上 下
45 / 110
第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる

9.カラムとの帰り道

しおりを挟む
夕暮れの光は、この下町の古くて高い建物にはほとんど届かない。

薄暗い道を、迷いなく歩いていく。もう何日も来ているから慣れたもので、二人とも足並みが乱れることはなかった。

「なあ、カイル君。きみ、やっかみ受けてるだろ」

はっ、と、カラムさんの顔を見る。にやっと、カラムさんは笑っていた。
やっかみって、なに。

「やっかみってのはな、うーん、なんだ、嫉妬、みたいなものだ。これもわからんか?……要するに、羨ましがられてないか、ってことだな!」


こくり。頷く。その通りだ。

「リーナんちに行ってるってばれて、なんか、言われたんだ。
リーナがかわいいから尻尾振ってるんだろ、犬みてぇにって……俺の、ライバルだと思ってた奴が」

「それで、どうしたんだ」

「なんか、これまで互角だったのにやけに攻撃が軽くてさ、あいつに気がすむまで攻撃させておいて、一撃で勝負決めたよ。今度、ちゃんとあいつの話、聞いてやらなきゃな」


ふっ、と、カラムは笑う。

「聞いて、どうするんだ。恋の応援でもするのか?君は、リーナをどう思ってるんだ?」


えあ、うーん。ちょっと顔が熱い。

「……かわいいと、思うよ。そもそもクラスで一番可愛い子だから、ああいう噂が流れるんだよな。
でも、だからなんなんだよ。その前に、謝らなきゃなんねぇのに、全然あいつ話きかねえんだよ」


ははっ、と、笑って、カラムさんは上機嫌だ。

「それが断罪なのさ。わかるか?
リーナが君で遊んですっきりする。君は謝れなくてもやもやする。結果、つきまとうことになって、ずっといらいらしてることになるんだ。
……リーナも、えぐいことをする」


まあ。その悪い顔含めて俺たちのかわいいリーナなんだけどな、と、カラムさんは言う。
そうやって、ふざけていたから、君はクラスで仲間外れにはなってないだろう?と。

「それなのに、男連中の嫉妬でバランスが崩れ始めてるんだな。これは、女連中には助けてやれんぞ。
君は、どうするんだ?」


え、どうするって。

今まで普通に過ごせてたのって、リーナ、被害者が直接ばかにして許している雰囲気になってたから、なのか。
そこに、今更贖罪なんか始めたから?

右手が、じくじくしてきた。

そうじゃねえ。そうじゃねえのに。
まだ、謝れてねえのに。


「まあ、どうするかは君の自由だ。
学校って言っても、鐘が二つ鳴るくらいで終わるものだろう。
何もしなくてもいい。かかっていってもいい。男の子だから、女のロザリーに代弁してもらうのもダメだ。どうするかは、君次第だな」


がしがしがし。また、乱暴に頭を撫でて、カラムは俺を部屋に送り届けた。

頑張れよ、といって去っていくカラムは、やっぱりかっこよかった。
父さんのつぎくらいには。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

全ては望んだ結末の為に

皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。 愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。 何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。 「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」 壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。 全ては望んだ結末を迎える為に── ※主人公が闇落ち?してます。 ※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月 

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

処理中です...