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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい
10.人造似非美人の作り方(詐欺)
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「これが……わたし?」
鏡の中に立っているのは、信じられないほどの美女だった。
「ふふん。私のお陰よ。感謝しなさい」
自慢げににんまり笑っている美女に向かって「ハイありがとうございます」と感謝の言葉を告げる間もずっと、私は鏡から目が離せなかった。
おじいさんから連れていかれた先にいたのは、とんでもない美人さんだった。
そこで「この娘が自分を不細工だと言い張るんだ。賭けをしたんで僕を勝たせてくれないか」と告げた結果がこれだった。
眉毛を整えたのなんか初めてかもしれない。
ボサボサだった眉は今、綺麗に整えられて、すらりと優美で、けれどもあくまで自然なラインを描いていた。
まばらな睫毛は隙間を埋めるようにアイラインが引かれ、くるんと上向きにカールさせられているからだろうか。三割増しで瞳が大きく見える。
眉がすっきりして、目が大きく見えるようになったからだろうか。
大嫌いだった低い団子鼻がそれほど気にならなくなっていた。鼻筋にハイライトを入れたからかもしれない。完璧というにはほど遠いけれど、許容範囲内。なんなら愛嬌があるって感じだ。
ぶ厚すぎる唇も、口紅をさす前に塗りこめた黄橙色の甘い何かの効果なのか、かつてない潤いを得たことでむしろ誘っているかのようにぷるんと艶やかに色付いていた。
肌の色も、場所によってあんなに色を使い分けて重ねていくなんて。思いもつかなかった。影や光だけじゃない。できてしまった吹き出物の痕が目立たないように緑色を乗せ、のっぺりしないようにピンクや紫のお粉を使い分け色を置いていく。
そうして更に上からテカリ防止の粉をうっすらと太い筆を使ってさらりと乗せたら、日焼けもシミもすべて覆い隠してぷるんとゆで卵の様な肌になっていた。これはもう詐欺だと思う。怖い。
赤味を帯びた灰色の艶のない髪も丁寧に香油を揉みこんでから櫛梳られたお陰で、かつてないほど煌めいてみえた。令嬢であった頃はハーフアップしかしたことがなかったから完全にアップスタイルに纏めたのは初めてで、項が涼しくてくすぐったかった。
でもきっちり結い上げられるのではなく、頬に掛かる部分だけゆるやかに巻いて下ろしてあるので、大嫌いな顎のラインも隠されていて、それだけなのにまるで別人に見える。
私の収入では、お風呂付の部屋なんて借りられない。盥に湯を張って身体を拭くのが精一杯の生活で、湯で絞ったタオルで毎日髪を拭いてはいたけれど地肌までは洗えていなかった髪は、自分でもわかっていたけれど、どこか脂じみていた。
そんなボサボサだった髪は寝ている間に綺麗に洗われていた。たぶん、転んだ時に土だらけになったからだろう。絶対に何度も洗わせてしまったに違いないと思うと、やってくれた方に申し訳ないという気持ちしかない。
そうして、とりあえず清潔にはなっていた私の髪は今、更に香油を揉みこまれて丁寧に櫛梳られ、ゆるやかな纏め髪にされていた。
うん、ほら包帯巻いてあるしね。
香油で揉みこまれた時も、やたらと丁寧だったのは傷口にさわらないようにしていたからっていうのもある。実際にちょっとでも近くを揉まれたら飛び上がりそうなほど痛かったし。涙出たよ。
私の髪が、手入れをされなくなってもう十年以上経つのだ。
すっかりパサついていた私の赤毛の髪が、落ち着いた赤褐色になっていた。手触りも全然ちがう。しっとりしてる。すごい。
髪の色に合わせたドレスは、襟ぐりが深くて身体のラインも顕わでセクシーだ。でも、全然いやらしさを感じさせない。栄養状態が悪かったせいか、十代の頃からささやかであった胸のラインは今やほぼ平地と化していた筈なのに何故か谷間まである。といっても至極自然な仕上がりながら凄いテクニックで作り上げられた谷間だ。なんならちょっぴり痛い。でもいい。憧れていた谷間があるのだ。つい両手で包み込んで存在を確かめてしまった。
初めて身に着けた谷間製造用コルセットは、薄手だけど硬い皮で出来ていて、乳房全体を押し上げてふくらみを強調するのではなく、まったく胸元を押さえない丸見えになるようにできていた。ギリギリと締め上げるようにして着けてから脇や背中、なんなら腹肉まで手を差し込んで持ち上げるのだ。
腹や背中の贅肉で、乳を偽装する最終兵器だった。
その上から良く知るタイプの布製コルセットを重ねて着けられた。
つまり二重コルセットである。
こんな吃驚着用したことないどころか聞いたことすらない。知らない世界すぎだ。
ついでに谷間を印象付けるように胸の真中に化粧で影までつけある。すごい。
多分、太陽の光の下では描いてあるとバレバレだろうけれど、夜のやわらかなガス灯の下ではとても自然に見えるのだそうだ。実際に今も少し薄暗い場所に立つと全然わからなかった。すごい。本当にすごい。
そうして、偽乳を作る為に贅肉が?き集められたことで、ウエストに括れが出来ていた。まるで別人の体型だ。すごい。阿呆みたいだと思うけど、すごいという他ない。
おもわずいろんなポーズを取って、いろんな角度から自分を鑑賞する。ホントに凄い。
「これが……わたし?」
鏡の中に立っているのは、信じられないほどの美女だった。
「ふふん。私のお陰よ。感謝しなさい」
自慢げににんまり笑っている美女に向かって「ハイありがとうございます」と感謝の言葉を告げる間もずっと、私は鏡から目が離せなかった。
おじいさんから連れていかれた先にいたのは、とんでもない美人さんだった。
そこで「この娘が自分を不細工だと言い張るんだ。賭けをしたんで僕を勝たせてくれないか」と告げた結果がこれだった。
眉毛を整えたのなんか初めてかもしれない。
ボサボサだった眉は今、綺麗に整えられて、すらりと優美で、けれどもあくまで自然なラインを描いていた。
まばらな睫毛は隙間を埋めるようにアイラインが引かれ、くるんと上向きにカールさせられているからだろうか。三割増しで瞳が大きく見える。
眉がすっきりして、目が大きく見えるようになったからだろうか。
大嫌いだった低い団子鼻がそれほど気にならなくなっていた。鼻筋にハイライトを入れたからかもしれない。完璧というにはほど遠いけれど、許容範囲内。なんなら愛嬌があるって感じだ。
ぶ厚すぎる唇も、口紅をさす前に塗りこめた黄橙色の甘い何かの効果なのか、かつてない潤いを得たことでむしろ誘っているかのようにぷるんと艶やかに色付いていた。
肌の色も、場所によってあんなに色を使い分けて重ねていくなんて。思いもつかなかった。影や光だけじゃない。できてしまった吹き出物の痕が目立たないように緑色を乗せ、のっぺりしないようにピンクや紫のお粉を使い分け色を置いていく。
そうして更に上からテカリ防止の粉をうっすらと太い筆を使ってさらりと乗せたら、日焼けもシミもすべて覆い隠してぷるんとゆで卵の様な肌になっていた。これはもう詐欺だと思う。怖い。
赤味を帯びた灰色の艶のない髪も丁寧に香油を揉みこんでから櫛梳られたお陰で、かつてないほど煌めいてみえた。令嬢であった頃はハーフアップしかしたことがなかったから完全にアップスタイルに纏めたのは初めてで、項が涼しくてくすぐったかった。
でもきっちり結い上げられるのではなく、頬に掛かる部分だけゆるやかに巻いて下ろしてあるので、大嫌いな顎のラインも隠されていて、それだけなのにまるで別人に見える。
私の収入では、お風呂付の部屋なんて借りられない。盥に湯を張って身体を拭くのが精一杯の生活で、湯で絞ったタオルで毎日髪を拭いてはいたけれど地肌までは洗えていなかった髪は、自分でもわかっていたけれど、どこか脂じみていた。
そんなボサボサだった髪は寝ている間に綺麗に洗われていた。たぶん、転んだ時に土だらけになったからだろう。絶対に何度も洗わせてしまったに違いないと思うと、やってくれた方に申し訳ないという気持ちしかない。
そうして、とりあえず清潔にはなっていた私の髪は今、更に香油を揉みこまれて丁寧に櫛梳られ、ゆるやかな纏め髪にされていた。
うん、ほら包帯巻いてあるしね。
香油で揉みこまれた時も、やたらと丁寧だったのは傷口にさわらないようにしていたからっていうのもある。実際にちょっとでも近くを揉まれたら飛び上がりそうなほど痛かったし。涙出たよ。
私の髪が、手入れをされなくなってもう十年以上経つのだ。
すっかりパサついていた私の赤毛の髪が、落ち着いた赤褐色になっていた。手触りも全然ちがう。しっとりしてる。すごい。
髪の色に合わせたドレスは、襟ぐりが深くて身体のラインも顕わでセクシーだ。でも、全然いやらしさを感じさせない。栄養状態が悪かったせいか、十代の頃からささやかであった胸のラインは今やほぼ平地と化していた筈なのに何故か谷間まである。といっても至極自然な仕上がりながら凄いテクニックで作り上げられた谷間だ。なんならちょっぴり痛い。でもいい。憧れていた谷間があるのだ。つい両手で包み込んで存在を確かめてしまった。
初めて身に着けた谷間製造用コルセットは、薄手だけど硬い皮で出来ていて、乳房全体を押し上げてふくらみを強調するのではなく、まったく胸元を押さえない丸見えになるようにできていた。ギリギリと締め上げるようにして着けてから脇や背中、なんなら腹肉まで手を差し込んで持ち上げるのだ。
腹や背中の贅肉で、乳を偽装する最終兵器だった。
その上から良く知るタイプの布製コルセットを重ねて着けられた。
つまり二重コルセットである。
こんな吃驚着用したことないどころか聞いたことすらない。知らない世界すぎだ。
ついでに谷間を印象付けるように胸の真中に化粧で影までつけある。すごい。
多分、太陽の光の下では描いてあるとバレバレだろうけれど、夜のやわらかなガス灯の下ではとても自然に見えるのだそうだ。実際に今も少し薄暗い場所に立つと全然わからなかった。すごい。本当にすごい。
そうして、偽乳を作る為に贅肉が?き集められたことで、ウエストに括れが出来ていた。まるで別人の体型だ。すごい。阿呆みたいだと思うけど、すごいという他ない。
おもわずいろんなポーズを取って、いろんな角度から自分を鑑賞する。ホントに凄い。
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