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第一章

同志

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3.同志





「ここでなら大丈夫だろ」


人ごみを抜けた先で、体を下ろされる。


「ありがとうございます、助けていただいて・・・」


お礼を言いながら相手を見ると、かなり鍛えているようで服の上からでも筋肉の厚みを感じる。

それに・・・身長も大きい。多分190は超えているんじゃないかな。

切れ長の黒い目は人によっては怖い、という印象を与えそうだ。


「別にいいぜ、礼なんて・・・。あんた、生産職選んだのか?」

「え?あ、はい!そうですけど・・・なんでわかったんですか?」

「あそこで逆走するのは職人ギルドに行くやつしかいないからな」

「へ~、そうなんですね」

「一応βテスト経験者だからな。・・・この様子だと一時間くらいは混雑しそうだ」


そう言って彼は人ごみをため息を吐きながら見やる。

βテストにいたんだ、この人。それに・・・。

目線を下ろし、彼の腰を見る。

武器、にしては小さいハンマー。おそらく、鍛冶用のものだ。

私の腰にも、錬金術に使うのであろう小さな釜が括りつけられている。

たぶんだけど、この人。私と同じ生産職だ。


「な~に見てんだよ、変態」

「んな、変態じゃないですよ!」


にやにやと揶揄うように突然言い放った言葉に、思わず声が大きくなる。


「私はただ・・・同じ生産職なのかな~って思っただけです!」

「お、良く気付いたな。確かに俺は【鍛冶師】だ。あんたは・・・【錬金術師】だな。βテストで一回見たことがある」


そうなんだ・・・って一回!?


「一回って、一人しかいなかったんですか?」

「俺が見た限りでは、だがな。そいつも錬金術師やめたって聞いたが」


そんな不人気ジョブだったのか錬金術師!?
ちょっと先が不安になってきたな・・・。

「・・・まぁ、そんな気にすることはないだろ。誰も通ろうとしない険しい道を、自分で開拓するのも楽しいもんだぜ」

「確かに、そうですね。前向きに考えることにします!」


励ましの言葉に、握りこぶしをして答えた私を見て男は微笑む。


「それで、どうする?」

「え?」

「目的地は同じなんだ、あんたも一緒に行くか?せっかくの縁だし」


そういって手を差し出す。
私よりもずっと大きな手は、普段から鍛えているのかぱっと見でも皮が厚い。


「・・・あんたじゃなくて、キリです」

「そうか、キリ。俺はヤテツだ」





######





「βテストでは何のジョブについてたの?」


敬語を外し、雑談をしながら道を進んでいるとーーーふとした疑問を口にする。

今は鍛冶師って言ってたけど。


「メインは格闘家、つまり戦闘職だな。あれもまあまあ楽しかったが・・・。サブで取った鍛冶師が思いのほか面白くてな」

「そうなんだ、他のβテスターたちは戦闘職と生産職の兼業はやめとけって言ってたけど・・・」

「それはそうだな。だが、βテストのデータをこっちに持ってくることはできないんだ。だったらいろんなもん試した方が得だろ?」

「ふふっ確かにそうかもね」


ニヤリと言い放つ姿に、思わず笑ってしまう。

この男、ヤテツはリアルでは大学生で私の少し上ぐらいの年らしい。
社会人に見えたと言ったらデコピンされたけど・・・。

さっきも人ごみから助けてくれて、優しい男の人であることには間違いない。


「お、見えたな。あれが職人ギルドだ」

「あれ・・・でっか!?」


古代ギリシャの神殿をモチーフにしたようなその建物は、先ほどの総合ギルドよりも一回り・・・いや、二回りは大きい。


「中には初心者向けの簡易工房なんかもあるからな。冒険者ギルドよりもでかいぞ」

「簡易工房?じゃあ、暫くはそこで作業するんだね」

「そうだな・・・こっちだ、ここのカウンターで登録する」


ヤテツについていき、建物の中に入る。

外観と同じく、洗練されたデザインの内装のギルド内。その奥にあるカウンターへと向かう。


「ようこそ、職人ギルドへ。どんなご用事ですか?」

「俺とこいつの登録をしたい」

「わかりました、紹介状を」

バッグに手を入れると、アイテムウィンドウが浮かび上がる。その中の一つ、手紙を取り出して受付嬢さんに渡す。

封をナイフで開いて中を確かめると、満足そうな表情で頷いて顔を上げる。


「はい、お二人とも問題ありません。登録が完了したため、説明の方をさせていただきます」


総合ギルドの時と同じく、紙が目の前に差し出される。


「此処、職人ギルドでは貴方たち職人たちのサポートを主な業務としています。主な内容としてはクエストの案内、作品の買取。簡易工房の無料利用や、レシピや道具の格安販売などですね」


なるほど、職人として活動するならお役立ち機能満載ってことだ。


「職人ギルドへの登録は初めてのため・・・まずはこちらのクエストを受けてみませんか?」


そう言って私たちにそれぞれ紙を差し出す。


「いわゆる職人用のチュートリアルクエストみたいなもんだ、受けて損はないぜ」


ヤテツはそう言いながら紙にサインをしている。

サインしたら受注したってことね!





【職人クエスト】
1/2
・魔水の納品 0/10
・薬師の粉末Ⅰの納品 0/10
     報酬 1000ステラ





同じ様に私もサインをして受付嬢さんに渡す。

問題がないか確かめると、封筒にそれぞれしまう。そして、彼女は何か魔法を紙にかける。


「《導け》・・・はい、これで完了しました」


チュートリアルクエストの手紙のように浮かびまわる封筒は、私の目の前で消えた。


「見たいと願えば、再び姿を現し導いてくれます。2階の資料室や簡易工房は利用可能ですので、ぜひ訪れてみてくださいね」

「こっちだ、行くぞ」


手で招くような仕草をしながら、奥の階段へ向かうヤテツに慌ててついていく。


「錬金術師は何を納品するんだ?」

「えぇっと・・・魔水っていうのと、薬師の粉末Ⅰの二つだよ!ヤテツは?」

「俺は銅インゴットだけだな。此処の3階に販売所があるんだ、チュートリアルがもう完了してるから報酬を受け取っといた方がいい」

「あ、そっか!」


チュートリアルを開くと、確かに完了という文字が書かれている。

どうやって報酬を受け取ればいいんだろう?

そう考えていると、突然手紙は光の粒子となって消えていった。


「こういったクエストは条件を満たした後、確認しないとクリア扱いにならないんだ。アイテムに報酬が入ってるだろ?」


確かにアイテムウィンドウの所持金は1000ステラと書かれている。

・・・てことは私今まで所持金0だったのか。


「その二つなら材料もわかる、魔水はシンプルにただの水から作れるから買う必要はないが薬師の粉末Ⅰは薬草で作れる」

「じゃあ、それを買えばいいんだね」

「俺も銅鉱石を買わないといけないしな」

「材料とかって買うしか手に入れる方法はないの?」

「いや、元は戦闘職が採取してくるか魔物のドロップ素材かのどっちかで手に入れるからな。自分でギルドに依頼を出したり、個別に取引したり・・・あとは市場とかもあるな」

「市場?」

「プレイヤーだけのな、誰でも場所は借りれるから俺たちも開けるぞ。βの時はそこで商人系のプレイヤーが買い取ったり販売もしていたからな・・・まあ、商人はあんま不人気ってわけじゃないししばらくしたらにぎわうだろ」

「へ~そうなんだ、じゃあヤテツも店開くの?」

「暫くはな、金を貯めたら自分の工房兼店を建てるつもりだ」

「お店建てれるの!?」


衝撃発言に思わず目を見開く。

事前情報ではそんなの聞いたことがなかった。

私も自分のお店を持ってみたいな~。


「βではまだ実装されていなかったからな、表じゃ出回ってないだろ?俺も最後らへんでギルドの職員に聞いたからな、知ってるやつらは少ないはずだ。自分の家・・・マイハウスとは別に、店や工房を建てられるんだ」

「必要なのはお金だけなの?」

「いいや、おそらくギルドのランクも上げないといけねえ。あくまで俺の予想だが、当たってるはずだ。どこまで上げればいいかはわからんがな」


そう話していると、3階につく。

どうやらプレイヤーで最初についたのは私たちだったようで、NPC達しかいない。
だが、非常ににぎわっているようで小さなドワーフから天井にまで頭が届きそうな巨人まで多くの人たちが職員と取引をしている。


「お互い必要なもんを買ったら2階で合おうぜ、薬草とかの植物関係はあそこの店で買える」

「うん、わかった!ありがとうね」


軽く手を振って離れると、たくさんの植物が飾られた店に入る。

草木が照明の光を少し遮り通路よりもほの暗い店内だが、天井からつるされた瓶の中に入っている光るマリモのような植物のおかげで怖さは感じない。むしろ幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「おや、星に導かれた子は君が初めてだ」


店の奥から籠を抱えてやってきた男性の耳は、私と同じくとがっていた。


「いらっしゃい、何をお求めかな?」







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