奥様は聖女♡

メカ喜楽直人

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「……さて。それでお前等は、幾らでこの仕事を引き受けるつもりなんだ?」

 分厚い扉が閉められて、聖女教会の関係者と聖女、そして連れてきた冒険者のみとなった時、突然代表者である枢機卿を名乗った男の声音こわねが変わった。口調もかなり荒っぽくなっている。

「勿論、金貨一千枚です。依頼書にそう書いて冒険者ギルドへ依頼を出したのは、あなた方聖女教会ではありませんか。神のしもべたる聖職者が嘘の依頼を何年にも渡って出すなど……ありえませんよね?」

 にっこりと澱みなく回答したのは、ダリンだった。
 但し今の彼は、いつものようにヨレヨレの服など着ていない。白銀の髪も綺麗に撫でつけられていて、洒落たジャケットを着ている。穏やかな口調と相俟って、まるで上流階級の人間のようだ。

「そういうなよ。詐欺師同士、腹の探り合いすんのも面倒臭ぇってもんだろ。お互いに上手くやろうぜ、兄弟。偽モノ聖女に力なんざなくとも、幾らでも誤魔化せるさ。ただ黙って偶像として祈りの対象になってくれるだけでも金が引っ張り易くなる。集まりが悪くなったら夜逃げすりゃあいいんだしな」

 身も蓋もない言い様である。
 先ほど、教会の前で十年越しの悲願となる聖女の帰還を涙ながらに喜んだ聖職者の仮面はすでに剥ぎ取ることにしたのか、素の男の表情は下衆そのものだった。
 綺麗に撫でつけられた白髪頭の下にある顔の形は何も変わっていない。つい先ほどまでは元王族といわれても納得するような所作に言動をしていた。けれども、今の彼はどう贔屓目に見てもどこかの破落戸のようだ。

「そんなことよりよぅ。教えてくれ、その髪の色はどうやって染めた? コッチでも偽聖女サマを仕立てようとしたんだが、どうやってもそんな風に光ってるような水色にならねぇんだ」

 カツカツとわざとらしい程の足音を立てて聖女へと近づくと、その美しい水色の髪をひと房手に取って、検分するように目の高さまで持ち上げてひらひらと毛先を揺らした。


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