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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる

1.金髪縦ロールが、俺の背中で泣いている

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「ひっぐ……ひっぐ……あぐやぐれいじょうなのよわだじ……りーなの…らいばるに…」

俺の背中で、金髪縦ロールが泣いていた。

クラスで急に泣き出したから、その時話してた俺が医務室に連れて行ったときのことだ。
背中が段々しっとりしてきた。どんだけ泣くんだ。
恥ずかしいやつだな。もう俺たち10才なんだぞ。

こないだやった、リーナの机かくし。誤解だった悪いうわさ。そのお詫びで、この金髪縦ロールことロザリーは、半年以上リーナの家の酒場で働いていたらしい。今日それがみんなにバレた。


そんなに泣かなくても。


リーナはすげえ奴だ。いじめをする悪いやつに学校を辞めさせるって、なんと教壇でタンカを切った。
机を捨てたのは俺だ。なのに俺はかっとなって、ばかにされて、思いっきり殴った。
女の子の顔を。

だけど先生が来ても、リーナは転んだの一点張り。

おなかのあたりがむかむかした。
なんだよ。かばうなよ。言えよ。ばかにするな。

なんか、大事なひとことが、言えなくなった。

いつも、言おうとする。でもリーナはあれからいつも、俺のことわんわん君ってばかにするんだ。

確かに犬みてぇにみんなに言われて机隠した。


だからあのさ、言いたいことが。

腕相撲じゃねえよ。なんで勝てねえんだよ。そうじゃねえよ。わんわん言わせんな。ああもういらいらする。


今も俺は、大事なことを、言えていない。
だから、俺の背中をぐしゃぐしゃに濡らしてわめいているこいつは、すごい。


リーナの家で働いてた?なんだよそれ。俺も混ぜろよ。なんか、大事なことは言えなくても、それならできるような気がする。

元々、ロザリーは俺たちと違ってお貴族様っぽいなと思ってた。

でも、そういえば、あれからいつも学校でぐったりしてた。手にすりきずも沢山つくって、隙さえあれば寝てばかりいた。


おまえ、がんばってたんだな。
俺と、違って。ちゃんとがんばってるよ。

「ひっぐ……ひっぐ……ずびー」

ちょ、ひとの背中で鼻かまなかった今!?
うええ、背中がぐっしょりする。

べたべたの手が、首の前に回された。
やけに細くて、弱っちくて、ぼろぼろだ。
胸のあたりがむずむずする。

「ちょっと……ふふっ、カイル、背中ぐしゃぐしゃよ?ロザリー、ほら、ハンカチ挟んでおくね」

一緒についてきたアリスが、俺の背中にハンカチを敷いてくれた。これで鼻水はちょっととれるとおもう。

アリスは目立たないけど、とにかく気がきく。そしてハンカチをたくさん持っている。

どこにしまってるのか、その日に一枚もう借りたのに、誰かにまた貸してたりする。
ハンカチ屋なのか。そうなのか。


ひっく、ひっくと、もう一枚渡されたアリスのハンカチを握りしめて、ロザリーは泣き続けた。
やっぱりハンカチ屋だ。俺の中で、アリスはハンカチ屋に決定した。


わかったよ。ロザリー、おまえはすごい。だから泣くな。今度から、俺も手伝いに行くからさ。

おそくなったけど、一緒に、あやまるから。

医務室は、もうすぐだ。
送ったら、部屋にひとりにして、俺はすぐに教室に帰らないといけない。
今隣にいるアリスも、おんなじだ。授業があるから。こいつを一人にしないといけない。

こいつは、誰もいない部屋で、ひとりで泣くんだな。

なんでなのか俺は少し、遠回りをした。
アリスも、何も言わなかった。
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