【完結】博愛主義者(ヤリチン)のモテ同級生はいろいろ我慢していたようです【R18】

世界のボボ誤字王

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人のいいエイベル君

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 人たらしめっ。赤くなる私に気づかず、エイベル君ははーっと深く長いため息をついて頭を抱える。

「やっぱ、僕がおかしいのかな」

 悩んでいるエイベル君を見つめながら、私は考え込んだ。

 ふむ、人に興味が無いわけじゃないのか。いい面ばかり見ようとするのだわ。性善説を推しているのね。

 私の性格が悪いのかしら。皆いい人なんて、そんなわけあるか! この人、素直すぎるわ。

「そんなで士官になれるの? あと、カルト宗教とか自己啓発ナンチャラに騙されるんじゃないの?」

 私が言うと、エイベル君は苦笑した。

「それは大丈夫だよ。害をなす者たちから皆を守るためなら、僕はちゃんと戦えるよ。……でも……僕は……」

 ふと遠くを見るような目をした。

「ただ一人を守りたいと思えるのも、羨ましいなって──」

 そこで口ごもる。私が黙って先を促すと、やがて伏し目がちに、言いにくそうにポツリと呟いた。

「けっきょくは、真実の愛があるって信じたいんだよね。僕にも運命の人がいるのかなって……思いたいんだ」

 口にしてから、ハッとして私を見る。照れ隠しなのか、慌てて言い訳をした。

「いや、両親がすごく仲が良くてね。だからああいう結婚ならしたいなーって思ったんだ」

 真紅の瞳を泳がせながら狼狽えるエイベル君。不覚にも、可愛いなと思ってしまった。

 私がどうしてエイベル君に好意を持ったかっていうと、単純にいい人だから。

 彼が建前だけの優しさで接してきたなら、さすがに私は──いや、誰だって心を動かされないだろう。
 胡散臭いくらい優しいから、偽善者だって思われちゃうわ。

 でも彼、本当に優しいの。

 委員長を押し付けられた私のこと、さりげなくサポートしてくれたエイベル君。

「エイベル君が委員長になったら、私たちとデートできなくなっちゃうから、あなたがやりなさいよルシールさん。どうせあなたは、デートなんて興味無いんでしょ?」

 と言ってきた例のパリピたちの目論見が外れ、意外にも彼との接点が増えてしまったのだ。

 重い教材を運んだり、課題のノートを集めてくれたり、黒板を消すのはいつもエイベル君なの。

 私の仕事だからいいよと言ったのに、俺の方が力があるし背が高いからさ、と毎回手伝ってくれる。もしかして、根暗鉄仮面にも優しくすることで、周りからの評価を上げようとしているのかしら?

 だけど、皆さっさと移動教室で行ってしまったのに。誰も見てないのよ? 私みたいなガリ眼鏡に優しくしたって得なことないじゃない。

 やがて彼が、人の目など気にしてやっているわけじゃないと、すぐ知ることになった。だって、私はいつも彼を盗み見ていたから。

 世話焼きなのは皆気づいていると思う。なんて言ったらいいのか、助け舟を出すのが上手いっていうの?

 クラスで誰かが恥をかいたり、嫌われたり、孤立しないよう、上手い具合に水面下で画策するのよ。

 一人でいる子は絶対放っておかないし。揉めそうになったら絶妙な緩衝材になり、人と人との衝突を防ぐのだ。とにかくフォローやサポートが上手いのよね。

 見えないところでも人の役に立とうとしているのが、肌で感じられる。

 たぶんエイベル君の方が、私より委員長に向いているんだわ。

 皆が彼を好きになるのは、分かる気がした。私だって、そんなところが大好きなんだもん。
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