8 / 27
人のいいエイベル君
しおりを挟む
人たらしめっ。赤くなる私に気づかず、エイベル君ははーっと深く長いため息をついて頭を抱える。
「やっぱ、僕がおかしいのかな」
悩んでいるエイベル君を見つめながら、私は考え込んだ。
ふむ、人に興味が無いわけじゃないのか。いい面ばかり見ようとするのだわ。性善説を推しているのね。
私の性格が悪いのかしら。皆いい人なんて、そんなわけあるか! この人、素直すぎるわ。
「そんなで士官になれるの? あと、カルト宗教とか自己啓発ナンチャラに騙されるんじゃないの?」
私が言うと、エイベル君は苦笑した。
「それは大丈夫だよ。害をなす者たちから皆を守るためなら、僕はちゃんと戦えるよ。……でも……僕は……」
ふと遠くを見るような目をした。
「ただ一人を守りたいと思えるのも、羨ましいなって──」
そこで口ごもる。私が黙って先を促すと、やがて伏し目がちに、言いにくそうにポツリと呟いた。
「けっきょくは、真実の愛があるって信じたいんだよね。僕にも運命の人がいるのかなって……思いたいんだ」
口にしてから、ハッとして私を見る。照れ隠しなのか、慌てて言い訳をした。
「いや、両親がすごく仲が良くてね。だからああいう結婚ならしたいなーって思ったんだ」
真紅の瞳を泳がせながら狼狽えるエイベル君。不覚にも、可愛いなと思ってしまった。
私がどうしてエイベル君に好意を持ったかっていうと、単純にいい人だから。
彼が建前だけの優しさで接してきたなら、さすがに私は──いや、誰だって心を動かされないだろう。
胡散臭いくらい優しいから、偽善者だって思われちゃうわ。
でも彼、本当に優しいの。
委員長を押し付けられた私のこと、さりげなくサポートしてくれたエイベル君。
「エイベル君が委員長になったら、私たちとデートできなくなっちゃうから、あなたがやりなさいよルシールさん。どうせあなたは、デートなんて興味無いんでしょ?」
と言ってきた例のパリピたちの目論見が外れ、意外にも彼との接点が増えてしまったのだ。
重い教材を運んだり、課題のノートを集めてくれたり、黒板を消すのはいつもエイベル君なの。
私の仕事だからいいよと言ったのに、俺の方が力があるし背が高いからさ、と毎回手伝ってくれる。もしかして、根暗鉄仮面にも優しくすることで、周りからの評価を上げようとしているのかしら?
だけど、皆さっさと移動教室で行ってしまったのに。誰も見てないのよ? 私みたいなガリ眼鏡に優しくしたって得なことないじゃない。
やがて彼が、人の目など気にしてやっているわけじゃないと、すぐ知ることになった。だって、私はいつも彼を盗み見ていたから。
世話焼きなのは皆気づいていると思う。なんて言ったらいいのか、助け舟を出すのが上手いっていうの?
クラスで誰かが恥をかいたり、嫌われたり、孤立しないよう、上手い具合に水面下で画策するのよ。
一人でいる子は絶対放っておかないし。揉めそうになったら絶妙な緩衝材になり、人と人との衝突を防ぐのだ。とにかくフォローやサポートが上手いのよね。
見えないところでも人の役に立とうとしているのが、肌で感じられる。
たぶんエイベル君の方が、私より委員長に向いているんだわ。
皆が彼を好きになるのは、分かる気がした。私だって、そんなところが大好きなんだもん。
「やっぱ、僕がおかしいのかな」
悩んでいるエイベル君を見つめながら、私は考え込んだ。
ふむ、人に興味が無いわけじゃないのか。いい面ばかり見ようとするのだわ。性善説を推しているのね。
私の性格が悪いのかしら。皆いい人なんて、そんなわけあるか! この人、素直すぎるわ。
「そんなで士官になれるの? あと、カルト宗教とか自己啓発ナンチャラに騙されるんじゃないの?」
私が言うと、エイベル君は苦笑した。
「それは大丈夫だよ。害をなす者たちから皆を守るためなら、僕はちゃんと戦えるよ。……でも……僕は……」
ふと遠くを見るような目をした。
「ただ一人を守りたいと思えるのも、羨ましいなって──」
そこで口ごもる。私が黙って先を促すと、やがて伏し目がちに、言いにくそうにポツリと呟いた。
「けっきょくは、真実の愛があるって信じたいんだよね。僕にも運命の人がいるのかなって……思いたいんだ」
口にしてから、ハッとして私を見る。照れ隠しなのか、慌てて言い訳をした。
「いや、両親がすごく仲が良くてね。だからああいう結婚ならしたいなーって思ったんだ」
真紅の瞳を泳がせながら狼狽えるエイベル君。不覚にも、可愛いなと思ってしまった。
私がどうしてエイベル君に好意を持ったかっていうと、単純にいい人だから。
彼が建前だけの優しさで接してきたなら、さすがに私は──いや、誰だって心を動かされないだろう。
胡散臭いくらい優しいから、偽善者だって思われちゃうわ。
でも彼、本当に優しいの。
委員長を押し付けられた私のこと、さりげなくサポートしてくれたエイベル君。
「エイベル君が委員長になったら、私たちとデートできなくなっちゃうから、あなたがやりなさいよルシールさん。どうせあなたは、デートなんて興味無いんでしょ?」
と言ってきた例のパリピたちの目論見が外れ、意外にも彼との接点が増えてしまったのだ。
重い教材を運んだり、課題のノートを集めてくれたり、黒板を消すのはいつもエイベル君なの。
私の仕事だからいいよと言ったのに、俺の方が力があるし背が高いからさ、と毎回手伝ってくれる。もしかして、根暗鉄仮面にも優しくすることで、周りからの評価を上げようとしているのかしら?
だけど、皆さっさと移動教室で行ってしまったのに。誰も見てないのよ? 私みたいなガリ眼鏡に優しくしたって得なことないじゃない。
やがて彼が、人の目など気にしてやっているわけじゃないと、すぐ知ることになった。だって、私はいつも彼を盗み見ていたから。
世話焼きなのは皆気づいていると思う。なんて言ったらいいのか、助け舟を出すのが上手いっていうの?
クラスで誰かが恥をかいたり、嫌われたり、孤立しないよう、上手い具合に水面下で画策するのよ。
一人でいる子は絶対放っておかないし。揉めそうになったら絶妙な緩衝材になり、人と人との衝突を防ぐのだ。とにかくフォローやサポートが上手いのよね。
見えないところでも人の役に立とうとしているのが、肌で感じられる。
たぶんエイベル君の方が、私より委員長に向いているんだわ。
皆が彼を好きになるのは、分かる気がした。私だって、そんなところが大好きなんだもん。
8
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

惚れっぽい恋愛小説家令嬢は百戦錬磨の青年貴族に口説かれる→気づかない
川上桃園
恋愛
ちまたで話題の恋愛小説家『ケイン・ルージュ』は辺境伯家のご令嬢のセフィーヌ・フラゴニア。
彼女の悪癖は惚れっぽいこと。好きです、結婚してください、と繰り返すこと998回。失恋も同回数。しかしそれでも彼女はめげずに愛用の黒い自転車をかっ飛ばして、999回目の恋へと突き進む。
そこへ行き合わせたのは色男として名高いジドレル・キッソン。留学からの帰国直後一番に彼女に目を付けてしまった。
しかし、どんなにアプローチしようともセフィーヌ・フラゴニアは気づかない。
――おかしい。こんなはずじゃない。
気を引こうと躍起になるうち、いつの間にかずるずると……。
「先生にとっての恋や愛って何ですか?」
他サイトにも掲載されています
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる