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第四章 ハンカチ屋の様子見

9.強制イベント発生

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「……今日、依頼はないはずですよね」

にやり、ダルクさんは笑う。
「ああ、ねぇな。お宅のは、ね」

つかつかと、ダルクさんは近づいて来る。私は同じくらい後ずさって、距離を取る。


「こっ……来ないで!!」

さっと、さっきもらった赤い魔石を突きつける。
これがあれば、ダルクさんを吹き飛ばすことだって、きっとできる。

「うわ、物騒なもん持ってるなー。誰にもらった?それも調べなきゃなんねぇか……めんどくせぇ」

くっ、あんまり効いてない。

「帰ってください。でないと、怪我しますよ」

ぶははっ、と、笑われた。何よ。

「こんなとこでそれ使うのか?ここ半壊するぞ。怪我人がたくさん出るだろうなぁ。お前のせいで」


つかつかと距離を詰めて来る。階段の踊り場に、私の背が、つく。

「大丈夫だよ。あんたを可愛がってくれる高貴な方に、会わせてやりたいだけだ」

一歩、一歩、そっとダルクさんは近づいて来る。
魔石を、ぎゅっと握りしめた。


「俺はここにはもう来ない。用が済んだら、他の街にずらかるからな。それも持ってていい。それならどうだ?」

とうとう、私の目の前まで、来てしまった。
すっ、と、しゃがんで私と目線を合わせ、ダルクさんは話す。

「言っとくが、貴族なんて関わるもんじゃねえぞ。あいつら子供すら駒としか思ってねぇ。だけどよ、お前の母ちゃんは、救ってやれる」


え、なんて?お母さんがどうしたって?

「知らねえのか?まあ、知らねえよな。
お前の母ちゃんはバレてないと思ってるが、ノーリス男爵家は、お前の父親の息がかかってる家だ。最初から逃げられてなんかなかったんだよ」

かたかた。どこかから、音がする。なんだろう。

「おとう、さん?」


ふっ、と、ダルクさんは、なんだか寂しげな笑い方をした。

「ちょっと場所変えるぞ。家は嫌なんだな?じゃあ、どこか誰かに聞かれないような、小さな公園なんかいいんだが、どこがいい?」

……譲歩してきた。あんなに図々しかったのに。


様子見は、得意だ。このひとは悪いひとだけど、今だけは、なんだか正直になっている気がする。

話は、聞いておくか。


「ある。教会の、裏庭が、近い」 

街灯があるから明るいし、人通りもそれなりにある。見通しも悪くない。あそこなら。

ははっ、と、ダルクさんは笑った。

「さすが高級住宅街だな。……それだけの給金をもらえる仕事にありつけたことを、お前の母親には怪しんでもらいたかったもんだが。
今言っても始まらねえ。行くぞ」


ダルクさんは、私を素通りして、階段を先に降りだした。

ふっと、腰が抜けそうになるのを必死に我慢する。
震える手で、手すりをつかみ、できるだけ堂々と、歩く。
様子見は、得意だ。この人は、舐められると対応を変えるみたいだ。魔石だけでこんなに対応が変わった。
舐められなければ、ちゃんとした話が聞ける。


お母さんが危ない。お父さんは、悪いひとなんだ。

やっぱり、お母さんは、おてつき、だったんだ。

しっかり、しなきゃ。
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