【完結】天邪鬼でブラコンなメイベルお嬢様は、お仕置きされたいようです【R18】

世界のボボ誤字王

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生誕祭

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 ネイサンがいなくなってから、数ヶ月が過ぎた。

 馬車の中から見える街の並木には、赤や青のオーナメントやリボンが飾り付けられている。

 ガーデンスクエアに運ばれたもみの木も綺麗に飾り付けされ、テッペンに星が煌めいていた。

 恋人同士はこの生誕祭というイベントを楽しみにし、独り身は相手を探して焦るこの時、私はぼんやりと二ヶ月近く前のハロウィンと比べてしまう。

 満ち足りた、ハロウィンだったな。

 でも、この冬のイベントは空虚だ。

 家族は春まで雪に閉ざされた領地から出られないし、相変わらず友達はいないし、誰からもデートに誘われないし……。

 セディですら、なんだか少し大人っぽくなり、落ち着いたと言うか余裕を感じた。幸せそう。推薦が決まりそうなのかしら。

 対する私の卒業パーティーは……詰んだわね。


 道が混んできて、馬車の進みが遅くなる。卒業研究の論文の残りを早くやらないといけないのに。

 イライラしつつ、おそらくは虚ろな顔で、目抜き通りを眺めていたその時だ。

「──っ!?」

 思わず座席から立ち上がり、脳挫傷になるほど激しく頭を天井にぶつけていた。

 ぐぉぉおおぉぉっと蹲って呻いていると、御者台の窓が開いて、サムが顔をのぞかせる。

「なんかすごい音がしましたが、大丈夫ですかい?」
「え、ええ、ちょっとムシャクシャしてドアを蹴っただけだから」
「生誕祭は、いつから恋人の日になったんでしょうね、神聖なお祝いでしたがね」

 サムは憐れみを込めた視線を残し、小窓を閉じた。ジジイに同情され、スンとなるどころではなかった。

 私はまたひょこっと窓から外を覗く。

 ネイサンが、いた。

 宝石店の前に。

 やだ、ついに幻が見えるようになった!? 目を擦るも、あの黒髪糸目はどう見てもネイサンだ。

 懐かしさで胸がいっぱいになった時、店の中から紙袋を持った背の高い女性が出てきた。

 グレイシーさん!?

 私はわけもなく窓の下に隠れる。おそるおそる顔を上げると、二人は微笑み合い、並んで歩き出した。飾られた並木道を。

 と同時に、渋滞が解消し、馬に鞭をくれる音と共に、馬車は急速に勢いを増した。

 窓に張り付き、遠ざかっていく二人の背中を見ながら思う。

 手に入れたかったものは、かっさらわれた。ううん、最初からあの人の物だったのかも。

 とにかく私は、失敗した。

 ネイサンを手に入れる方法、そんなものは無い。執事としてのネイサンに満足していれば、少なくともネイサンはまだそばに居てくれたんだろうけど。

 自業自得だわ。

 だけど、苦しいだけだものね。隠し通せなかった、気づかれてしまったのなら、これで良かったのかな。

 私は愛されたかった。ネイサンから、一個人としてに愛されたかった。

 分かっている。どれほど望んでも、手に入らないものはある。

 ひねくれてワガママな女には、絶対に手に入るはずがないのだ。

 コートの前をかきあわせ、私は白い息を吐いた。さて、とにかく論文を仕上げよう。

 あのな生意気な執事が言っていたじゃない、自立なさいませと。


 

 

 
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