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僕の内面は知らなくていい~エイベル視点~

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 彼女は派手なタイプではない。

 一緒にドレスを見に行った時、もうこれしかないと思った。彼女のスレンダーな体型に合った上品なイブニングドレスだ。

 ただ、馬車でお迎えに行った時、白やピンクやゴールドなんていうワッサーとした女の子たちの間に隠れていて、なかなか見つけられなかったことに苛立った。

 みんな、場所取りすぎだよ。そのスカートのボリューム減らせないの? 何その袖、ハム?

 黒の燕尾服に黒の髪の僕は、ルシールの落ち着いた美しさを輝かせることができると思ったんだ。

 でも考えたら、僕があまりに地味な色味だと、彼女に嫌われるかもしれない。

 そこで馬車だけは派手なのを頼んだ。

 ……やりすぎたかもしれない。

 おとぎ話に出てきそうな馬車を見て、ルシールはちょっと引いているようにみえた。

 一緒に卒業パーティ―に出られるのが嬉しくて待ちきれなくて、張り切り過ぎた……ごめんよ。

 僕はルシールの手を取り馬車に乗せようとして、綺麗な形の耳たぶから下がるダイヤに気づいた。

 こういうプラプラ揺れる型のイヤリングって、どことなく危うげで、彼女のほっそりした首筋をよけい無防備に際立たせているように思える。

 夕闇の中での、沁みるような肌の白さとダイヤが放つ輝きは、幻想的だ。

 彼女を空気に溶かしてしまいそうだった。

 僕はルシールをしっかりショールで包みこむ。捕まえておかないと消えてしまう。

 さらにその手を恋人繋ぎにして、ぎゅっと握りしめた。こうしておかないと、彼女はどこかに行ってしまいそうなんだ。

 僕は、明日の士官学校の合格発表のことなど、敢えて考えないようにした。



 王宮に着き、会場のシャンデリアの灯りの下ではっきり見えたルシールは、やはり誰よりも美しかった。気品があり、知的で艶めいていて、格別に美しかった。

 他の令嬢たちがどぎつく、安っぽい娼婦に見えてしまう自分に驚いていた。

 僕が今まで付き合ってきた子たちの魅力とは、なんだったのだろう。何も無いではないか。

 僕はハッとなる。

 これまでなら女性に対して、例えそれが娼婦であっても、そんなことを思ったことがなかった。

 女性とは年齢や職業に関係なく、すべて魅力的で可愛らしくて、敬うべき存在だと思っていたから。

 でも、ルシールは──そう、女性というか、例えるなら女神だろうか。ガイアス神を産み落とした大宇宙の女神マリアーナ聖母、または大女天使ミカエラッティ。

 彼女以外は道端の石ころにしか見えない。なにこれ、頭おかしい。重症だ。

 ルシールは今日は特に、僕のことをまともに見てくれない。たまに突き刺すように盗み見るくらいだ。

 僕はゾクゾクした。

 彼女にはきっと、僕のことが道端の虫けらに見えているのだろう。

 そして僕みたいなヤリチンとの恋人契約なんて、早く解消したいと思っている。

 なぜそう思うかって?

「いい思い出になったわ。楽しかった、ありがとう」

 と、会場に着いた途端ルシールにそう言われたから。

 それが僕の心をどんなふうに抉り切り裂いたか、君は分からないんだね。

 
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