最強パーティーのリーダーは一般人の僕

薄明

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41話

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「昨日は凄い1日だったなぁ」


ここはレベル7ダンジョン最奥。
みんなが見つけてくれた不思議な場所だ。

大きい木の下の色とりどりの花畑。


ダンジョン内にも関わらず、頬を撫でる風は心地よい。

そんな風を浴びながら、僕は木に体を預けるように寝転んだ。


昨日、探索者協会日本支部ビルを出た僕達は、僕の住んでる家に転移して早速貰ったギターで演奏タイムをしていた。

雑談配信しようと思ったけど、まずは4人に聞いてほしかったから、雑談配信はまた後日となった。


やっぱり今まで使っていたギターと比べて、遥かに弾きやすく、みんなが聞いても音が良くなってるとのことで、いつも以上にみんなのテンションが高くなってた気がする。


昨日だけで、ちょっと胸いっぱいになった。

クールダウンも兼ねて、ここに来た。


それにしてもここは凄く安心出来る。

ほぼ毎日のように、ここに来ては楽器の練習をすることを繰り返す。


小説の中で、海で1人で演奏するって場面や、動画で湖を背景に演奏してる動画を見た時から、僕もいつかそんな場所で演奏したいって、ずっと思っていたから、見つけてくれたユイには感謝しかない。

「ふわああ」

充分寝たと思っていたけど、まだまだ寝足りないみたいだ。


演奏して帰ることが多かったけど、そういえばここで一眠りするのは初めてかも。


一旦寝ようかな。


目を瞑ると、直ぐに僕の意識は無くなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シオンの演奏後。
ギルドマスター室にて。

初老の男性と、スーツ姿の女性が向かい合うように座っている。

その姿は圧迫感を感じるようだ。


「涼宮。先程肩が一瞬動いたが、何か感じ取ったのか?」

ふっ、と先刻までの圧迫感が霧散するように、スーツ姿の女性は笑う。

「相変わらず良く見ていますねマスター」

「当然だ。儂は力こそないが、人の動きは常に観察している。それで、何を感じた?」

「一瞬でしたが、殺気を感じ取りました。が、ここは100階。どの階から感じたかどうかは分かりませんでしたが、シオンくんが帰られてから確認したところ、どうやら1階からだったようです」

ほぉっと、感心したように初老の男性が息を吐く。

「儂は何も感じなかったぞ……流石は探索者だ」

「臆病なだけですよ」

というのもこの女性、人一倍、いや、探索者の中でも感知能力に長けている。

数キロ離れた場所からの気配を察知することができるため、護衛に大抜擢されている。

それに加え……。

レベル6ダンジョンソロ攻略者は違うな」

「【白夜】とは比べ物になりませんがね……」

「儂からすると、涼宮も充分化け物の部類とは思うが……それで、原因は?」

「どうやら、探索者クランがシオンくんを侮辱する発言をしたようです」

それを聞いた男性は口をあんぐりと開け驚愕する。

「えっ、喧嘩売ったの?マジで?【白夜】に?」

先程の威厳ある口調が崩れている。

「まじです。侮辱したクランメンバーは全員【白夜】により戦々恐々したそうです」

「何があったかは……聞かない方がいいな」

「恐ろしいのは、死人が出てもおかしくないほどだったそうですが、床や付近に血の1滴も落ちてないことですね。対象を指定することで可能ですが、必要な魔力も多く、対象も1人が限界だと思っていましたが……改めて【白夜】の実力は比べ物にならないですね」

「ふむ……血液を出さないことどのような利点があるんだ?」

「ダンジョンのモンスターの血液は、放置するとその匂いで他のモンスターを呼び寄せてしまいます。対処法として、モンスターを倒した後は即刻その場を立ち去るのが良いですが、方法の一つとして、先程言ったように、対象を指定した結界により、血を出さずに倒すことが可能となります。使用する魔力も多いので現実的ではないですね」

「……そう、か」

「もう1つ。普段の私なら1階からの気配察知など不可能です。ですが、今は違いました」

「……シオン殿か」

「正直こちらの方が影響力は大きいかと思います」

「そうだな。儂も力がみなぎってくる」

「シオンくんの演奏は、潜在能力を引き上げていると思われます。1種のドーピングでしょう」

「恐ろしいな。探索者でない儂でさえ、レベル1ダンジョンのモンスターを倒せそうに思える」

「実際に倒せるかもしれません……この演奏の効果は実際に聞く>生配信>動画の視聴で効果が違いますね。更には音質も関係あるかもしれません」

「だからこそ、あの楽器を手渡したのか」

「ええ。最高品質の楽器です。1部の視聴者なら気づくはずでしょう」

「もし更に効果が高まったら……【白夜】の中でも警戒すべきなのはシオン殿かもしれんな」

「敵対する訳ではないですし、今や日本の代表チームです。誇りでしょう」


「ああ。彼らなら心配要らんだろうな」

2人の男女は笑った。




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