32 / 63
覗きをするお嬢様~執事視点~
しおりを挟む
壁を頼りに進んでいくと、ランプの灯が見えた。
客室の扉の前で、お嬢様が立ち尽くしている。
何をやっているんだ?
近づこうとして、一瞬足が止まった。少し干渉しすぎではないかと迷ったのもあるが、気まずさもあった。
いや、いいんだ。……俺は使用人。
自分の感情など二の次にし、お嬢様のお世話に徹する。これだけ考えていればいい。
吹っ切って、お嬢様の方に歩いていった。お嬢様は、俺に気づかない。
「……?」
お嬢様は、何かに気を取られていた。坊っちゃまとルシール嬢の寝ている部屋だが……。
よもや、エイベル坊っちゃまとルシール嬢の間に潜り込んで、無理やり添い寝でもさせる気か、と最初は疑った。
しかし、小さなオレンジの光に照らされたお嬢様の横顔は、明らかに戸惑っていた。目をまん丸に見開き、口を開け、眉をひそめ、驚愕と困惑の表情を貼り付けている。
そこでピンと来た。これは不味い!
お嬢様は知識だけの頭でっかち。世間知らずで無垢なお嬢様に、いきなりそんな場面を見せてはいけない!
部屋の中の二人に気づかれないよう、そっとお嬢様に近づく。
お嬢様の頭の上からチラ見えした中の様子は、想像を超えた淫猥さだった。
なんでルシール嬢が体にロープを巻き付けられてるんだ!? 坊っちゃまもマニアックなのか!?
兄妹揃って変態とは……。俺は慌てて目を逸らし、お嬢様がうっかり悲鳴を上げないよう口に蓋をして、ズルズルその場から引きずっていった。
押さえた手のひらに柔らかい唇が当たり、胸がザワついた。
お嬢様は俺の腕の中から逃れようと、ジタバタしている。
力……弱いな。俺が誘拐犯だったら簡単に攫えるぞ。
このまま攫ったら、どうなるかな?
不穏な考えが浮かんだ自分にゾッとする。何を考えているんだ俺は!
客室から十分離れたところで、俺はお嬢様を解放した。
お嬢様はハァハァ言いながら俺の胸を叩く。
「窒息するところだったわよ、鼻の穴まで押さえないで!」
「し~っ! 夜中ですよ!」
俺が人差し指を口元に当てた。お嬢様が口を閉じる。
ところが、途端に遠くから女性の嬌声が響いてくる。
ルシール嬢、声でけぇよ!
「お嬢様、早くお休み下さ──」
お嬢様の顔が真っ赤に染まっている。気まずそうに俯いているものだから、俺までなんだかいたたまれなくなった。
「あー、猫でも鳴いているのでしょうかね」
俺たちは気づいてない。いやーん! とかアハーン! とか、全然聞こえない!
「さ、早く部屋の中へ!」
俺はお嬢様を寝室に押し込んで扉を閉め、そこに背をつけて安堵の息をついた。
まったく、無垢なお嬢様になんてものを見せるのか! 鍵をかけろ鍵を。
翌朝、鍵をかけること、声を抑えること、この二つをぼやかしてさりげなく注意すると、二人は俺が伝えたいことを察したようで、大変恐縮していた。
「ここに滞在中も、我慢しましょう」
と、ルシール嬢が小声で提案した時の、坊っちゃまの顔は見ものだった。
この世の終わりか!
客室の扉の前で、お嬢様が立ち尽くしている。
何をやっているんだ?
近づこうとして、一瞬足が止まった。少し干渉しすぎではないかと迷ったのもあるが、気まずさもあった。
いや、いいんだ。……俺は使用人。
自分の感情など二の次にし、お嬢様のお世話に徹する。これだけ考えていればいい。
吹っ切って、お嬢様の方に歩いていった。お嬢様は、俺に気づかない。
「……?」
お嬢様は、何かに気を取られていた。坊っちゃまとルシール嬢の寝ている部屋だが……。
よもや、エイベル坊っちゃまとルシール嬢の間に潜り込んで、無理やり添い寝でもさせる気か、と最初は疑った。
しかし、小さなオレンジの光に照らされたお嬢様の横顔は、明らかに戸惑っていた。目をまん丸に見開き、口を開け、眉をひそめ、驚愕と困惑の表情を貼り付けている。
そこでピンと来た。これは不味い!
お嬢様は知識だけの頭でっかち。世間知らずで無垢なお嬢様に、いきなりそんな場面を見せてはいけない!
部屋の中の二人に気づかれないよう、そっとお嬢様に近づく。
お嬢様の頭の上からチラ見えした中の様子は、想像を超えた淫猥さだった。
なんでルシール嬢が体にロープを巻き付けられてるんだ!? 坊っちゃまもマニアックなのか!?
兄妹揃って変態とは……。俺は慌てて目を逸らし、お嬢様がうっかり悲鳴を上げないよう口に蓋をして、ズルズルその場から引きずっていった。
押さえた手のひらに柔らかい唇が当たり、胸がザワついた。
お嬢様は俺の腕の中から逃れようと、ジタバタしている。
力……弱いな。俺が誘拐犯だったら簡単に攫えるぞ。
このまま攫ったら、どうなるかな?
不穏な考えが浮かんだ自分にゾッとする。何を考えているんだ俺は!
客室から十分離れたところで、俺はお嬢様を解放した。
お嬢様はハァハァ言いながら俺の胸を叩く。
「窒息するところだったわよ、鼻の穴まで押さえないで!」
「し~っ! 夜中ですよ!」
俺が人差し指を口元に当てた。お嬢様が口を閉じる。
ところが、途端に遠くから女性の嬌声が響いてくる。
ルシール嬢、声でけぇよ!
「お嬢様、早くお休み下さ──」
お嬢様の顔が真っ赤に染まっている。気まずそうに俯いているものだから、俺までなんだかいたたまれなくなった。
「あー、猫でも鳴いているのでしょうかね」
俺たちは気づいてない。いやーん! とかアハーン! とか、全然聞こえない!
「さ、早く部屋の中へ!」
俺はお嬢様を寝室に押し込んで扉を閉め、そこに背をつけて安堵の息をついた。
まったく、無垢なお嬢様になんてものを見せるのか! 鍵をかけろ鍵を。
翌朝、鍵をかけること、声を抑えること、この二つをぼやかしてさりげなく注意すると、二人は俺が伝えたいことを察したようで、大変恐縮していた。
「ここに滞在中も、我慢しましょう」
と、ルシール嬢が小声で提案した時の、坊っちゃまの顔は見ものだった。
この世の終わりか!
5
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる