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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい

30.それは衝撃の事実

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 鏡に写るエラさんが、満足げな顔つきで私の髪を丁寧に櫛梳ると、ポンと肩に手を置いた。

「さぁ。サッパリなさったところで、お薬を塗って包帯を巻いておきましょうね。その前に、こちらを片付けて参りますね」

 髪の手入れに使った盥とマッサージに使った香油、そして大量の汚れたタオルを引き下げていくエラさんに頭を下げて、その去っていく後ろ姿を見送る。

 いまなら包帯は外れている。
 これから消毒をするのなら、ガーゼも取るのだろう。ならばいま、私がそれを外したとしても大したことではない筈だ。

 手探りで、ガーゼを止めているテープを剥がした。

「つっ」

 ピリッとした痛みが走る。ついでにテープにくっついていた髪が数本抜けた気がするけど急いでいるし気にしない。

 手鏡を取り出して後頭部に翳して角度を合せ、鏡台へそこを写した。


「ヒェッ」

 鏡台の中に写り込んだ傷跡に、ひゅっと喉の奥が詰まった。

 乾燥しかけの瘡蓋が張り付いた傷口の周辺は、青黒くツルツルとテカり盛り上がっていた。

 それだけだって、かなりのインパクトだ。けれど。

「は、ハゲ……て、る」

 腫れあがったその部分は、まちがいなく、無毛であった。

「……はげ……後頭部に、ハ……ふは、ふはは」

 思わず変な笑いが出た。

 不細工で、年増で、身寄りがなくて、ハゲ。

 しかも、無職になる寸前だ。借金だって背負うことになるかもしれない。

 なに、この五……六重苦。

 少しくらいここで化粧を覚えて付け焼刃の知識を詰め込んだとて、その程度でカバーできるとは到底思えない。瑕疵っぷりだ。

 人生詰んだ。

 いや、元々結婚できるとは思っていなかったし、詰んでるのも今更といえなくもない。うん。

 でもね。けれどね。

 圧倒的無力感と謎の敗北感に、気が遠くなった。


******


「まぁ。ガーゼを剥がされてしまったのですね。気になるのは分かりますけれど、怪我の状態がお酷い時に見られるのはよくありませんよ」

 戻ってきたエラさんから叱られたけれど、ハゲの衝撃による心のダメージが大きすぎてそれどころではなかった。

「ごめんなさい」

 自分の傷を確認して謝るのも変だと思わなくもない。けれど、今はそれしか言葉がでなかった。

「お医者様の話によりますと、たんこぶは禿げるそうですよ。でも一時的な物だということなので、あまり気に病まれない方がよろしいですよ」

 魂が抜け出たようになってしまったオリーには、メイドが優しく薬を塗りながら、お医者様の見解とやらに関して説明してくれていたけれど、その内容すら耳を素通りしていた。



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