最強パーティーのリーダーは一般人の僕

薄明

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25話

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扉を開けると、麒麟は静かにナツを見て佇んでいた。


ダンジョンのモンスターには記憶が無い。

倒されたとしても、新たに生まれるモンスターは倒されたモンスターとは違う。

そういうもの……だとレオナが話したことがあった。

でも、麒麟は静かにナツを見ている。

品定めをするかのように。

警戒するように。


「うーん……これは?」

「ぐるるるるうううぅぅ」

麒麟はナツに返答するかのように唸る。


「面白い~タケルは残念だったろうなぁ」

ニヤニヤしながらナツは言う。


「じゃあやろうか。大丈夫。グングニルはズルいからもう使わない。刀《これ》は使うけどね」


片手剣ではなく、先程消えたと思われた刀を携え、麒麟に告げる。


麒麟の身体の周りに、バチバチと電流が取り囲む。


「行くよ」

居合の構えをしたナツは、僕には見えない速度で麒麟に斬りかかる。


チンッと刀をしまう音が聞こえ、麒麟がいた場所奥の岩壁には一筋の刀傷が出来ていた。


「うひょ~速い」

麒麟はナツの動きが見えていたのか、ナツの背後に移動していた。


「タケルの時より速くない?勘弁してよもう……」

鹿の足に似た麒麟の後ろ足が、ナツを襲う。

「ふんっ!」

刀の峰部分で受け止めるが、ズサザザッと麒麟の勢いが強く、後ろに飛ばされる。


「いって~やるなぁ」

ナツは笑う。


再び刀を鞘にしまい、居合の構えを取った。


「『飛影』」

とんでもない速さで刀を振るうと、横薙ぎの斬撃が麒麟に襲いかかった。


麒麟は、再び後ろ足を構える。

「おっと、それは間違ったね」


スパンッと、麒麟の後ろ足が斬れた。

「!!???」

斬れるとは思っていなかったのか、驚いている。

「う~ん、記憶があると思っていたけど、完全に覚えているというよりかは、本能的だったんだろうね」

さらに刀を鞘にしまったまま、居合の構えをとる。


「『抜刀、雷光一閃』」

雷のような一筋の光が、見えたかと思うと、画面が白く染る。

「うわっ、眩し」

『目がああああ』


『うおっ、眩し!!!』


『目がないなったあああああ』


『ぎゃあああああああ』


『目がぁぁ私の目がああああ』


コメント欄も僕も、あまりの眩しさに目を閉じた。


気付くと、麒麟の姿はなく、タケルの時と同じような素材が落ちてあった。


「よしっ、これにて攻略!」


当の本人はニンマリと笑顔を見せていた。


『きゃあああああ』


『スクショタイムぅう!!!』


『可愛いぃいぃ』


ナツファンのコメントだろうか、コメントの流れが速い。


「それにしても、最後のは特に速かったですね」


『き○つのや○ばのキャラみたい!!』


『まじかっこいい!』


『たまに見せてくれるあの動きかっこよすぎて、息子たちの間で人気なんですよ』


コメントによると、小学生の間でナツの戦闘スタイルは大人気らしい。

どうも人気アニメのキャラに似てるとか、どうとか。


『うちの息子も傘を使って真似してるぞ!』


『私の娘も!』


『俺は45だけど真似してるぜ』


『てめえは働けや』


ナツの人気って凄いんだな。

やっぱりイケメンは一味違うって言うのか……僕がやったら完全に

『厨二乙』

とか言われるんだろうなぁ。

あれ、なんか目に水が……。


「よしっ、これにて配信終了するよ。おつかれさまで」

ブチッ。


「最後雑すぎません?もしかしてこれも……」


『いつものことだな』


『もう慣れた』


『だからこそ雑談配信はすげぇと思った』


『ちゃんと挨拶するだけで褒められるとか草www』


「やっぱりそうなんだ……2人の配信だけでも僕と違ってかっこいいなって思いましたよ」

初めて見るモンスターと戦う親友達。

その表情は本当に楽しそうだったし、余裕があった。


僕とは違う。


これではっきりする。

やっぱり僕がリーダーをするのはおかしい。

「そう思いませんか?」


僕は呟く。

見ている20万人の視聴者に向けて。


「それは違うぞ」

「違うわよ」

「違いますよ」

「違うね」

ふと配信部屋の入口には、親友達。【白夜】の4人がいた。


「ずっと見てたわよ。シオンの反応が面白すぎてユイと笑っていたわ」

「面白かったですよ」

「またシオンが卑下してるから来たぜ」

「シオンがリーダーじゃないとダメなんだ。僕らの夢は忘れたかい?」

その言葉にハッとする。

『5人で世界に名を轟かせる探索者になる!』

幼い頃に僕が言ったことだ。


「でも、僕は探索者に向いてないし、何より足でまといだよ」

「だからそれが違うわよ」

「えっ」

「シオンさんがいないとそもそも私達は探索者になってません」

「お前が言ったことだから俺たちはお前について行くことを決めたんだ。俺でも、ナツでもレオナでもユイでもない。シオン!お前が言ったからだ」

「雑談配信やさっき見ていた配信でもわかると思うけど、僕らは適当なんだ」

「そんな私たちを上手くまとめるのはあなたしかいないわ」

「みんな……」


ボロボロと涙が溢れ出る。


本当に僕は要らないんじゃないかってずっと思ってた。

料理だって演奏だって、なくても【白夜】は強い。

戦うことも出来ない僕は足でまといで、みんなも本当は我慢してるだけなんだってずっと思っていた。

でもそれは僕の考えすぎだった。

「本当に、、ありがとう」


「リーダーが簡単に泣くなよ」

「そうよ。シオンはちゃんと私たちの力になっているわ」

「演奏も料理も、楽しいし美味しくて元気になります!」

「最初は僕らが勝手にリーダーにしてたけど、改めてお願いするよ。シオン。僕ら【白夜】のリーダーになってくれないかな?」

「……うん!」



僕は笑って4人に告げる。


「はい。言質取った」

「やーっと、正式にリーダーになったわね」

「ったく、シオンは考えすぎなんだよ。もっとドシーンと構えてたらいいんだよ」

「そのままのシオンさんが良いですよ」

んん?

「いやな、シオンは昔からすぐ自分を卑下したがるから、ここらでガツンと言っておかないといけないと思ったんだ。視聴者さん達にも伝えておきたかったことだし」


あっ、配信そのままだった……。


『いい話だな……』


『マジで熱い話だ』


『シオン、リーダー続けてくれ』


『俺はシオンもいて5人が【白夜】だと思ってるぞ!』


『ちゃんと俺らも聞いてたからな!』


『リーダー辞めるとか言えなくなったねぇwww』


『泣いた』


「アッ……」

多分僕の顔は真っ赤に染ってると思う。

感動と恥ずかしさでいっぱいだ。


「演奏もするって僕らも聞いてるから、このまま終わらせないよ」

「今日は楽しい曲が聞きたいわね」

「わくわくしてます!!」

「ギター持ってきたぞ」

に、逃げれない……。


「……やります」


30分、泣きながら楽しい曲を演奏するという謎の演奏配信が続いた。
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