糞ゲーと言われた乙女ゲームの悪役令嬢(末席)に生まれ変わったようですが、私は断罪されずに済みました。

喜楽直人

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7.ヒロイン不在の婚約破棄

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 へらへらと厭な笑いを浮かべながら、一応は声を潜めて私の顔のすぐ横で囁かれた。

 ムカつく。本当に、ムカつきやがりますわ。

「失礼な。借金? 何のことでしょうか。我が領地の経営は健全そのものですわ!」

 パシン、と扇で無礼な男の頬を叩きつけた。あ、やっちゃった。てへ。

 驚き過ぎたのか、実際の打撃によるものより心の衝撃がずっと大きすぎたのか、その場にカンパニ様……いいやもう呼び捨てで。カンパニの野郎がへたり込んだ。

「ぼ、ぼくは知ってるんだぞ! お前の領地は大嵐のせいで背負った借金を払えなくて困ってるんだろうが」

 怒りに手をぶるぶると震わせながら、カンパニが私を指さして叫ぶ。
 他人を指さしちゃ駄目って教わらなかったのかしら。厭ね。

 確かに、我がシシャック家の領地は婚約を結ぶ前年に領地を襲った大嵐のせいで山が崩れて街道を結ぶ橋が壊れた。
 土石流は農地を吞み、その年の農産物は全滅。なんなら未だに山から流れ出続けている粘土質の土混じりの水が、かつての農地に広がり続けており、主たる産業である小麦の生産は出来なくなってしまった。

 まずは領民の命を繋ぐ為の糧食を配り、橋を直し、道に広がった粘土を取り除き、家屋の補修費用の助成を行なった。あのままでは収益の出ない年が続くことになり、国からの見舞金や税の緩和処置でもどうにもならなくなるところだった。

 それを助けてくれたのが、カルネモッチ家だ。

 あの時の援助金が無ければもっと切羽詰まっていたかもしれない。それは素直に感謝したい。あのお金があったからこそ、今の私がここにいるんだから。

「シシャック家には、カルネモッチ家に借金はしておりません。現在あるのは業務提携という絆だけ。出資金に見合うだけの配当を年に2回に分けてお支払いしている状態ですね」

 そうなのだ。我がシシャック子爵家がカルネモッチ准男爵家より援助金として都合をつけて貰った資金はすでに返済し終えているのだ。
 そうして、現在私が始めた事業に関して関心を持ってもらって、資金を提供されているにすぎない。

 つまり、我がシシャック子爵家には借金などない。繰り返す、借金など、無い!

「嘘を吐くな。お前の領地はいまだに泥だらけじゃないか! 雑草を取り除く事すら手が回らず、あちこちボーボーにして」

 まぁね。そう思ってるんだろうなぁというのには気が付いていた。
 我が家のタウンハウスへ来た時に、お茶菓子として領地の新たな特産品を出しても「無理して高い菓子を買ってこなくてもいいのに。確かに好物だが実家では幾らでも食えるからな!」と自慢げに腹を揺らして笑っていたから。


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