奥様は聖女♡

メカ喜楽直人

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 ガヤガヤと猥雑な音と饐えた汗の臭いと鞣された革の獣の脂じみた臭い、そして武器や防具から漂う金っ気が入り雑じり、慣れない者はその扉を開けて一歩足を踏み入れただけで動けなくなるのはよくある事だ。

 なにしろここは冒険者ギルド。
 一攫千金を夢見てダンジョンに潜っては魔物達と戦い、時には用心棒という名の人殺しだって請け負うことを稼業としている人間が集いし場所だ。

 今も、このギルドで一番稼いでいるとされる冒険者の二人組が依頼を受けて狩ってきたワーウルフ十体の納品しているところだ。
 
「ありがとうございます。ワーウルフ二十体。確かに納品をお受け致しました」
 納品確認を終えたギルド職員が張りのあるバリトンで感謝の言葉を告げる。

 この冒険者ペアの仕事は早くて確実なだけではない。
 常に、納品される魔物の状態が最高レベルで素晴らしいのだ。
 高価なマジックバックは冒険者となるならばまず最初に手に入れるべき装備のひとつではあるが、実際にそこに獲物まで入れて帰って来れるほどの容量のあるそれを持つことができる冒険者はそう多くない。
 初心者なら、水と食料そして薬の類と魔物避けの香で容量いっぱいになってしまう程度、中級者まで行ってもマジックバックを買い替える前に扱う武器や防具に金が掛かって結局はマジックバックを買い替えるまで手が届かないことなどよくあることだ。
 それを、彼等はひとより頭ふたつは大きいワーウルフ二十体を納めた上に、他にも射止めた獲物を仕舞っている様子だった。どれだけ大きな物だというのか。
 マジックバック内では時間が止まるので納品された魔物の質も上がる。
 だが、それだけではない。
 なにより納品された魔物には傷は常に一つしか付いていないのだ。
 斬られた傷も、殴られた痕も、魔法攻撃による火傷の痕も。何ひとつない。
 ただ一つだけ、魔物の額にある魔石だけが抜き取られた状態で納品される。
 だからギルドへ納品されるそれは、いつだって高評価を受け最高ランクで引き取られた。

「美しい……」
 本日の納品分については異国の軍隊に納品される予定だ。最高級の防寒具の一部となる予定の毛皮は、ギルド職員である鑑定人の手の上で、きらきらと銀色に輝いていた。

「おだてても無駄だよ。冒険者に秘匿しているスキルを教えろなんて野暮はやめてくれ」


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