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最後にお別れを。どん底に突き落とされた莉子を、今の明るい場所まで引き上げてくれたヒーロー、八幡と最後に握手がしたかった。
あの夜から今日まで、八幡からの連絡はすべて婚約破棄とカードの不正使用に関する事務的な内容ばかりだった。
個人的なお誘いも、匂わせるものもまるで無し。
つまりはそういうことだ。
弁護士として見過ごせなかった八幡は、ご両親を老人ホームへ送り出し寂しかった。そこに多少アルコールが入っていたこともあって、顧客になりそうな莉子に過剰なサービスをしてしまったというだけ。
そう分かっていても、莉子は彼と別れてもいつでも思い出せるように、最後に彼との握手が、体温が欲しかった。
想いを込めて、右手を差し出す。
「それは、酷くないですか」
「八幡弁護士?」
差し出した右手をぐいっと引き寄せられて、強引に恋人繋ぎされた。
そうして、莉子の目の前で、八幡が莉子のその指先へ、キスを贈る。
人差し指、中指、薬指、小指と順番にきて、最後。
親指へのキスが来ると莉子が身構えた時、八幡が熱く舌を伸ばした。
「あ」
親指から手の甲へ、そうして更にその上へ。
八幡の赤い舌がゆっくりと味わうように莉子の柔らい肌の上を滑る。
塗れた舌が上ってくる。八幡の赤い舌が、莉子のすべてを塗り替えていく。
ついに、莉子の肘の内側、やわらかくて皮膚の薄い部分まで八幡の舌が到達した時、ちゅうとそこへ吸いつかれた。
赤い標が、そこに浮かんだ。
満足げにその赤い標を見つめた後、八幡がネクタイの結び目に指を掛けて、ぐいっと引っ張り寛げた。
整えられていた前髪を掻きあげ、莉子を見つめる。
そうして、再び莉子の肌を食みながら宣言した。
「逃がす訳ないでしょう? もし逃げるつもりなら、分からせてあげる。全部上書きしてあげますよ」
「っ!」
莉子は、自身の奥に喜びの熱が生まれたことに震えた。
どうやら莉子は、ヤバい男から逃げ出せたのに、ヤバい男に捕まったらしい。
そうしてそれを喜んでいる自分に、微笑んだ。
「分からせてください、たっぷり」
あの夜から今日まで、八幡からの連絡はすべて婚約破棄とカードの不正使用に関する事務的な内容ばかりだった。
個人的なお誘いも、匂わせるものもまるで無し。
つまりはそういうことだ。
弁護士として見過ごせなかった八幡は、ご両親を老人ホームへ送り出し寂しかった。そこに多少アルコールが入っていたこともあって、顧客になりそうな莉子に過剰なサービスをしてしまったというだけ。
そう分かっていても、莉子は彼と別れてもいつでも思い出せるように、最後に彼との握手が、体温が欲しかった。
想いを込めて、右手を差し出す。
「それは、酷くないですか」
「八幡弁護士?」
差し出した右手をぐいっと引き寄せられて、強引に恋人繋ぎされた。
そうして、莉子の目の前で、八幡が莉子のその指先へ、キスを贈る。
人差し指、中指、薬指、小指と順番にきて、最後。
親指へのキスが来ると莉子が身構えた時、八幡が熱く舌を伸ばした。
「あ」
親指から手の甲へ、そうして更にその上へ。
八幡の赤い舌がゆっくりと味わうように莉子の柔らい肌の上を滑る。
塗れた舌が上ってくる。八幡の赤い舌が、莉子のすべてを塗り替えていく。
ついに、莉子の肘の内側、やわらかくて皮膚の薄い部分まで八幡の舌が到達した時、ちゅうとそこへ吸いつかれた。
赤い標が、そこに浮かんだ。
満足げにその赤い標を見つめた後、八幡がネクタイの結び目に指を掛けて、ぐいっと引っ張り寛げた。
整えられていた前髪を掻きあげ、莉子を見つめる。
そうして、再び莉子の肌を食みながら宣言した。
「逃がす訳ないでしょう? もし逃げるつもりなら、分からせてあげる。全部上書きしてあげますよ」
「っ!」
莉子は、自身の奥に喜びの熱が生まれたことに震えた。
どうやら莉子は、ヤバい男から逃げ出せたのに、ヤバい男に捕まったらしい。
そうしてそれを喜んでいる自分に、微笑んだ。
「分からせてください、たっぷり」
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