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10.つまりは恋愛対象外なのよ
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「雑草ではありません。あれは初夏には綺麗なピンクの大輪の花を咲かせるのです。そこから採れた蓮の実のシロップ漬けや根茎から作った上蓮根餅は、カンパニ様も大好物ではありませんか」
蓮根を擦って取り出した澱粉粉はじゃが芋やトウモロコシから取った澱粉粉より色が濃くて味に癖がある。だが、だからこそそれで作った葛餅もどきは格別の味わいがするのだ。
私が最初に作った蓮根の繊維がたっぷり入った蓮根餅とはまるで別格、もちもちくにゅくにゅとした今までにない食感と舌触りは、あっという間にグルメ達の心を掴み、高級菓子の仲間入りを果たした。
「え、あ。あれが? あのひと口で銀貨一枚するあの上蓮根餅が、お前の領地に生えまくっている雑草からできている、だと?」
「雑草ではありません。蓮の花は、遠い国では神の花と呼ばれる尊い花です」
嘘吐いてないもん。蓮の花は仏像の足元に咲いてるアレだもん。お釈迦様が手にしてるお花だもん。
それにしても、私達が売ってるのより高いの喰ってんなぁ、カンパニ。
まぁ『蓮根でんぷん粉』の名前で原材料を売っていたりもするので、王都内ではお貴族様御用達のお店でも出しているんだろう。しかし、一個銀貨一枚はやりすぎじゃないの? それでも買う人がいるんだからいいのか。
蓮根餅は日持ちしないけど、でんぷん粉としてなら領外へも売れるからね。我が領の主力商品のひとつです。
「それは……素晴らしいな!」
「でしょう!」
ガシッとカンパニが差し出してきた手を握り締める。
我が領地のすばらしさをようやく知らしめることができて嬉しい気分だ。
気分がいいので、私は首にかけていたお守りの中からそれを引っ張り出して、カンパニに向かって差し出した。
「これは!?」
「この条件で。よろしいですね?」
「ありがとう。感謝する。配当金も、期待している」
書類の内容を読み進めていく内に、満面の笑みとなったカンパニが、首に絡みついたままの美女を見上げて頷き合い、サインを認めた。
私が差し出したのは、婚約の白紙を申請する書類だ。
慰謝料は双方共になし。両家はこれからも対等な立場で業務提携を続けていくと但し書きしてある。
でもだって。私にだって、結婚相手には夢があるのだ。
オッジ殿下が美形であるように、この世界にだってちゃんと美形はいる。
そして美形ではなくても好感度の高い男性はいくらでもいるのだ。
高級品だからいいものだというのでなく、自分が食べてみて美味しいと思ったものを、美味しいといって一緒に食べてくれる人も。
与えて与えられて。同じ目線で一緒に語り合い、意見を出し合ってより良い関係を作り上げられる、そんな関係がいい。
例えば料理長の息子さん、とか。まぁ彼は平民だけど。でも、彼と一緒に蓮根でんぷん粉の精製方法を試行錯誤した時は楽しかった。皮を剥いてから擦り下ろしたり、皮ごと擦り下ろしたり、丸ごと乾燥させてから粉砕したり。
出来上がった蓮根でんぷん粉で作った上蓮根餅は味わいも色々で、増産できるという視点だけじゃなくて作れるお菓子や料理の種類まで変わってくることが分かったのだ。あれは興奮した。こっちで、前世の知識をさらに発展させることができるなんて。思わなかったもん。楽しかった。
その時に見せてくれた笑顔とか。いろいろ。色々ね、うん。格好良かったんだよ。まぁ平民だから、彼と結ばれるということはないと思うけど。うん。はぁ。前世の記憶の残る私には、その辺りに区切りをつけるのが難しいのだ。
まぁなんにせよ、人生における価値観が、その物の価格が高いかどうかだけの男と暮らすのは、私には無理なのだ。
蓮根を擦って取り出した澱粉粉はじゃが芋やトウモロコシから取った澱粉粉より色が濃くて味に癖がある。だが、だからこそそれで作った葛餅もどきは格別の味わいがするのだ。
私が最初に作った蓮根の繊維がたっぷり入った蓮根餅とはまるで別格、もちもちくにゅくにゅとした今までにない食感と舌触りは、あっという間にグルメ達の心を掴み、高級菓子の仲間入りを果たした。
「え、あ。あれが? あのひと口で銀貨一枚するあの上蓮根餅が、お前の領地に生えまくっている雑草からできている、だと?」
「雑草ではありません。蓮の花は、遠い国では神の花と呼ばれる尊い花です」
嘘吐いてないもん。蓮の花は仏像の足元に咲いてるアレだもん。お釈迦様が手にしてるお花だもん。
それにしても、私達が売ってるのより高いの喰ってんなぁ、カンパニ。
まぁ『蓮根でんぷん粉』の名前で原材料を売っていたりもするので、王都内ではお貴族様御用達のお店でも出しているんだろう。しかし、一個銀貨一枚はやりすぎじゃないの? それでも買う人がいるんだからいいのか。
蓮根餅は日持ちしないけど、でんぷん粉としてなら領外へも売れるからね。我が領の主力商品のひとつです。
「それは……素晴らしいな!」
「でしょう!」
ガシッとカンパニが差し出してきた手を握り締める。
我が領地のすばらしさをようやく知らしめることができて嬉しい気分だ。
気分がいいので、私は首にかけていたお守りの中からそれを引っ張り出して、カンパニに向かって差し出した。
「これは!?」
「この条件で。よろしいですね?」
「ありがとう。感謝する。配当金も、期待している」
書類の内容を読み進めていく内に、満面の笑みとなったカンパニが、首に絡みついたままの美女を見上げて頷き合い、サインを認めた。
私が差し出したのは、婚約の白紙を申請する書類だ。
慰謝料は双方共になし。両家はこれからも対等な立場で業務提携を続けていくと但し書きしてある。
でもだって。私にだって、結婚相手には夢があるのだ。
オッジ殿下が美形であるように、この世界にだってちゃんと美形はいる。
そして美形ではなくても好感度の高い男性はいくらでもいるのだ。
高級品だからいいものだというのでなく、自分が食べてみて美味しいと思ったものを、美味しいといって一緒に食べてくれる人も。
与えて与えられて。同じ目線で一緒に語り合い、意見を出し合ってより良い関係を作り上げられる、そんな関係がいい。
例えば料理長の息子さん、とか。まぁ彼は平民だけど。でも、彼と一緒に蓮根でんぷん粉の精製方法を試行錯誤した時は楽しかった。皮を剥いてから擦り下ろしたり、皮ごと擦り下ろしたり、丸ごと乾燥させてから粉砕したり。
出来上がった蓮根でんぷん粉で作った上蓮根餅は味わいも色々で、増産できるという視点だけじゃなくて作れるお菓子や料理の種類まで変わってくることが分かったのだ。あれは興奮した。こっちで、前世の知識をさらに発展させることができるなんて。思わなかったもん。楽しかった。
その時に見せてくれた笑顔とか。いろいろ。色々ね、うん。格好良かったんだよ。まぁ平民だから、彼と結ばれるということはないと思うけど。うん。はぁ。前世の記憶の残る私には、その辺りに区切りをつけるのが難しいのだ。
まぁなんにせよ、人生における価値観が、その物の価格が高いかどうかだけの男と暮らすのは、私には無理なのだ。
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