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アホのネイサン

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 ネイサンはしばらく固まっていた。ネクタイで首が苦しかろうに、顎に手を置き、宙を睨んで考え込んでいる。

「……?? そうでございましたか?」

 そうでございましたか? じゃないわよ!

「なんで勝手にパートナーになってるわけ!? 他の人に頼んじゃったじゃない」

 ケインさんにさっき頼んだばっかりよ!

 次の瞬間、ネクタイを引っ張っていた手首を掴まれた。

「何とおっしゃいました?」

 ネイサンの顔色が真っ白になっている。

「い……痛いっ」

 ギリギリ手首を握りしめられ、ネクタイを掴む私の手から力が抜ける。

 そのまま両腕を掴まれ、気づくとテーブルの上に引きずり挙げられていた。

「お嬢様は、私を好きだとおっしゃいましたよね?」
「言ったわよ!」
「では、パートナーは私以外おりませんし、卒業したら即結婚に決まっているではございませんか」

 あれ? ……なんか……。

 冷静な執事だと思っていたけど、意外に暴走体質? 私は目をパチクリしてネイサンを見つめ返す。

 彼は険しい表情で、噛んで含めるようにもう一度言った。

「パートナーは私です」

 再び、私の腹の底からふつふつと怒りが湧き上がってくる。

「だって、私が好きになっちゃったから、怒って辞めたんじゃないの!? ネイサンの方から離れていったんじゃない! それで貴方が私のパートナーをしてくれるなんて、思えるわけないじゃない!」

 ネイサンはさらに私を引き寄せた。ずるっとテーブルの上から落ちて、彼の膝の上に収まってしまった私。

 ふわりと、微かにカルダモンとムスクの香りがした。あ……この匂い。私の作った香水だわ。まだつけてくれている。

「お嬢様は、私にあれだけのことをされたのに、お分かりになっていなかった?」

 至近距離で切り込むように言われ、私は一瞬怖くなった。

 でも言わせてもらうわ!

「私、見たもの! 生誕祭に、グレイシーさんとジュエリーショップにいたもの!」
「……ほう、それで当てつけに、他の男をパートナーに?」

 当てつけも何も……。

「二人は、付き合っているんじゃないの?」

 泣き出してしまいそうなのを堪え、小さな声で聞き返すと、ネイサンはようやく引き結んでいた口元を綻ばせた。

「弟に内緒で、贈り物を選びに行っていたんです。婚約指輪のお返しの金時計。その代わりに──」

 ちょっと迷うネイサン。

「私も選んでもらいました」

 はぁ……サプライズだったのにと呟くと、私を子供のように抱っこしてから貴重品ボックスまで向かい、ダイヤルを回す。

「卒業パーティーで渡す予定でございましたが、お痩せになったので、指のサイズも変わってしまったかもしれませんね」

 白い小箱を取ると、シングルベッドの上に私を下ろし、ベッドの下に跪く。それから、パカッ蓋を開いて見せたではないか。

「……ダイヤの、指輪……?」
「プロポーズが早まってしまいましたね。結婚してくださいますね?」

  有無を言わせない強引なプロポーズに、私は呆れる。

 私のあの悲しみの日々は何だったのよ、このポンコツ執事! どアホウ!

「……お返事は? 人生のパートナーになってくださいますよね?」
「知らないっ! なによそれ! 人生のどころか、卒業パーティーのパートナーも要らないもん!」

 ぶんむくれて横をむく私に、ネイサンの声色が変わった。

「いいでしょう。卒業パーティーのパートナーをどなたになさろうが、お嬢様の自由でございます。そもそもあれは、ただのダンスの相手だと伺っておりますから」

 ギシとベッドに手を付き、身を乗り出して恐喝するかのように顔を近づけるネイサン。

「でもそれは、最終的にお嬢様が私のモノになるからでございます」
「勝手なのよ! あれだけ苦しめておいて、私がすんなりあなたのモノになると思っているの?」

 だいたい逆なのよ、ネイサンが私のモノにならないとダメでしょ! ……でないとなんていうか、負けているみたいで嫌なんだもん。

「──っ!」

 顎を掴まれた。ネイサンは自分の方に無理やり私の顔を向けさせた。

 ちょ……無礼じゃないこと!?

「苦しんだので……ございますね? ……それはなぜ?」

 私は口ごもる。ネイサンは猫なで声で、さらに聞いてくる。

「申し込んだパートナーは、まさかあのエロガキ?」
「ち、違うわよ」

 満足そうに頷いたネイサン。

「余裕のある態度で見守ろうかと思いましたが、やっぱり貴女の体に他の男が触れることは我慢なりませんね。それがたとえオムツの取れていないガキでも」

 しゅるっとネクタイを解く。

「お嬢様は私のことを好きだとおっしゃった。ですからお嬢様はもう私のモノなのです」
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