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第五章 婚約志望者の秘密
8.情報収集の、収集
しおりを挟むリーナの家でみんなで話してから、ちょうど一ヶ月。季節は、初夏になりつつある。
外に出ると、日差しのあるところでは、じんわりと汗をかくようになってきた。暑い。
今日の夜に家族会議がある。俺も、できることをやらないと。
俺はまた、カイルと一緒に狩りに来ていた。
いつものように、狩りに集中しているふりをする。
冷静に、冷静に。
「珍しいな、ニムルスから誘ってくるなんて」
う、痛いとこつくなよカイルなのに。
「だから、追い立て役が必要なんだって。どうしてもうさぎ食いたくて……あぁ、また逃げた」
はぁ、と、もう諦めのポーズを取る。
ちょっと休もう、と言って、小川のほとりに行く。
がぶがぶ水を飲んだ後は、二人で川に足を入れて涼む。
こうするとほら。
「……あれからさ。ハンカチ屋の情報、ないんだよな」
始まった。無言で頷く。
いや悪いけっこう情報上がってるけど開示できない。ごめん。
そっちがどれくらい把握してるのか知りたいんだ。
ああ、嫌だ。カイルも引き込めたらいいのに。
……いや、巻き込んだらダメだよな。俺の勝手な気持ちで、カイルを捻じ曲げちゃ、うん、いけない。
カイルはまっすぐに、明るい道を歩く人間だ。
「ロザリーが、かなり動いてくれててさ。どうやってんのかわかんねぇけど。とりあえず、普通に生活はしてるらしいんだ。かなり厳しく、かていきょうし、ってやつに一日中しごかれてるらしい」
……公爵家だからな。その程度はわかるだろう。
ロザリーは、まだカイルにも身分は明かしてないんだな。なら、それ以上は掴んでても話してないはずだ。
カイルからこれ以上の情報は期待できない。ちょっと際どいけどやっぱりロザリーに直接
「今ハンカチ屋がいるとこって、ロザリーを狙ってる一派の家なんだってさ。ロザリーに近づいて何かさせるために引き取られたと思うって。最悪、殺しに来る、って。
やたら熱心に、ナイフの扱いの練習してるらしいんだよ。毒にも強くなるように訓練してるらしい。
なあ、ハンカチ屋は、悪いことさせられるのか?
止められないのか?」
……色々出てきた。
カイルは、しゅんと項垂れて眉毛を八の字にしている。まっすぐ俺を見る目は、どこまでも単純で透明だ。
うん、そのまま汚れないでくれ。
……いやそこじゃない。ロザリー、しゃべりすぎだろ!!ダメだそんなにバラしたら、わたし現政権派閥の貴族ですって言ってるようなもんだ!
なんて危ねぇ。何してんだ実家ちゃんと教育しろ。
「なあ、カイルそれ、俺以外に話したか?」
ふるふる。茶色いくせ毛がふさふさふるえる。
「いや、ニムルス以外には絶対話すなって言われた」
ほっと胸をなでおろす。その程度の危機管理はできるか。がばがばだけどな。
川でばしゃばしや遊んでたカイルが、すっと、俺をまっすぐ見つめてきた。なんだ。どうしたんだ。
「あと伝言。わたくしに全部話せとは言わないけど、せめてリーナには全部話した方がいいって。リーナはロザリーの秘密も知ってるけど誰にも言ってないから、大丈夫だってさ。
リーナ、ちょっと拗ねてるぞ。お前の父ちゃんが、けっこう色々におわせてる、らしいからな」
……親父!!
まあ、リーナの両親は当然知ってる話なんだし、いずれリーナも片足つっこむ世界の話だ。そろそろ、言っても、いいのかな。
重荷に、ならないかな。
リーナ。君の幸せが、一番大事なんだよ。なによりも。
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