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リア充爆発しろ
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ハロウィンを間近に控えた週末、私は学院帰りの馬車の中から、オレンジ色に装飾された目抜き通りをぼんやり眺めていた。
学院の制服を着たカップルが、街を散策しているのをちらほら見かけて、ちょっとイラッとなる。
お互い見つめ合い、微笑みあいながら手を繋いで歩いている彼らを見ていると、なんとも言えない気持ちになった。
「つまらない」
教室でも卒業パーティーの相手の話ばかり。まあ別に羨ましくなんてないけど? 勝手に騒いでいればいいのよ、ただし私のいないところでね!
うっとおしいのよ。私たちは選ばれました、みたいな雰囲気がね。
だいたいその最たるものが、うちの両親と兄夫婦だなんて。
ちなみにうちの両親とルシールさんの親兄弟は、早々に領地に帰った。砦を守る辺境伯が、そんなに長く領地を空けてはいられないのだ。
お兄様たちは、ハロウィンを少し楽しんでからアボック市に戻るんだって。
新婚旅行でもすればいいのに。でも、あまりのんびりできないのよね。雪が降る前に領地に戻らないと、道が閉ざされてしまうの。
……なんとなく分かっている。
二人とも、私がハロウィンに一人にならないよう、気を遣っているんだわ。
そりゃあ、デートする相手なんていないけど。
いえ、先週くらいにセディの方からハロウィンデートに誘ってきてくれたわ。だけど「当日はこれ着てよ」と渡された手製のコスチュームがあまりに破廉恥だったから、怖くなって断ったの。
例によって小悪魔の格好をさせようってわけらしい。でも広げてみると、黒いビキニの上から黒いレースの尻尾付きすけすけミニスカワンピを被る仕様になっている。
セットで入っていた、ガーターベルトで留める目の大きな網タイツは大人っぽいからいいとして、謎なのは背中の羽。
背負う仕様なのはいい。ただ、コウモリの羽でもないし、堕天使の翼でもない。強いて言えば、昆虫の羽みたいになっている。
で、触覚みたいなのがついたカチューシャ。
これ、悪魔じゃなくない? ゴキブリじゃない?
それにスケスケワンピってさ、どう見ても下着丸見えよね?
指摘するとセディは、
「あ、大丈夫。それ水着だから、見せていいやつ」
でも、トップの三角形がすごく小さいわ。サイズが全然合ってない。
「あ、大丈夫。それ乳首だけ隠すやつだから」
なぜ彼のことを無垢な天使だと思っていたのか。ただのエロガキではないか。
ネイサンから「近づいたらいけない」と厳しく言われていなくても、警戒してしまう。
「メイちゃん、そんな目で見ないで。それは僕の開発した合成繊維だよ。商品化されたら爆発的ブームになる!」
デートを断ったのに、キュートな笑顔でグイグイ押し付けてくるものだから、結局いただいてしまった。
着る機会、ないわよ?
そう。着る機会なんてない。私は眩しい物から目を逸らすように、馬車の床に視線を移す。
「別にハロウィンに、誰ともデートしなくたっていいもん」
うっとおしいだけ。だってその後も、生誕祭だの聖バレテラデー祭だの、ホワイトデーだの……。卒業パーティに向けてのイベントが盛りだくさんなんだもん。
そのたびに私は、妙な疎外感を覚えるのだ。
疎外感……か。
「変ね」
これまでは何とも思わなかったのに。お兄様が寮に入ってからでさえ、ここまで嫌な感じはしなかった。
まるで世界で私だけ、独りぼっちになったいみたいな……。こんな気持ちには、なったことがなかった。
そこで思い至った。
ネイサンがいつも一緒だったからだ。
だから寂しくなかったのに。
学院の制服を着たカップルが、街を散策しているのをちらほら見かけて、ちょっとイラッとなる。
お互い見つめ合い、微笑みあいながら手を繋いで歩いている彼らを見ていると、なんとも言えない気持ちになった。
「つまらない」
教室でも卒業パーティーの相手の話ばかり。まあ別に羨ましくなんてないけど? 勝手に騒いでいればいいのよ、ただし私のいないところでね!
うっとおしいのよ。私たちは選ばれました、みたいな雰囲気がね。
だいたいその最たるものが、うちの両親と兄夫婦だなんて。
ちなみにうちの両親とルシールさんの親兄弟は、早々に領地に帰った。砦を守る辺境伯が、そんなに長く領地を空けてはいられないのだ。
お兄様たちは、ハロウィンを少し楽しんでからアボック市に戻るんだって。
新婚旅行でもすればいいのに。でも、あまりのんびりできないのよね。雪が降る前に領地に戻らないと、道が閉ざされてしまうの。
……なんとなく分かっている。
二人とも、私がハロウィンに一人にならないよう、気を遣っているんだわ。
そりゃあ、デートする相手なんていないけど。
いえ、先週くらいにセディの方からハロウィンデートに誘ってきてくれたわ。だけど「当日はこれ着てよ」と渡された手製のコスチュームがあまりに破廉恥だったから、怖くなって断ったの。
例によって小悪魔の格好をさせようってわけらしい。でも広げてみると、黒いビキニの上から黒いレースの尻尾付きすけすけミニスカワンピを被る仕様になっている。
セットで入っていた、ガーターベルトで留める目の大きな網タイツは大人っぽいからいいとして、謎なのは背中の羽。
背負う仕様なのはいい。ただ、コウモリの羽でもないし、堕天使の翼でもない。強いて言えば、昆虫の羽みたいになっている。
で、触覚みたいなのがついたカチューシャ。
これ、悪魔じゃなくない? ゴキブリじゃない?
それにスケスケワンピってさ、どう見ても下着丸見えよね?
指摘するとセディは、
「あ、大丈夫。それ水着だから、見せていいやつ」
でも、トップの三角形がすごく小さいわ。サイズが全然合ってない。
「あ、大丈夫。それ乳首だけ隠すやつだから」
なぜ彼のことを無垢な天使だと思っていたのか。ただのエロガキではないか。
ネイサンから「近づいたらいけない」と厳しく言われていなくても、警戒してしまう。
「メイちゃん、そんな目で見ないで。それは僕の開発した合成繊維だよ。商品化されたら爆発的ブームになる!」
デートを断ったのに、キュートな笑顔でグイグイ押し付けてくるものだから、結局いただいてしまった。
着る機会、ないわよ?
そう。着る機会なんてない。私は眩しい物から目を逸らすように、馬車の床に視線を移す。
「別にハロウィンに、誰ともデートしなくたっていいもん」
うっとおしいだけ。だってその後も、生誕祭だの聖バレテラデー祭だの、ホワイトデーだの……。卒業パーティに向けてのイベントが盛りだくさんなんだもん。
そのたびに私は、妙な疎外感を覚えるのだ。
疎外感……か。
「変ね」
これまでは何とも思わなかったのに。お兄様が寮に入ってからでさえ、ここまで嫌な感じはしなかった。
まるで世界で私だけ、独りぼっちになったいみたいな……。こんな気持ちには、なったことがなかった。
そこで思い至った。
ネイサンがいつも一緒だったからだ。
だから寂しくなかったのに。
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