。
美醜感覚が、違う?
「え?それってどういう....」
「イツキ、俺たちの見た目についてどう思う?気にしないからはっきり言って欲しい」
「え⁉︎見た目‼︎」
見た目っていったって......。
ラインハルトさんはかっこいい系の顔立ちで、筋肉も鎧の隙間から見える部分だけでもかなりのものだと伺える。アメリカのヒーロー映画の主演を演じていそうな王道イケメンとも言えるだろう。
バラードさんは綺麗系の顔立ちをしており、長い髪だったり垂れ目でおっとりした雰囲気や体の線の細さが女性らしさを見せているが、服の外から見える手や首から男性らしい一面を感じさせる。
二人とも系統は違うが、涼介と同じように美形というカテゴリーに入るだろう事は同じ男である僕にもわかる。
「どうって......二人ともかっこいいし、綺麗と思いますけど.........」
そう言うと、2人は顔を見合わせて少し考え込むような素振りをした後、僕に向き合う。
「俺たちの顔は........この世界では不細工なんだ」
「へ?ぶ、不細工⁉︎何で⁉︎」
「それはちょっとこの世界での神様も関わってくるからちょっとややこしいねんけどな~」
バラードさんの説明によると、
この世界には神様は何人かいるんだけど、その中でも主神と言われるぐらい強いのが聖神ジェシルと、邪神ヴァレスという2人の神様らしい。
2人の神様は仲が悪く、戦いの果てに聖神が勝ったとかで、邪神は地球でいうイケメンだったから同じようなイケメンに生まれた人間は原罪者。
生まれながら罪を持って生まれた人間として差別を受けているらしい。
だからさっき絡んできたあの人、ラインハルトさんの事を原罪者って言ってたのか......。
「自分ら以外にも亜人って呼ばれる人間以外の生物の特徴を持った種族も差別階級にあるけど、まだ顔立ちが整ってれば何とかなるからなぁ」
「そんな事が......でも、だったらこの世界でいう美人ってどんな人を指すの?」
「美人って言っても夫か妻かで系統が違うからな......」
「え?妻?」
「あぁ、そこも違ったんだったか。この世界では結婚や出産に性別は問わないんだ。婚姻の儀を交わせば、男同士でも、女同士でも子供を産める」
う、嘘でしょ⁉︎⁉︎いや、でもスキルとかがあるぐらいなんだからこれぐらい当たり前なのか......。
「そうなんだ.....地球とはかなり違うんだね」
「それで、この世界での美人だったな。夫であればさっき絡んできたあの男がかっこいいの部類に入るだろう」
「あの人が⁉︎」
その一言に先ほど絡んできた男の顔を思い浮かべる。
肥えて太ったブヨブヨの体に脂肪の重さで最早前が見えているのかと疑いたくなるほど細く見える目。
日本では率直にいうとお世辞にもイケメンとは言えないだろう。
まぁ、僕みたいなモブ顔が言えたようなもんじゃないけどさ。
「この間貴族の愛人になったって自慢してたからなぁ」
「妻ならば....あ~、その......」
「その?」
言いにくそうに僕を見るラインハルトさんに対し、首を傾げる。
どうしたんだろう?
「.......イツキ、君が当てはまるんだ」
「...........................僕??」
「うん」
衝撃的な一言におもわず聞き返すと、今度はバラードさんが答える。
僕みたいなモブ顔が美人⁉︎な、何で⁉︎
「ちなみにこれが聖神様のお妃である美神様の姿絵」
そう言って見せられた絵には、確かに僕と同じような顔つきの女性が描かれていた。
「なっなななな.......」
僕は、もしかするととんでもない世界にきてしまったのかもしれない......。
###############
作者から
この世界での美人は
主人公タイプ→可愛い系
おデブタイプ→かっこいい系
と思っていただければ大丈夫です‼︎
感想など、貰えると作者が喜びます。
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