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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい

1.冷めたイモフライな私

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「こんな夜中にどうしたの?」



 ちょっと面白がるような、揶揄いを含んだその声をそれまで投げつけられていた罵倒の声のように無視しなかったのは、声が妙に耳に心地よかったからだ。



「何で泣いてるの」



 続けて、笑いながら顔を覗き込んできたのは、残念ながら白馬の王子様でもなければ、巡回中の治安隊の人でもなかった。



 むっさーい、ボサボサ白髪頭のおじいさんがすぐ傍にいた。

 ぼさぼさなのは髪の毛だけじゃあない。髭も凄い。整えるなんてしたことないみたいだ。

 古びた外套を羽織って、黒縁のだっさい色付き眼鏡を掛けている。

 こんな暗い道を色付きの眼鏡で歩いているなんて転んだらどうするつもりだろう。



 どこか面白がっているような表情だ。瞳の表情も口元もよくは見えないけれど、笑っているように見えるから、そんな感じを受けるのかもしれない。



 ちょっと胡散臭い気がして、距離を取る。



 そんな手厳しい採点を下している私は、もっとずっとヒドイ状態なのは分かっている。自覚ぐらいある。



 なにしろ、お店の売れ残りのイモフライを、冷たいまま素手で持ってモシャモシャ齧りつき「まずい。まずい」と文句を言いながら食べていたところなのだから。



「泣いてなんかいません」



 そういって、ずぴっと鼻を啜り上げた。 ──あれ?



 ただ寒さと情けなさに鼻がツンとしているだけだと思っていたのに、啜り上げた鼻に何かがずるんと戻っていく感触があった。

 しかも、啜り上げきれていない気がする。



「?!」

 バッと顔を背けて慌てて手で顔を隠す。



 その手に感じた濡れた感触に、自分が目の前のおじいさんの言うとおりに、本当に泣いていたことに気が付いた。



 そして更に最悪なことに、冷めたイモフライを素手で掴んで食べていた所であったので、私の顔は、涙と鼻水と古くなった油でべとべとのぎとぎとのずるずるになったってことですよ。泣けるね! すでに泣いてるけど。



 おじいさんを無視してダッシュで逃げ出そうとして、私は自分のスカートの裾を踏んずけた。



 ぐるんと世界が廻る。



 暗い夜空に浮かぶ美しい星と、なにかを掴みたくてでも何もつかめなかった、手入れのされていない荒れて節の目立つ手が見えた。



 どこか他人事のような、切り取られたようなその視界を覆い隠すように、みっともなく縺れた赤味を帯びた灰色の髪が隠していく。



 顔は油だらけ。涙と多分鼻水とで汚れてて。



「あ」



 小さく声が出た次の瞬間、そのままゴチンと大きな音がした。



 頭をぶつけると、ホントに目の前に星が飛ぶのね、と感心してしまったところで、私の記憶は途切れた。





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