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偽物彼女契約
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ぶち切れて、短期契約型のお付き合いをしないと決めてから、エイベル君は熱烈なアピール合戦に巻き込まれるようになった。
始終呼び出されて告白され、勉強時間どころかトイレに行く間もないようだった。
教室内でもだ。その辛そうな様子は、席の近い私からよく見えた。
基本的に五、六人の女子がべったりくっつき、豊満なオッパイを押し付け悪霊のようにのしかかっているもんだから、肩こりにも悩まされているようだった。かといって優しいので、邪険にできないでいる。
勉強教えて、と近づいてくる女子のノートを開くと、毎回固まっているエイベル君。
そのたびに気になって覗き込んでみたら「卒業パーティーのパートナーに選んでくれないと死んじゃう」とか「結婚してくれないと死んじゃう」とか「あなたの○○○を×××らせてくれないと死んじゃう」とか、なんかもう脅迫みたいになってきている。
そうか。あの短期彼女契約は、秩序を保つためのものだったのだ。あの頃はルールがあったから。誰か一人と付き合っている間は、他の女子は順番待ちで大人しくしている。でも今は、ある意味無法地帯なんだわ……。
卒業がいよいよ近くなっているのに、論文も仕上げられず「僕、落第するかもな」と呟いているのを聞いてしまった以上、私は見ていられずエイベル君に提案していた。
「私と付き合う?」
恋人がいれば諦めるわけだし、いい案かなって思ったの。
それに下心もあった。
私なんかがモテモテのエイベル君と付き合うなんて本来できないわけだから──いや、短期契約で申し込めばお試し交際できたのかもしれないけど、もう受け付けてないし、それでエイベル君を落とせるわけじゃないしね。
目の下に隈を作ったエイベル君は、真紅の瞳を瞬かせて首をかしげた。
「え?」
「私と、付き合っていることにしたら?」
言ってから、アホか私は、と恥ずかしくなってしまった。ガリ眼鏡が彼女だなんて、そんなあり得ない状況を皆が信じるはずないし、第一エイベル君が嫌だろうし。
「あ、いや大変そうだし? ほら、しょっちゅう女子が押しかけてきていたら、クラスの皆も勉強の邪魔だって思うだろうし。あ、そうだ、ブス専ってことにしたら皆諦めるんじゃないかな? って……」
私はすぐに、言ったことを覆した。
「冗談よ、本気にしな──」
「委員長、いいの!?」
エイベル君が食いついてきた。私は内心大きな魚を釣ったような気分になった。
「試験期間だけでもどうかしら、って思ったの。その方が勉強に集中できるし──」
「いや……でもな……。委員長が攻撃されたら大変だしな。よし」
いきなりエイベル君は椅子から立ち上がった。そして大きな声で、
「皆、聞いてくれ。僕はついに真実の愛を見つけた! 委員長こそ僕の運命の相手だ! 僕は彼女と卒業パーティーに出る!」
と、宣言したではないか。さらに、
「それと、委員長に嫌がらせしたら、その人のことは永遠に軽蔑するから!」
と、付け足して私を守ったエイべル君。
マジか。え? こんなことってある? ていうか、エイベル君ってバカ? 私、下心があるから提案したのよ? エイベル君のこと好きなのよ?
こう騙されやすいから、いろいろな女の餌食になるのね。私が守ってあげないと。
思わぬことで、エイベル君と付き合うことができた。もちろん偽装の恋人関係だけど。
でもさ、表面上はあれだよ? エイベル君、私一人のものだよ? 一緒にお勉強したり、カフェテリアでお茶したりできるわけよ?
二人っきりで!
こみあげてくる喜びに必死で耐える私。うそ、えーっ、卒業前に超ラッキーじゃない!?
数学なら教えてあげられる。錬金術科の生徒には負けるだろうけど、普通科だとダントツ一位だし。おかげで計算機って呼ばれているけどね。
代わりにエイベル君からはダンスを教えてもらおう!
想像するだけで気持ちが華やぎ、はしゃいでしまったわけだが、もちろん顔には出ない。
表情筋が死んでいる自分を、この時ほどありがたいと思ったことはなかった。
始終呼び出されて告白され、勉強時間どころかトイレに行く間もないようだった。
教室内でもだ。その辛そうな様子は、席の近い私からよく見えた。
基本的に五、六人の女子がべったりくっつき、豊満なオッパイを押し付け悪霊のようにのしかかっているもんだから、肩こりにも悩まされているようだった。かといって優しいので、邪険にできないでいる。
勉強教えて、と近づいてくる女子のノートを開くと、毎回固まっているエイベル君。
そのたびに気になって覗き込んでみたら「卒業パーティーのパートナーに選んでくれないと死んじゃう」とか「結婚してくれないと死んじゃう」とか「あなたの○○○を×××らせてくれないと死んじゃう」とか、なんかもう脅迫みたいになってきている。
そうか。あの短期彼女契約は、秩序を保つためのものだったのだ。あの頃はルールがあったから。誰か一人と付き合っている間は、他の女子は順番待ちで大人しくしている。でも今は、ある意味無法地帯なんだわ……。
卒業がいよいよ近くなっているのに、論文も仕上げられず「僕、落第するかもな」と呟いているのを聞いてしまった以上、私は見ていられずエイベル君に提案していた。
「私と付き合う?」
恋人がいれば諦めるわけだし、いい案かなって思ったの。
それに下心もあった。
私なんかがモテモテのエイベル君と付き合うなんて本来できないわけだから──いや、短期契約で申し込めばお試し交際できたのかもしれないけど、もう受け付けてないし、それでエイベル君を落とせるわけじゃないしね。
目の下に隈を作ったエイベル君は、真紅の瞳を瞬かせて首をかしげた。
「え?」
「私と、付き合っていることにしたら?」
言ってから、アホか私は、と恥ずかしくなってしまった。ガリ眼鏡が彼女だなんて、そんなあり得ない状況を皆が信じるはずないし、第一エイベル君が嫌だろうし。
「あ、いや大変そうだし? ほら、しょっちゅう女子が押しかけてきていたら、クラスの皆も勉強の邪魔だって思うだろうし。あ、そうだ、ブス専ってことにしたら皆諦めるんじゃないかな? って……」
私はすぐに、言ったことを覆した。
「冗談よ、本気にしな──」
「委員長、いいの!?」
エイベル君が食いついてきた。私は内心大きな魚を釣ったような気分になった。
「試験期間だけでもどうかしら、って思ったの。その方が勉強に集中できるし──」
「いや……でもな……。委員長が攻撃されたら大変だしな。よし」
いきなりエイベル君は椅子から立ち上がった。そして大きな声で、
「皆、聞いてくれ。僕はついに真実の愛を見つけた! 委員長こそ僕の運命の相手だ! 僕は彼女と卒業パーティーに出る!」
と、宣言したではないか。さらに、
「それと、委員長に嫌がらせしたら、その人のことは永遠に軽蔑するから!」
と、付け足して私を守ったエイべル君。
マジか。え? こんなことってある? ていうか、エイベル君ってバカ? 私、下心があるから提案したのよ? エイベル君のこと好きなのよ?
こう騙されやすいから、いろいろな女の餌食になるのね。私が守ってあげないと。
思わぬことで、エイベル君と付き合うことができた。もちろん偽装の恋人関係だけど。
でもさ、表面上はあれだよ? エイベル君、私一人のものだよ? 一緒にお勉強したり、カフェテリアでお茶したりできるわけよ?
二人っきりで!
こみあげてくる喜びに必死で耐える私。うそ、えーっ、卒業前に超ラッキーじゃない!?
数学なら教えてあげられる。錬金術科の生徒には負けるだろうけど、普通科だとダントツ一位だし。おかげで計算機って呼ばれているけどね。
代わりにエイベル君からはダンスを教えてもらおう!
想像するだけで気持ちが華やぎ、はしゃいでしまったわけだが、もちろん顔には出ない。
表情筋が死んでいる自分を、この時ほどありがたいと思ったことはなかった。
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