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4話
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夜が明けた。
フェンリルの背で揺られている間、すやすやと寝息を立てていたウラリアだったが、反射的な身震いで目が覚めた。
「……ここは?」
慣れた不快感が全身の鳥肌を立たせる。
ふわふわな体毛から体を離したくないため、顔だけ上げて周囲の様子を伺えば、黒ずんだ靄を纏う森が近くに見えてしまった。
「あ、あれをどうにかしろってこと?」
「そうだ。元々は我ら神が年に一度、宴を開く森だった」
「何であんなことに……」
「分からん。久々に来たらあんな事になっていた」
ただただ悲しそうにくーんと鳴き声を挙げたフェンリルにきゅんと来たウラリアは、ふかふかな体毛を一頻り楽しんだところで片手を森へ向ける。
「もうちょっと近付いて」
「魔物が寄って来るぞ」
魔物とは瘴気に犯され狂暴化した動植物や自然発生した化け物の総称である。
「平気。まとめて浄化するから」
「……ほう」
ウラリアの言葉を信じることにしたフェンリルはのっしのっしと前へ進む。
森の中では黒い影と赤い光の動き回る姿がチラホラと見え、それらは一人と一匹に気が付くとその場で停止する。
二つ並んだ赤い光が次々に増え始め、人間を容易く屠ったフェンリルですら及び腰になってしまう。
「来るぞ」
森からゾロゾロと出て来た魔物を見て尻尾の毛を逆立てる彼女に、しかしウラリアは無言を貫く。
体の中で溢れかえる膨大な魔力を一つの聖なる魔法として放つのは至難の業。話している余裕なんて無いのだ。
常人が同じことをしようとしたら、魔力が様々な属性に変化し、最終的には大爆発を起こして即死するのは避けられない。
「……神浄の巫女、名に恥じないな」
背中の上で荒れ狂っていた魔力が指向性を持ち始めた事に気が付いたフェンリルは小さく呟き。
「【セイクリッド・ピュリフィケーション】!」
次の瞬間、白く輝く空気の波が駆け寄って来ていた魔物たちも、その背後で悍ましさを纏う森も、優しく撫ぜるかのように通り過ぎ去って行った。
無慈悲で理不尽な聖なる風は動物も、植物も、平等に手を差し伸べ、その身体を蝕む闇の存在を消し去ってしまった。
長らく瘴気に包まれていたのだろう、解放された動物たちの体は元の姿とは似ても似つかぬものとなり、頭がフクロウの熊や蛇の尻尾と山羊の頭を持つ獅子などと、伝説上の生き物とされた存在がゴロゴロと転がっている。
瘴気に犯された動物たちが伝説の起源だったのかと納得したウラリアは、黙り込んでしまったフェンリルの背中に体を預ける。
「それで、どうするの?」
「……一先ず、中に入る。我輩の友がいるかも分からんからな」
「そっか。私、大体の魔法は使えるから何か困ったら起こしてね」
そう言いながら背中に顔を埋めた彼女は、お日様の香りを堪能しながら二度寝の体勢に入った。
フェンリルの背で揺られている間、すやすやと寝息を立てていたウラリアだったが、反射的な身震いで目が覚めた。
「……ここは?」
慣れた不快感が全身の鳥肌を立たせる。
ふわふわな体毛から体を離したくないため、顔だけ上げて周囲の様子を伺えば、黒ずんだ靄を纏う森が近くに見えてしまった。
「あ、あれをどうにかしろってこと?」
「そうだ。元々は我ら神が年に一度、宴を開く森だった」
「何であんなことに……」
「分からん。久々に来たらあんな事になっていた」
ただただ悲しそうにくーんと鳴き声を挙げたフェンリルにきゅんと来たウラリアは、ふかふかな体毛を一頻り楽しんだところで片手を森へ向ける。
「もうちょっと近付いて」
「魔物が寄って来るぞ」
魔物とは瘴気に犯され狂暴化した動植物や自然発生した化け物の総称である。
「平気。まとめて浄化するから」
「……ほう」
ウラリアの言葉を信じることにしたフェンリルはのっしのっしと前へ進む。
森の中では黒い影と赤い光の動き回る姿がチラホラと見え、それらは一人と一匹に気が付くとその場で停止する。
二つ並んだ赤い光が次々に増え始め、人間を容易く屠ったフェンリルですら及び腰になってしまう。
「来るぞ」
森からゾロゾロと出て来た魔物を見て尻尾の毛を逆立てる彼女に、しかしウラリアは無言を貫く。
体の中で溢れかえる膨大な魔力を一つの聖なる魔法として放つのは至難の業。話している余裕なんて無いのだ。
常人が同じことをしようとしたら、魔力が様々な属性に変化し、最終的には大爆発を起こして即死するのは避けられない。
「……神浄の巫女、名に恥じないな」
背中の上で荒れ狂っていた魔力が指向性を持ち始めた事に気が付いたフェンリルは小さく呟き。
「【セイクリッド・ピュリフィケーション】!」
次の瞬間、白く輝く空気の波が駆け寄って来ていた魔物たちも、その背後で悍ましさを纏う森も、優しく撫ぜるかのように通り過ぎ去って行った。
無慈悲で理不尽な聖なる風は動物も、植物も、平等に手を差し伸べ、その身体を蝕む闇の存在を消し去ってしまった。
長らく瘴気に包まれていたのだろう、解放された動物たちの体は元の姿とは似ても似つかぬものとなり、頭がフクロウの熊や蛇の尻尾と山羊の頭を持つ獅子などと、伝説上の生き物とされた存在がゴロゴロと転がっている。
瘴気に犯された動物たちが伝説の起源だったのかと納得したウラリアは、黙り込んでしまったフェンリルの背中に体を預ける。
「それで、どうするの?」
「……一先ず、中に入る。我輩の友がいるかも分からんからな」
「そっか。私、大体の魔法は使えるから何か困ったら起こしてね」
そう言いながら背中に顔を埋めた彼女は、お日様の香りを堪能しながら二度寝の体勢に入った。
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