8 / 17
7.野良王女の結婚
しおりを挟む
■
結局、採寸に来る者もないまま日は流れ、国王陛下から告げられた式を執り行なう翌月すら半分以上も過ぎてしまったある日、突然部屋にウェディングドレスらしきものが運び入れられていた。
伝統的なデザインと言えなくもないが、古めかしいというか実際に誰かが着た物なのだろう。
それを洗い直しただけ、という風情の少し黄ばんだ白いドレスだった。
「オフホワイト、というか生成り色に戻ってしまったというか」
どこまでも自分の結婚はお荷物処理なのだと突き付けられているようで、ローラは涙すら出て来なかった。
なんなら笑いすら出てくる。
多分きっと、これは子爵家の出身にもかかわらず上位貴族を差しおいて王族のみに許されてきた騎士団長という役職に就くことになった花婿殿への嫌がらせを兼ねているのだろう。
そうでなくては、こんな黄ばんだドレスを身に纏った花嫁を横に並ばせようと思うはずがない。
今月も残すところあと半分を切っている。
本当に挙式は行われるのか、そんな根本的な部分ですら、ローラは懐疑的になっている。
爪先が擦り切れた白いサテンのヒールはサイズすら合っていなくて、踵がカパカパだった。
「愛も無ければ周囲からの祝福もない。この婚姻に、意味などあるのかしら」
城内は今、ローラが最初に考えた通りの噂で持ち切りだった。
騎士団長の後任となれる王族が見つからなかったが故に、腕自慢の下位貴族に不良品の野良王女をあてがうことで地位を補うことにしたのだと。
役立たずな王女を受け入れたからこそ騎士爵どまりの男が伯爵位を得て騎士団長になれたのだと揶揄する声も多い。
すぐ横に、その王女が立っていても誰も気しない。まるで聞かせる為に噂をしているようだとすらローラには感じられて辛かった。
「ううん。私より、リオン・ボッカルディ騎士団長の方が、ずっと迷惑だと思っているわね」
まだ顔も知らない未来の旦那様の不運に、苦笑した。
結局、採寸に来る者もないまま日は流れ、国王陛下から告げられた式を執り行なう翌月すら半分以上も過ぎてしまったある日、突然部屋にウェディングドレスらしきものが運び入れられていた。
伝統的なデザインと言えなくもないが、古めかしいというか実際に誰かが着た物なのだろう。
それを洗い直しただけ、という風情の少し黄ばんだ白いドレスだった。
「オフホワイト、というか生成り色に戻ってしまったというか」
どこまでも自分の結婚はお荷物処理なのだと突き付けられているようで、ローラは涙すら出て来なかった。
なんなら笑いすら出てくる。
多分きっと、これは子爵家の出身にもかかわらず上位貴族を差しおいて王族のみに許されてきた騎士団長という役職に就くことになった花婿殿への嫌がらせを兼ねているのだろう。
そうでなくては、こんな黄ばんだドレスを身に纏った花嫁を横に並ばせようと思うはずがない。
今月も残すところあと半分を切っている。
本当に挙式は行われるのか、そんな根本的な部分ですら、ローラは懐疑的になっている。
爪先が擦り切れた白いサテンのヒールはサイズすら合っていなくて、踵がカパカパだった。
「愛も無ければ周囲からの祝福もない。この婚姻に、意味などあるのかしら」
城内は今、ローラが最初に考えた通りの噂で持ち切りだった。
騎士団長の後任となれる王族が見つからなかったが故に、腕自慢の下位貴族に不良品の野良王女をあてがうことで地位を補うことにしたのだと。
役立たずな王女を受け入れたからこそ騎士爵どまりの男が伯爵位を得て騎士団長になれたのだと揶揄する声も多い。
すぐ横に、その王女が立っていても誰も気しない。まるで聞かせる為に噂をしているようだとすらローラには感じられて辛かった。
「ううん。私より、リオン・ボッカルディ騎士団長の方が、ずっと迷惑だと思っているわね」
まだ顔も知らない未来の旦那様の不運に、苦笑した。
153
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる