現実恋愛短編集

メカ喜楽直人

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初恋は実らないものだと言ったのは誰が最初なんだろう

幼馴染みは初恋が実らないなんて許さない

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「トンだ嘘つき野郎だよ」

 ひと月も早く誕生日プレゼントを渡してきたと思ったら、翌日には引っ越してるとかどういうことなんだって話ですよ。


「髪だって、これから伸ばしてやろうと思ったのに」

 あいつから誕生日プレゼントを貰ったのは、初めてだった。
 それも女の子に贈るような物を選んでくれて、本当に嬉しかった。

 お互いが男だとか女だとか、理解する前からずっと一緒に遊んできた。
 これからだってずっと一緒にいるって思ってた。

 でもこれから、ちょっとずつ違う関係になれるんじゃないかって、ドキドキしてたのに。

「ぜぇったい、赦さないんだから」




 でも、学校の先生にあいつがどこへ引っ越したのか聞いてみたけれど、「個人情報が~」とかうだうだ言って教えてもらう事はできなかった。

 放課後になって、いつの間にか引っ越していった幼馴染みの家まで、とぼとぼと歩いていく。

 ──誰もいないって、知ってるのに行っちゃうとか。私ってば、ウザくない?

 でも、もしかしたら忘れ物して取りに戻ってきてるかもしれない。
 几帳面なあいつが忘れ物なんてする訳がないけれど。私じゃあるまいし。

 真面目で、大人しく見えるけど、実は口が悪くて、頭が良くて。
『全然似てるトコないのに、仲いいよねぇ』
 部活の仲間とか他の友達たちからは不思議がられる。
『似てないから、ぶつかることもないんだよねぇ。あっちの方がずっと頭いいし』
 いつもの答えを口にすれば、みんな笑ってくれる。
『ホント。男子とふたりでいても、恋愛って感じがまったくしないのが、あんただよねぇ』
『当たり前!』

 そう胸を張っていうのが苦しくなってきたのは、いつ頃だったろう。

 ──いつか素直になれる日まで、ずっと一緒にいるんだと思ってたのは、私だけなの?

 昨日のこの時間は、まだ一緒にいたのにと思うと、涙が出た。


 しんみりして、きっと空き家になってしまったあいつの家に行ったのに。

「電気、点いてるじゃん」

 表札だって、そのままだった。
 窓にかかるカーテンだって、そのままだ。

 だからきっと盛大なドッキリなんだと思って、怒りのままに玄関チャイムを鳴らした。

「はーい、どなた様?」

 けれど、出てきたのは、まったく知らない女の人だった。
 お客様かな。親戚の人なのかもしれない。ロングTシャツ一枚しか着ていないし。お出掛け用の服には見えない。
 おもわずじっと観察してしまって気が付いた。お腹が大きい。妊娠、してる女性に代わりに出て来させてしまったのか。大切にしないといけない時期なのに、と慌てる。でもそんな女性がなんで幼馴染みの家にいるんだろう。頭が混乱してくる。

「えっと、あの、その……わたし、その同じ中学の、えっと」

 なぜか、知らない女の人に、あいつの名前を言って呼び出して貰うのが恥ずかしくなって口籠る。

「あー、あーあー! 息子さんのガールフレンド!」
「ガッ!」

 ガールフレンドって。ガールフレンドってなんだ、それ。

「おさ、おさななじみです!」
「カノジョじゃないの?」
「……チガイマス」

 ふーんとニヤニヤ笑われた。上から下までじろじろ見られて、恥ずかしい。

「あの! 今日、学校で、あい……彼が引っ越したって先生が言ってて」
 恥ずかしかったけど、あいつを出して貰わなくちゃ話が始まらないので頑張る。
 勇気を振り絞って話し出したのに。

「あー、息子さんなら、昨日の内に、母親側の親戚の家へ引っ越してったよ? もうあのふたりはいないから、この家には来ないでね?」

 バタン、と扉を閉められて頭が真っ白になった。

 その後は、何度扉を叩いても、チャイムを鳴らしても、あの女の人は出てきて話をしてくれようとはしなかった。



 夜になって。
 おかあさんがご近所情報を仕入れて帰ってくるまで、私は玄関に入ったところで着替えもしないで呆然としていた。

「ダブル不倫で、ご両親が離婚して、あいつはおかあさんの田舎で暮らすことになったってことか」

 おかあさんは最初、「子供に聞かせたい話じゃない」と渋ったものの私が引き下がらなかったので諦めて教えてくれた。
 話を聞かされて呆然となる私に、お母さんは甘い紅茶を淹れてくれた。
 喉を潤していく甘さと温かさに、ホッとする。

「ちょっとネグレクト気味だなっていうのは有名だったけど、あの子はずっと成績も優秀で礼儀正しかったでしょう。だからご近所には心配してた人多かったのよねぇ」

 ため息をつきながらおかあさんが私の横に座った。
 そうして肩を抱き寄せてくれる。

「あんたはずっと、あの子の一番近くにいたから。何にも知らないまんまじゃ、いられないよねぇ」
「……あいつ、わたしに、なんにも教えて、くれなっ」

 愚痴なのに。最後まで言葉にすることは、できなかった。

「よしよし。あの子の幸せを、一緒に祈ってあげようねぇ」
「……やだ」
「え?」
「やだ! あいつをぶん殴りに、わたしは行く。なんで話してくれなかったんだって。一番傍にいたのに。相談してくれなかったことを、怒りに、会いに行く! これからだって、私がアイツの一番傍にいるんだって思い知らせてやるんだ!」

 立ち上がって宣言した。そうだ、絶対に思い知らせてやるのだ。

 私がどれだけ、あいつのことを特別に思っているかってことを。知らないままでいさせてなるものか。

「……あんた。ぷはっ。恋する乙女から随分遠いトコに、あんたはいるんだねぇ」

 おかあさんは目を丸くして笑い続けたけれど、あいつのいる場所を探してくれると約束してくれた。



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