眠り姫

虹月

文字の大きさ
上 下
12 / 21
第1章

第九話 顔合わせ

しおりを挟む


「白露だな」


 うん、と反射的に頷くと、一瞬男は目を細める。なにが相手の機嫌を損ねたのか分からず、控え目に俺は視線を下ろした。この人に見られるのは、なんだか居心地がわるい。
 顔を上げようにも上げられず、このままいっそのこと眠ってしまおうかと思っていたら、助け舟を出すかのように天羽が咳払いした。
 全員の視線が、一斉に天羽に集まる。

「今日、この場に集まったのには理由があります。役員の顔合わせ、及び生徒へのお披露目を兼ねています」
「顔合わせ?」
「はい。こちらが――」
「風紀委員長の桐生きりゅうだ」
「そして、僕は副委員長の三澄 朔」

 ふーん、この二人は風紀委員だったのか。
 それも、ウェイターに運ばれてきたココアの湯気といっしょに興味が消えていく。ほどよくあたたかなカップ。
 カップが乗せられた器に添えられたミルク、それをココアに垂らしてティースプーンでかき混ぜる。次第に茶色だったココアは、あまくてまろやかな乳白色のココアに変わる。このほどよい甘さが、まどろみへと誘う。

 一口含んだだけで、さっきからむかむかしていた気持ちがおさまっていく。天羽がすらすらと何か話しているが、俺はもう半分夢の中。うつらうつら、話を聞いているフリをしていると、――なぜか俺に視線が集中しているのは気のせいだろうか。
 もしかして、俺が話を聞いてないのがバレたのか。めんどくさい。俺は見世物じゃない。

「……何…っ、――ん、んぐぅ!」
「そのまま噛め。…いい子だ」
「…けほっ!!」

 僅かに口を開いた途端、桐生に顎を固定され親指で押し開けられた。押し退けようと腕を掴むも、桐生はそれを許さない。そのまま、桐生は何かを無理やり俺の口の中に押し込んだ。
 吐き出さないように手で口元を覆われ、くるしくて涙が浮かぶ。ふざけるな、うざい。もごもごと口を動かせば、口の中に、わずかな甘さを含んだ酸味が広がる。

 なにこれ、苺か?ようやく呑み込むと、桐生は俺の口から手を離した。涙を浮かべながら咳込む俺の背中を、三澄が撫でる。

「白露、どうだ。美味しいか」
「おいしい、けど」
「それは良かった」

 よくない。桐生は満足げに笑うと、珈琲の匂いがするカップを口に運んだ。その動作がやけにさまになっていて、自分の眉間に深いシワが刻まれていくのを感じた。

「自分でたべろ」
「生憎、俺は果物が苦手でな」
「俺にたべさせるな」
「すぐ傍に可愛らしい口があったのでな。…これで俺に敬語を使わなかったことは不問にしてやる」


 ああ、桐生は俺の口調に怒っていたのか。

 だからって、こんな強引に口に食べ物をいれるな。桐生も三澄も風紀委員は、人に食べさせるのが好きなのか。俺は鳥の雛じゃない。食べさせられなくても、自分で食べられる。
 不貞腐れていると、桐生と三澄は席を立った。
 どうやら俺がぼーっとしている間に話は終わっていたのか、最後に俺を一瞥して二人は階段を下りていく。

 二人が下りて行った後、食堂はまた興奮を抑え切れていない歓声に包まれた。ランキングだとか、役員がどうとか、この学園はよく分からない。
 ただ、これが毎日続くのかと思うと頭が痛くなった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!

小屋瀬 千風
BL
アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、最近悩みがあった。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー

Ayari(橋本彩里)
BL
日本有数の御曹司が集まる男子校清蘭学園。 家柄、財力、知能、才能に恵まれた者たちばかり集まるこの学園に、突如外部入学することになったアオイ。 2年ぶりに会う幼馴染みはひどく素っ気なく、それに加え……。 ──もう逃がさないから。 誰しも触れて欲しくないことはある。そして、それを暴きたい者も。 事件あり、過去あり、あらざるものあり、美形集団、曲者ほいほいです。 少し特殊(怪奇含むため)な学園ものとなります。今のところ、怪奇とシリアスは2割ほどの予定。 生徒会、風紀、爽やかに、不良、溶け込み腐男子など定番はそろいイベントもありますが王道学園ではないです。あくまで変人、奇怪、濃ゆいのほいほい主人公。誰がどこまで深みにはまるかはアオイ次第。 ***** 青春、少し不思議なこと、萌えに興味がある方お付き合いいただけたら嬉しいです。 ※不定期更新となりますのであらかじめご了承ください。 表紙は友人のkouma.作です♪

あざといが過ぎる!

おこげ茶
BL
 自分のかわいさを理解して上手いこと利用しているつもりの主人公、美緒のあざとさは本人が思ってもいない方向に作用していた!? 「や、僕女の子が好きなんだけど!?」 ※基本的に月曜日の19時更新にする予定です。 ※誤字脱字あれば、ぜひふわふわ言葉で教えてください。爆速で直します。 ※Rは今のとこ予定ないです。(もしかしたらあとから入るかも。その時はごめんなさい)

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

過去あり無自覚美少年が幸せになるまで

睡蓮
BL
暗い過去を持つ無自覚ちゃんは幸せになれるのか!?(ハピエンです) 最終的には兄×弟になります。 長編予定です。(この世界顔がいい人しかいなくない?) 初めてなので多めに見てください🙇

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

処理中です...