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エイベルお兄様の結婚
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そうして迎えたお兄様とルシールさんの結婚式。ネイサンが私のイメージで作らせていた、淡いピンクのAラインのドレスは、サイズもピッタリだった。
夏に型紙を取っていたのはそのためね、抜け目ない!
結婚式……結論から言わせてもらうと、まあ……嫌じゃなかった。幸せになる二人を……家族になる二人を見るのは辛いかなって思ったけど、タウンハウスであれだけイチャつかれたから、耐性がついていたみたい。
ただ──。
真っ白な花嫁衣裳に身を包んだルシールさんが、あまりに綺麗で……。
お兄様は四六時中鼻の下を伸ばしているし、鉄面皮家族は真顔のまま泣いているし、うちの両親は「思い出すわねぇ、私たちの結婚式」「ああ、あれは酷かった」なんて二人の世界に入り込んでいるし、なんていうか……。
うらやましぃいいいい!
やっぱり、取り残された感だけは消えなかったのだ。
それどころか、私も結婚したい、白いドレスとかどうでもいいけど、ただああやって誰かの熱烈な視線を一身に浴びて、皆から祝福されたい、そう思ってしまった。
ガイアス神教会の聖堂から、何故か白い玉葱型のダサい馬車に乗ってホテルの披露宴会場に向かう新郎新婦に、これほどまでに憧れてしまうとは……。
やっぱり、出席するんじゃなかったかしら?
感動なのか寂しさなのか分からない嗚咽をこらえ、私はグスグス鼻を啜る。そしてその後のホテルでの宴で、やけ食いをするのだった。
披露宴は、お兄様の学院時代の同級生が多かった。
わたし、学院では「伝説の悪役令嬢の再来」とか言われてけっこう有名なのよね、コソコソしちゃう。
幸い、お兄様の学年では私の噂はあまり広がっていないようだけど……。女性がほとんど呼ばれなかったせいもあるからしら。
ルシールさんの方のお友達の招待客も少なかった。
学院時代は学級委員長をやっていたと聞いたのにな。私と同じで友達が少ないのね。士官学校女子寮の同部屋女子しか呼んでないみたい。
つまり圧倒的に男子が多い。
そのせいか、宴は男性のノリ。へべれけで芸を披露し始めた余興担当の人たちは、裸同然だった。円盤状のトレイを二つ持って局部で交差させ、スレスレで見えないようにしている裸踊りなんだもん!
いや、着席する紳士淑女には絶対見えないっていう、すごいテクニックだったけど!
下品!!
花嫁の顔色は特に変わっていなかったので、男所帯で慣れているのかもしれない。
「三次会どうする~? 三次会どうする~?」
と叫ぶ全裸の男性たちに囲まれ、お兄様はさすがにカッカしていた。
「ヒューバート、君に幹事を頼むんじゃなかった。ルシールに下品なものを見せるんじゃない!」
「ああ大丈夫よ、エイベル君。お兄様たちも飲むとよくやるから」
本当に慣れていた。
お父様とお母さまに「私、もう帰る」と伝えようとしたところ、二人は二人でなんかしんみりしている。
「私もこういう披露宴したかった」
「ごめんよ、ニーナ。いつかもう一回やり直そうな」
と二人だけの世界に入っていたので、私はため息をついて大ホールから外に出た。
「あ……れ?」
大きな花束を持ったネイサンが、従業員にしては身なりのいい男性と、ロビーで話しこんでいた。
私に気づき、慌ててこちらにやって来るネイサン。よく見ると、テイラー夫人やサム、レイチェル、ミリーら通いのメイドたちもいるではないか。
「来てたの?」
「はい、教会は後ろの方におりました」
「入らないの?」
バカ騒ぎになってるけど……。
「我々使用人も招待したいと、お二人からお申し出がございましたが──。招待された方々の中には、使用人と同席することに、抵抗がある年配者もいらっしゃる可能性がございます。我々には仕事もございますので、出席は控えさせていただきました」
そして大きな白い薔薇の花束を見せる。
「退場の時にお渡ししようかと。使用人一同からです」
律儀ね。サムとテイラー夫人以外は、お兄様が寮に入ってから雇われた使用人なのに。
「念のため、タウンハウスで軽く三次会もできるようにご用意をさせていただいております。どのようなご様子でしょうか」
それから、少し不安げな声で付け足す。
「あの……それと弟のヒューバートは、何か粗相をしていないでしょうか」
あ、そうか。医者の弟さんが同級生なのよね。え、あの裸踊りの人!? 医者って言うより患者っぽかったけどな……。
「ベロベロよ。たぶん勝手にラウンジか、パブかどこかに行くでしょ。うちより近いもの。私はもう帰って寝るからね! うるさいのは嫌よ。うちで三次会なんてやりませんっ」
そうして薔薇の花束を受け取る。
「渡してくるから、待ってて。皆で帰りましょう」
夏に型紙を取っていたのはそのためね、抜け目ない!
結婚式……結論から言わせてもらうと、まあ……嫌じゃなかった。幸せになる二人を……家族になる二人を見るのは辛いかなって思ったけど、タウンハウスであれだけイチャつかれたから、耐性がついていたみたい。
ただ──。
真っ白な花嫁衣裳に身を包んだルシールさんが、あまりに綺麗で……。
お兄様は四六時中鼻の下を伸ばしているし、鉄面皮家族は真顔のまま泣いているし、うちの両親は「思い出すわねぇ、私たちの結婚式」「ああ、あれは酷かった」なんて二人の世界に入り込んでいるし、なんていうか……。
うらやましぃいいいい!
やっぱり、取り残された感だけは消えなかったのだ。
それどころか、私も結婚したい、白いドレスとかどうでもいいけど、ただああやって誰かの熱烈な視線を一身に浴びて、皆から祝福されたい、そう思ってしまった。
ガイアス神教会の聖堂から、何故か白い玉葱型のダサい馬車に乗ってホテルの披露宴会場に向かう新郎新婦に、これほどまでに憧れてしまうとは……。
やっぱり、出席するんじゃなかったかしら?
感動なのか寂しさなのか分からない嗚咽をこらえ、私はグスグス鼻を啜る。そしてその後のホテルでの宴で、やけ食いをするのだった。
披露宴は、お兄様の学院時代の同級生が多かった。
わたし、学院では「伝説の悪役令嬢の再来」とか言われてけっこう有名なのよね、コソコソしちゃう。
幸い、お兄様の学年では私の噂はあまり広がっていないようだけど……。女性がほとんど呼ばれなかったせいもあるからしら。
ルシールさんの方のお友達の招待客も少なかった。
学院時代は学級委員長をやっていたと聞いたのにな。私と同じで友達が少ないのね。士官学校女子寮の同部屋女子しか呼んでないみたい。
つまり圧倒的に男子が多い。
そのせいか、宴は男性のノリ。へべれけで芸を披露し始めた余興担当の人たちは、裸同然だった。円盤状のトレイを二つ持って局部で交差させ、スレスレで見えないようにしている裸踊りなんだもん!
いや、着席する紳士淑女には絶対見えないっていう、すごいテクニックだったけど!
下品!!
花嫁の顔色は特に変わっていなかったので、男所帯で慣れているのかもしれない。
「三次会どうする~? 三次会どうする~?」
と叫ぶ全裸の男性たちに囲まれ、お兄様はさすがにカッカしていた。
「ヒューバート、君に幹事を頼むんじゃなかった。ルシールに下品なものを見せるんじゃない!」
「ああ大丈夫よ、エイベル君。お兄様たちも飲むとよくやるから」
本当に慣れていた。
お父様とお母さまに「私、もう帰る」と伝えようとしたところ、二人は二人でなんかしんみりしている。
「私もこういう披露宴したかった」
「ごめんよ、ニーナ。いつかもう一回やり直そうな」
と二人だけの世界に入っていたので、私はため息をついて大ホールから外に出た。
「あ……れ?」
大きな花束を持ったネイサンが、従業員にしては身なりのいい男性と、ロビーで話しこんでいた。
私に気づき、慌ててこちらにやって来るネイサン。よく見ると、テイラー夫人やサム、レイチェル、ミリーら通いのメイドたちもいるではないか。
「来てたの?」
「はい、教会は後ろの方におりました」
「入らないの?」
バカ騒ぎになってるけど……。
「我々使用人も招待したいと、お二人からお申し出がございましたが──。招待された方々の中には、使用人と同席することに、抵抗がある年配者もいらっしゃる可能性がございます。我々には仕事もございますので、出席は控えさせていただきました」
そして大きな白い薔薇の花束を見せる。
「退場の時にお渡ししようかと。使用人一同からです」
律儀ね。サムとテイラー夫人以外は、お兄様が寮に入ってから雇われた使用人なのに。
「念のため、タウンハウスで軽く三次会もできるようにご用意をさせていただいております。どのようなご様子でしょうか」
それから、少し不安げな声で付け足す。
「あの……それと弟のヒューバートは、何か粗相をしていないでしょうか」
あ、そうか。医者の弟さんが同級生なのよね。え、あの裸踊りの人!? 医者って言うより患者っぽかったけどな……。
「ベロベロよ。たぶん勝手にラウンジか、パブかどこかに行くでしょ。うちより近いもの。私はもう帰って寝るからね! うるさいのは嫌よ。うちで三次会なんてやりませんっ」
そうして薔薇の花束を受け取る。
「渡してくるから、待ってて。皆で帰りましょう」
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