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叶わぬ恋だと知ってはいるが
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まあぶっちゃけると、私もご多分に漏れずエイベル君が好きだ。
分け隔てなく優しいし、気が利くし、頭も家柄もいい。
ついでに程よく筋肉質なのも素敵。今後の進路は、士官学校の花形である騎兵科を受けるということで、実技試験に向けて課外訓練もみっちりこなしているのだろう。
あんなに柔和なイメージなのに、学院の女子更衣室から制服を盗んだ侵入者を、一瞬で取り押さえたのよ? 護衛の騎士より早くて、しかもその捕縛術は惚れ惚れするほど鮮やかだった。男子学院生らが彼に一目置いているのも頷ける。
どんなことでも一通りこなしてしまう器用さ、要領の良さは憧れてやまない。老若男女問わず、好かれるタイプなんだもの。私とは正反対だわ。
だからだろうか、私はいつも彼を目で追っていて、いつの間にか叶わぬ恋をしてしまっていた。
昔から人付き合いが下手な私は、真面目なだけが取り柄だと、家族からも呆れられていた。
せっかく顔立ちは整っているのだから、笑えばいいと思うよ? なんて兄たちからも言われたけど、そういう兄たちだって不愛想だ。
顔のパーツが整然としていると、よけい人間味が無いというか……。表情が動かないから、人形のように見えるのだ。
聞けば、亡くなった母もそう愛想のいい方ではなかったとか。一家で表情筋が乏しいんじゃないかしら。男所帯で育ったせいもあるかもしれない。
とにかく、私は喜怒哀楽を表に出すのが苦手なまま、ここまで成長してしまったのだ。
加えて、冷たそうなアッシュブルーの髪。瞳もどんよりした青灰色だし、やせぎすで血色が悪く、可愛らしいとはお世辞にも言えない。
華やかな金髪碧眼のパリピ娘たちを羨ましく思う。貧相な私がシュミーズドレスを着たところで、病人がベッドを抜け出したと思われそう。
まあ……一度くらい着てみたいけど、似合わないし。
唯一私に抜きん出ているところがあるとしたら、それは数学だった。
弾道計算、行軍速度に、弾薬や兵站の消費速度も一瞬で割り出して、父や兄たちを驚かせた。そのお陰で、士官学校に入ることを許されたが、本当は軍になど入らず、すぐに結婚してほしかったようだ。
しかもまだ諦めていないようで、学院に入学してからも何度か舞踏会の招待状を送ってこられた。お見合いが嫌なら、社交場で相手を見つけてこい、という目論見らしい。
でも、全部断った。私には社交の能力がぜんぜん無いのだもの。それに、この鉄仮面に華やかなドレスが似合うとは思えない。
わざわざ壁の花になりに行くなんてごめんだ。
そんな私だけど、さすがに卒業式──卒業パーティーは出ないといけない。王立学院の義務で、王宮で催されるわけだからね。
ぼちぼちパートナーを決め始める時期だった。どうしたらいいんだろう。既にダンスの練習は始まっているのに……。余った者同士で組むしかないのだろうか。相手に嫌がられるのが目に見えているので、憂鬱だった。
だいたい、なんで士官学校進学希望の者まで、ダンスを覚えなきゃならないのよ。軍のお偉いさんたちなんてほとんど男だし、私だって社交の場は軍服でいいじゃない?
そんなふうに鬱々としていたある日、その事件は起こった。
分け隔てなく優しいし、気が利くし、頭も家柄もいい。
ついでに程よく筋肉質なのも素敵。今後の進路は、士官学校の花形である騎兵科を受けるということで、実技試験に向けて課外訓練もみっちりこなしているのだろう。
あんなに柔和なイメージなのに、学院の女子更衣室から制服を盗んだ侵入者を、一瞬で取り押さえたのよ? 護衛の騎士より早くて、しかもその捕縛術は惚れ惚れするほど鮮やかだった。男子学院生らが彼に一目置いているのも頷ける。
どんなことでも一通りこなしてしまう器用さ、要領の良さは憧れてやまない。老若男女問わず、好かれるタイプなんだもの。私とは正反対だわ。
だからだろうか、私はいつも彼を目で追っていて、いつの間にか叶わぬ恋をしてしまっていた。
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せっかく顔立ちは整っているのだから、笑えばいいと思うよ? なんて兄たちからも言われたけど、そういう兄たちだって不愛想だ。
顔のパーツが整然としていると、よけい人間味が無いというか……。表情が動かないから、人形のように見えるのだ。
聞けば、亡くなった母もそう愛想のいい方ではなかったとか。一家で表情筋が乏しいんじゃないかしら。男所帯で育ったせいもあるかもしれない。
とにかく、私は喜怒哀楽を表に出すのが苦手なまま、ここまで成長してしまったのだ。
加えて、冷たそうなアッシュブルーの髪。瞳もどんよりした青灰色だし、やせぎすで血色が悪く、可愛らしいとはお世辞にも言えない。
華やかな金髪碧眼のパリピ娘たちを羨ましく思う。貧相な私がシュミーズドレスを着たところで、病人がベッドを抜け出したと思われそう。
まあ……一度くらい着てみたいけど、似合わないし。
唯一私に抜きん出ているところがあるとしたら、それは数学だった。
弾道計算、行軍速度に、弾薬や兵站の消費速度も一瞬で割り出して、父や兄たちを驚かせた。そのお陰で、士官学校に入ることを許されたが、本当は軍になど入らず、すぐに結婚してほしかったようだ。
しかもまだ諦めていないようで、学院に入学してからも何度か舞踏会の招待状を送ってこられた。お見合いが嫌なら、社交場で相手を見つけてこい、という目論見らしい。
でも、全部断った。私には社交の能力がぜんぜん無いのだもの。それに、この鉄仮面に華やかなドレスが似合うとは思えない。
わざわざ壁の花になりに行くなんてごめんだ。
そんな私だけど、さすがに卒業式──卒業パーティーは出ないといけない。王立学院の義務で、王宮で催されるわけだからね。
ぼちぼちパートナーを決め始める時期だった。どうしたらいいんだろう。既にダンスの練習は始まっているのに……。余った者同士で組むしかないのだろうか。相手に嫌がられるのが目に見えているので、憂鬱だった。
だいたい、なんで士官学校進学希望の者まで、ダンスを覚えなきゃならないのよ。軍のお偉いさんたちなんてほとんど男だし、私だって社交の場は軍服でいいじゃない?
そんなふうに鬱々としていたある日、その事件は起こった。
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