41 / 64
41話
しおりを挟む「昨日は凄い1日だったなぁ」
ここはレベル7ダンジョン最奥。
みんなが見つけてくれた不思議な場所だ。
大きい木の下の色とりどりの花畑。
ダンジョン内にも関わらず、頬を撫でる風は心地よい。
そんな風を浴びながら、僕は木に体を預けるように寝転んだ。
昨日、探索者協会日本支部ビルを出た僕達は、僕の住んでる家に転移して早速貰ったギターで演奏タイムをしていた。
雑談配信しようと思ったけど、まずは4人に聞いてほしかったから、雑談配信はまた後日となった。
やっぱり今まで使っていたギターと比べて、遥かに弾きやすく、みんなが聞いても音が良くなってるとのことで、いつも以上にみんなのテンションが高くなってた気がする。
昨日だけで、ちょっと胸いっぱいになった。
クールダウンも兼ねて、ここに来た。
それにしてもここは凄く安心出来る。
ほぼ毎日のように、ここに来ては楽器の練習をすることを繰り返す。
小説の中で、海で1人で演奏するって場面や、動画で湖を背景に演奏してる動画を見た時から、僕もいつかそんな場所で演奏したいって、ずっと思っていたから、見つけてくれたユイには感謝しかない。
「ふわああ」
充分寝たと思っていたけど、まだまだ寝足りないみたいだ。
演奏して帰ることが多かったけど、そういえばここで一眠りするのは初めてかも。
一旦寝ようかな。
目を瞑ると、直ぐに僕の意識は無くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シオンの演奏後。
ギルドマスター室にて。
初老の男性と、スーツ姿の女性が向かい合うように座っている。
その姿は圧迫感を感じるようだ。
「涼宮。先程肩が一瞬動いたが、何か感じ取ったのか?」
ふっ、と先刻までの圧迫感が霧散するように、スーツ姿の女性は笑う。
「相変わらず良く見ていますねマスター」
「当然だ。儂は力こそないが、人の動きは常に観察している。それで、何を感じた?」
「一瞬でしたが、殺気を感じ取りました。が、ここは100階。どの階から感じたかどうかは分かりませんでしたが、シオンくんが帰られてから確認したところ、どうやら1階からだったようです」
ほぉっと、感心したように初老の男性が息を吐く。
「儂は何も感じなかったぞ……流石は探索者だ」
「臆病なだけですよ」
というのもこの女性、人一倍、いや、探索者の中でも感知能力に長けている。
数キロ離れた場所からの気配を察知することができるため、護衛に大抜擢されている。
それに加え……。
「史上初レベル6ダンジョンソロ攻略者は違うな」
「【白夜】とは比べ物になりませんがね……」
「儂からすると、涼宮も充分化け物の部類とは思うが……それで、原因は?」
「どうやら、探索者クランがシオンくんを侮辱する発言をしたようです」
それを聞いた男性は口をあんぐりと開け驚愕する。
「えっ、喧嘩売ったの?マジで?【白夜】に?」
先程の威厳ある口調が崩れている。
「まじです。侮辱したクランメンバーは全員【白夜】により戦々恐々したそうです」
「何があったかは……聞かない方がいいな」
「恐ろしいのは、死人が出てもおかしくないほどだったそうですが、床や付近に血の1滴も落ちてないことですね。対象を指定することで可能ですが、必要な魔力も多く、対象も1人が限界だと思っていましたが……改めて【白夜】の実力は比べ物にならないですね」
「ふむ……血液を出さないことどのような利点があるんだ?」
「ダンジョンのモンスターの血液は、放置するとその匂いで他のモンスターを呼び寄せてしまいます。対処法として、モンスターを倒した後は即刻その場を立ち去るのが良いですが、方法の一つとして、先程言ったように、対象を指定した結界により、血を出さずに倒すことが可能となります。使用する魔力も多いので現実的ではないですね」
「……そう、か」
「もう1つ。普段の私なら1階からの気配察知など不可能です。ですが、今は違いました」
「……シオン殿か」
「正直こちらの方が影響力は大きいかと思います」
「そうだな。儂も力がみなぎってくる」
「シオンくんの演奏は、潜在能力を引き上げていると思われます。1種のドーピングでしょう」
「恐ろしいな。探索者でない儂でさえ、レベル1ダンジョンのモンスターを倒せそうに思える」
「実際に倒せるかもしれません……この演奏の効果は実際に聞く>生配信>動画の視聴で効果が違いますね。更には音質も関係あるかもしれません」
「だからこそ、あの楽器を手渡したのか」
「ええ。最高品質の楽器です。1部の視聴者なら気づくはずでしょう」
「もし更に効果が高まったら……【白夜】の中でも警戒すべきなのはシオン殿かもしれんな」
「敵対する訳ではないですし、今や日本の代表チームです。誇りでしょう」
「ああ。彼らなら心配要らんだろうな」
2人の男女は笑った。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

Red Assassin(完結)
まさきち
ファンタジー
自分の目的の為、アサシンとなった主人公。
活動を進めていく中で、少しずつ真実に近付いていく。
村に伝わる秘密の力を使い時を遡り、最後に辿り着く答えとは...
ごく普通の剣と魔法の物語。
平日:毎日18:30公開。
日曜日:10:30、18:30の1日2話公開。
※12/27の日曜日のみ18:30の1話だけ公開です。
年末年始
12/30~1/3:10:30、18:30の1日2話公開。
※2/11 18:30完結しました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる