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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい
47.ボッティ伯爵の罪
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「な、……な、なんなんだ。なんなんだ、それは!! 俺は、認めないぞ!!」
「いくら否定しようとも、意味はない。お前はそれを知っていた。当然気が付いていた筈だ。散々借金だらけで金がないと常々口にしていた親が、コントレー子爵の死を境に、まったくそれを口にしなくなったのだからな」
「そ……それは…………」
「着るものも豪華になり、出てくる食事も豪勢になっただろう。家の内装を一新したのは、婚約破棄の翌年だったか。いくら紛争地帯から離れた場所であるとはいえ、それでも敗戦色の濃い戦時下に、豪華な設備に替えたと今でも地元で有名らしいじゃないか。完成時にはお披露目会もしたと聞いた。お前も、周囲に自慢したんだろう?」
確かに。言われて思い起こせば、記憶の中にあるストラはいつも同じ服を着ていた気がした。春に着ていた上着を夏になると脱ぎ、秋になったらまた着て、冬になると中にセーターを着ていた。
ある時、袖口が擦り切れていることに気が付いて指摘したら嫌そうに顔を顰めて「これが一番着心地がいい。新しい服じゃ駄目なんだ」と言っていた。
オリーは一度大きく深呼吸をすると、今現在のストラを冷静になって正面から見定めた。
豪奢な金糸の刺繍が襟元や袖口に施されたジュストコールも、大きな宝石が嵌められたクラバットピンも。
オリーが何年総菜屋で働いたとて手に入れられそうにない高級な品ばかりだ。
勿論どこにも擦り切れた様子などない、新品ピカピカだ。
かつての、着心地の良さを優先し、袖口が擦り切れても同じ服を着続けていた様子はどこにもなかった。
勿論、元の婚約者はオリーよりも5つ年上だった。つまり今のストラは33歳ということになる。その年になっても着心地を優先したまま社交の場であるサロンへ足を運んでくるようではマズいだろう。
けれども、どれもこれも似合わないほど華美な服装は、記憶にある元婚約者の生活とは相容れないものだった。
健在だった両親と共に足を運んだボッティ伯爵邸は、外した絵画の跡が壁紙に残っているような、うらぶれた様子であったからだ。
「まさか、本当に? ボッティ伯爵が?」
だって。そんな馬鹿な。
両親の死を教えてくれたのは、そのボッティ伯爵だった。
幼い子供ふたり残されて震えて泣いた夜も、「一緒にいよう」と屋敷に泊ってくれた。不安に揺れ、大人の人の庇護を求めた手を取ってくれた。
ストラとの婚約は破棄されてしまったし、「我が領地にも余力はないんだ。力になってやれなくてすまない」と援助できないと言われた時だって、伯爵には感謝しかなかったのに。
そのすべてが、真っ赤な嘘だったなんて。
「……そんな」
視界に、ストラが貴族籍を剥奪されたことに対してなんか文句言ってるのが見えていた。
本当だったら、ざまあみろとか思うべきなんだろうけれど。
けれど、そんなことよりずっとずっと、私にはボッティ伯爵が主犯となって両親を陥れ、私達に両親を憎むような嘘を吹き込んでいたのだという衝撃が大きすぎた。
「な、……な、なんなんだ。なんなんだ、それは!! 俺は、認めないぞ!!」
「いくら否定しようとも、意味はない。お前はそれを知っていた。当然気が付いていた筈だ。散々借金だらけで金がないと常々口にしていた親が、コントレー子爵の死を境に、まったくそれを口にしなくなったのだからな」
「そ……それは…………」
「着るものも豪華になり、出てくる食事も豪勢になっただろう。家の内装を一新したのは、婚約破棄の翌年だったか。いくら紛争地帯から離れた場所であるとはいえ、それでも敗戦色の濃い戦時下に、豪華な設備に替えたと今でも地元で有名らしいじゃないか。完成時にはお披露目会もしたと聞いた。お前も、周囲に自慢したんだろう?」
確かに。言われて思い起こせば、記憶の中にあるストラはいつも同じ服を着ていた気がした。春に着ていた上着を夏になると脱ぎ、秋になったらまた着て、冬になると中にセーターを着ていた。
ある時、袖口が擦り切れていることに気が付いて指摘したら嫌そうに顔を顰めて「これが一番着心地がいい。新しい服じゃ駄目なんだ」と言っていた。
オリーは一度大きく深呼吸をすると、今現在のストラを冷静になって正面から見定めた。
豪奢な金糸の刺繍が襟元や袖口に施されたジュストコールも、大きな宝石が嵌められたクラバットピンも。
オリーが何年総菜屋で働いたとて手に入れられそうにない高級な品ばかりだ。
勿論どこにも擦り切れた様子などない、新品ピカピカだ。
かつての、着心地の良さを優先し、袖口が擦り切れても同じ服を着続けていた様子はどこにもなかった。
勿論、元の婚約者はオリーよりも5つ年上だった。つまり今のストラは33歳ということになる。その年になっても着心地を優先したまま社交の場であるサロンへ足を運んでくるようではマズいだろう。
けれども、どれもこれも似合わないほど華美な服装は、記憶にある元婚約者の生活とは相容れないものだった。
健在だった両親と共に足を運んだボッティ伯爵邸は、外した絵画の跡が壁紙に残っているような、うらぶれた様子であったからだ。
「まさか、本当に? ボッティ伯爵が?」
だって。そんな馬鹿な。
両親の死を教えてくれたのは、そのボッティ伯爵だった。
幼い子供ふたり残されて震えて泣いた夜も、「一緒にいよう」と屋敷に泊ってくれた。不安に揺れ、大人の人の庇護を求めた手を取ってくれた。
ストラとの婚約は破棄されてしまったし、「我が領地にも余力はないんだ。力になってやれなくてすまない」と援助できないと言われた時だって、伯爵には感謝しかなかったのに。
そのすべてが、真っ赤な嘘だったなんて。
「……そんな」
視界に、ストラが貴族籍を剥奪されたことに対してなんか文句言ってるのが見えていた。
本当だったら、ざまあみろとか思うべきなんだろうけれど。
けれど、そんなことよりずっとずっと、私にはボッティ伯爵が主犯となって両親を陥れ、私達に両親を憎むような嘘を吹き込んでいたのだという衝撃が大きすぎた。
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