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11.夕暮れの王城で

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 残された庭で、リオンがゆっくりとローラを振り向いた。

 ローラのその手に未だ握りしめたままになっていた矢から、優しく指をはがされた。

「あら。うまく、離れませんね。嫌だわ。今になって、震えが……」

 実戦と呼べるのかどうか分からないが、ローラが武器をもって戦ったのはこれが初めてであった。

 殺されそうになったのも、殺されそうな人を守るべく立ち向かったのも。

 手から始まった震えは、今や足元だけでなく全身に広がっている。

 そんなローラを、逞しい腕が、ぎゅっと包み込んだ。

「守るべき相手に守られてしまい、恰好つきません。が。守って下さってありがとうございます。でも次からは、俺にあなたの事を、守らせてくださいませんか。それと在野に降りるというのはどういうことですか。やはり騎士団の中の誰かに恋をしているからですか。俺では駄目だったんですか。あぁでも違うな、違いますよね」

 矢継ぎ早にされる質問に、ローラは目を廻した。

 涙で滲む視界の先で、リオンが、ゆっくりと、訊ねた。

「先ほど聞かせてくれた『だいすき』は、俺への言葉、ですよね?」

 自信なさげな声に、励まされる。
 突然、抱きしめるなんて大胆なことをしてきた癖に。こんなにも不安げに聞いてくるなんて。

 その胸に、ローラへの想いがあるからこその不安なのだと、心に響いた。

 溢れてくる涙を、目の前の厚い胸板に顔を擦りつけて拭うと、ローラは意を決して、顔を見上げた。

「名前も知らず、遠くから見つめるばかりでしたので。お顔も存じ上げぬまま、あなた様の剣を振るお姿に惹かれておりました。王女教育もされずに放置されてきた野良王女ですが、あなたを、お慕いしております」

「あなたを野良王女などと揶揄する者たちがいることは知っています。陛下もお心を痛めていらっしゃいましたよ。それであの、“王女教育もされずに放置”というのは、どういうことでしょうか。あなたが教育を嫌って家庭教師を辞めさせたのではなかったのですか?」

 突然の疑問に、ローラは吃驚して急いで顔を横に振った。

「私に家庭教師が付いたことはありません。母が存命だった頃に付けてくれた乳母が文字を教えてくれなければ、未だに私は文字すら読むことができなかったでしょう」

「ううむ。なにやら俺が聞いていた話とかなり違うのですが。それも一緒に陛下に報告しておきます。それと」

 リオンはローラを抱きしめる腕に力を込めた。

「白い結婚も、三年で離縁の計画も白紙でお願いします。ちゃんと俺の言葉で伝えればよかっただけだったのに。すみません」

 一旦言葉を切って、その場に片膝をついたリオンは、真摯な瞳でローラを見上げた。

「好きです、結婚してください」
「はい。よろこんで」



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