上 下
102 / 110
第六章 ハンカチ屋奪還作戦

その後のカラムの助言

しおりを挟む
話し合いは終わり、開店をする時間になった。

ニムルスは帰宅し、カイルは掃除をささっと終えてやっぱり帰宅。最近はなんらかのお肉料理をお土産にもらっているわね。お給料だといって。


……食材が、高いのよ。最近の王都での食料品の物価上昇は目に余るものがあるわ。

肉屋の商品は開店と同時に売り切れるし、野菜もやせ細ったものしか採れない。頼りの森の恵みも、目に見えて減ってきている。

お父様は、この状態をどうお考えなのかしら。
精霊様の復活を待つ。もちろんそれもあるのだけど。
農村の拡大をして、やせ細った野菜であっても収穫量を増やす。ほかの精霊の里から、豊かな作物があれば買い取る。作り方を工夫して、栄養のとれるようにごはんを改良する。

いくらでも、やりようがあるはずなのに。お父様、派閥争いなどしている場合ではなくてよ。目の前で未来の兵士が、小さな一人分のお肉の袋の匂いによだれを垂らしながら、弟妹の為に持ち帰っているのです。


なんの効果もなく、食糧が足りないままならば、貴族達も含めて配給制にするしかないわよね。


そのあたりも話し合わなければ。


私は意を決して、お父様にお手紙を書いた。

貴族的な挨拶文は、すらすらと手が滑るように書き上げられる。あれは、おはようとかこんにちはとかと同じ意味合いなのだから、文学の才能なんか発揮しなくても書ける。要は慣れだ。

その後が大切。


「大切なお話があります。お忙しいことと思いますが、わたくしの将来の為にお時間を作って頂くことは可能でしょうか」


書いた。書いて、しまったわ。お父様へのお手紙を。

わたくしが、社交界に戻ると。復帰をすると。

共に連れて行きたい、優秀な平民もいると。


反対されるでしょう。しかし、わたくし、強くなったのです。

少々の傷なら自分で治せますし、仕込み杖の使い方も習っております。騎士に敵うとまではいきませんが、単純な力押しでは負ける気はあまり致しません。後は技術の問題ですわね。

ですから、剣術も学びたいのです。最高峰と言われる、騎士団に伝わる秘伝の剣術を。


お父様。わたくしは、いつまでも子供ではありません。

罪を犯してしまいましたが、この優しいご家族と、何より被害者のリーナがわたくしを鍛え上げてくださっております。
……リーナのは半分仕返しというかからかい……いえこんなこと考えてはいけないわね。


私とお父様の橋渡し役、ロダンさんに、手紙を託した。

どうか、うまくいって。お願い。


あ、そうそう、なぜかカラムに、カラムの知り合いが隠れて護衛するから大丈夫と書いておけと言われたわ。まあ、カラムはベテラン冒険者ですし、信用できる大人ですから、末筆に書いてみたわ。

成功するはずだっていってたけれど本当かしら。

インクが滲んだ、擦り傷だらけの手をじっと見る。


アリス。わたくしのようには、どうかならないで。

貴族になるのはいいわ。幸せになれないのが問題なのよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

全ては望んだ結末の為に

皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。 愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。 何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。 「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」 壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。 全ては望んだ結末を迎える為に── ※主人公が闇落ち?してます。 ※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月 

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...