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第二章:貴族学園で二度目の恋を

1.入学初日

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 貴族の子息令嬢が集まる王立学園へ、13歳となったアーリーンが初登校する日がやって来た。

 飾りの少ないシンプルな上着ダブレットは上半身にはぴったりしているのに腰から下へと裾が広がり膝を隠すほど長い。それを細いベルトで止めている。その下にロング丈のワンピースを重ねて着て、襟元に学年ごとに色の違うタイを結ぶのだ。

 まるで父が、宰相として王宮へ出仕する時に着用している服装そっくりだとアーリーンは鏡の中の自分を見て思った。

 ただし、父が着ているのは、上着ダブレットではなくジュストコールであるし、その下に着ているのはフリルのついたシャツとジレだし、着ているその全てに精巧で緻密な刺繍が施されているのだが。全体のイメージだけなら、ドレスよりずっと似ている。

 初めて手を通した制服はごわごわしていてまだ慣れないが、きっとすぐに身体に馴染むだろう。

「アーリーン様、本当にそのようなお姿で行かれるおつもりですか?」
「えぇ。勿論よ」

 ふわふわで、結ぶだけではいつの間にか解けてしまうアーリーンの髪も、香油を馴染ませきっちりと編み込むことで一筋の乱れもない。
 前髪まで全部編み込んだお陰で、垂れ目でどこか甘えたに見える自分の瞳が今はきりりと見えることに満足する。

「せめてこの髪飾りを」
「私は学園に勉強に行くのよ。宝飾品など不要でなくて?」
「ですが……」
 尚も縋ってくる侍女のアンナへ笑顔で話は終わりだと告げる。

「では、行ってくるわね」
「おじょうさま!」

 侍女のアンナもこの学園の卒業生だ。だから高位貴族であるならばその証として高価なアイテムを必ず見えるところに身に着けておくという生徒内のルールを理解していた。

 地方からやってきた生徒たちには、その人が高位貴族であるかどうかなど分かる訳がない。学園内では身分差はないとされていても、卒業したらそれも終わりだ。無用な衝突など避けるべきで、その為にもひと目見ただけでその人の身分がある程度は分かるようにするべきなのだ。

 勿論、アーリーンに対して、アンナは口が酸っぱくなるほど何度も説明した。だが、敬愛する主たるアーリーンは、「学園は勉強する所なのよ。華美な装いなど不要だわ」と言うばかりで、頑として譲ろうとしなかったのだ。アンナは、その他の細々とした学園での学生のルールや攻略法を教えたが、どこまで覚えていてくれるか不安しかない。
 正直、ここまで来たらもうお手上げするしかなかった。

「あぁ。無駄に問題を起こさないでお帰り下さい、アーリーン様」

 アンナは祈る気持ちで、主たるアーリーンを見送った。


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