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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪
10.不覚
しおりを挟む思わぬ助け舟が出た。
ありがとう。利用させてもらうよ。
うちが誤解されっぱなしなのも、嫌だからね。
「あはは。うちはお父さんもお母さんも強いから、そういうことはめったにないんだけどね。
来てたんだ、気づかなかった」
これで、いいんだよね?
ありがとう。
あなたとは話したことないけど、いいやつなの?
そうだよね。
周りが悪口を信じてるときにふつうに男子が女子をかばうと、一緒にからかわれるだけだもんね。
被害者が二人になるだけだ。
うちの誤解を解く、いい機会をもらった。
今まで黙っていたのは、許してやってもいいよ。
にやっと嗤い返す。
それを見ると、ふっと笑って、つかつかと大股で。
ニムルスは窓辺から、私のところに一気に詰め寄った。
え、なに。
「お前、ずーっと能面みたいな顔してここにいるだろ。まあ周りがこんなんじゃ、無理もないけどな。
俺の顔、覚えてたか?」
ちょ、顔が近い。逆に見えない。
ちょっと後ずさる。
すっと、耳の後ろに手が回った。
ぐいっと顔をまた近づけてくる。
なんで。どうして。え、なに。
「覚えてないよな……ははっ、そんなに赤くなんなよ、何もしねえよ」
かっ、と、顔から火が出そうになる。
あ、赤くなんか!赤くなんかなってない!
ばっと、手を振り払う。
ははっと笑って、ニムルスは両手をあげる。
手を出しませんよ、の合図だ。
いや、顔は整ってる方だと思うよ?なんかでも、ちょっとタレ目で胡散臭い。
急に近づきすぎなんだよ!もう、焦ったからちょっと顔があっついじゃない!!
カラムに似てるからなのかな。安心してしまってた。こんな隙を見せるなんて、不覚!!
……あれ?
「ほら、男をたらしこむのはお手の物なのよね。ふふ、夜はとても大変なのでしょうね」
はっきりと、声が聞こえた。
私は、初めて噂の元をまっすぐ見つめた。
これまで、目を合わせないように、考えないように無視してきたから、まともに顔を見ていなかった。
ぐわっと、黒い気持ちが盛り返してくる。
金色の髪を縦に巻いて、肩まで伸ばしている。
あれは癖毛らしい。あの髪型以外にならないんだそうだ、かわいそうに。
ベージュの瞳と色合いは合っている。
ちょっとつり目だけど、髪型は変だけど、鼻筋も通っていて羨ましがられるくらいのきれいな子だ。
顔はね。
「ロザリー。こいつがそんなこと、してると思うか?俺が近づいただけで、こんなに茹で蛸みたいになってんだぜ?」
茹で蛸とはなんだ茹で蛸とは。
くっ、隙を見せたのが悔やまれる。
でも、ついに、あいつが出てきた。
金髪縦ロール。ロザリー。嘘の噂のはじまりの奴が。
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