【完結】天邪鬼でブラコンなメイベルお嬢様は、お仕置きされたいようです【R18】

世界のボボ誤字王

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バレンタラインデー

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「これ、受け取ってよ」

 私は学院帰りにお店に寄って買ったチョコを、両手に持って差し出した。

「あと、卒業パーティーのパートナーになってほしいの」
「はぁ!?」
「返事はホワイトデーでもいいわ。ダメだったら、レンタルパートナーに頼むから」

 レンタルパートナー。みんな、いろんな商売を考えつくわね。

「わしは既婚者ですぞ」

 ケイン爺さんが後ずさる。

「親兄弟でなければ、いいのよ」
「枯れ専だと思われますぞ!」

 むしろ好都合。

 今までモテなかったのは、私のせいじゃないの! 私が枯れ専だからなの!

「あたしゃ別に構いませんが、だったら御者のサミュエルさんの方が付き合いが長いのでは?」

 奥さんのオスギー夫人が提案するも、だったら誰が馬車を出すのよ、って話で。

「だいたい男手が老人しかいないって、どうなんです?」

 疑問に思っていたのか、オスギー夫人が顔を顰めてそう口にした。メイドのミリーが肩を竦める。

「なんか、前にいた使用人が変質者だったんですって。以来ネイサンさんが、男性使用人は雇わないようにしていたみたいです。力仕事は彼がやってくれたし」

 なんだ、そうだったの。てっきり私の悪名に恐れをなして応募してこないのかと……。

 その時呼び鈴が鳴って、ミリーが玄関ホールに向かった。

 短い話し声のあと、ミリーが私を呼ぶ。

「お嬢様ー、荷物の配達頼みました? 何買ったんですか?」

 首を傾げながらホールに行く私。配達人が、女子に人気のブティックの箱を運び込むところだった。

「知らないわよ、隣のタウンハウスのじゃないの?」

 私が言うと、配達人は宛先を見せてサインを要求する。

 確かにこの町屋敷宛だ。差出人は、王都ロイヤルホテル? お兄様たちが結婚式をやったから、その記念の品とか?

 にしては、タイミングがズレてるわ……。

 いぶかしく思いながらも、開いて中を確認した。春らしいエメラルドグリーンのドレスに、私は目を見張る。プリンセスラインの素敵なやつだ。共布で作ったヘッドドレスも、小箱に入った状態で添えられていた。

 ミリーが、わ~可愛い、とはしゃいでいる。

「え? 何これ」

 広げたドレスから、スルッと手紙が落ちてきた。

『卒業パーティーまで、太らないように』

 それだけ。

 この繊細な文字、もしかして? 私は屋敷の奥に向かって走った。

「サム! 馬車出して!」
「サミュエル爺は、まだ裏に馬車を回し終えてませんよ」

 ミリーの言葉に舌打ちして、私は外に飛び出す。大通りをキョロキョロし、ちょうど客の降りた辻馬車を捕まえた。

 ドキドキする心臓を抑え、私はロイヤルホテルに向かう。



 王都ロイヤルホテルは結婚式以来来ていないけど、いつも混んでいる印象だ。都で一番大きいのだから当たり前か。

 馬車回しで待たされイライラした。正面玄関にたどり着くと、御者が扉を開けるまもなく馬車を飛び出し、一目散にホテルのロビーに走った。

 制服姿の私が駆け込んできたものだから、宿泊の精算を済ませるために並んでいた客たちが振り返る。

 ホテルのボーイが、何か御用でしょうか? と慌てて寄ってきた。

 同時にレセプションカウンターから、接客を終えた黒服が出てくる。

「ああ、大丈夫、私の連れです」

 私はその声を聞いて飛び上がった。

「ネイサン!」
「し~っ! まさかいらっしゃるとは……」

 髪をきっちりオールバックにした仕事モードのネイサンは、糸目を和ませてロビーのソファーを指差した。

「あと少しで私の勤務時間が終わります。そちらでお待ちください。きみ、お茶をお出しして」

 ボーイが頷くと、ネイサンもカウンターの中に戻って行った。

 働いている……。

 ネイサンが、ホテルの従業員として働いている。

 私は持ってきてもらったお茶を啜りながら、彼が執事とは少し違った顔で仕事をしているところを、ずっと眺めていた。
 
 私じゃない人の、お世話をしている。

 なんとも言い難い気持ちだった。
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