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執事ネイサンの苦悩~執事視点~
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言い訳がましいと思われるかもしれないが、俺はロリコンではなかった。
ついでに言うなら、アダムソン家にお仕えし始めた頃は、お嬢様のことなどただの生意気なガキとしか思っていなかった。
少し俺の話をしてもいいだろうか。
ごく一般的な家庭に生まれた俺だが、十四の時に父を事故で亡くした。そして病弱な母と弟を養うため、コンシェルジュ&バトラーアカデミーの試験を受けることを決めたのだ。
最低入学年齢が十五からだが、高等科卒業レベルの学力が必要な試験を通過しなければならない。だからクラスメイトは、公立学校の高等科を卒業した十八からの入学者が多く、年上ばかりだった。
そのせいか、精神年齢が高めだと言われてきた。しかも東方の血が入っている俺は、実年齢より若く見えるようで、付いたあだ名がとっつぁん坊やだった。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく、早く稼ぎ頭になりたかった。
カリキュラムの最終段階にある実技研修期間は賃金も出るし、父のようにホテルやフラットマンションのコンシェルジュになるのもいいなと、考えた。
だが途中でバトラー科に編入し、けっきょくは執事になった。コンシェルジュより給与が高かったから……。
弟のヒューバートの将来の夢は医者で、彼の学費を稼がなければならない、そう思ったのだ。
意外にも、執事の仕事は天職だった。
領地管理は楽しい。収入は基本給プラス成功報酬で、どうやら自分には雇い主の財産を増やす才能があったようだ。仕送りも滞りなく進み、弟のヒューバートをまずは名門の王立学院に入学させることもできた。
執事生活は順調だった。
領主夫人に色目を遣われ、夜の奉仕を命じられてしまうまでは──。
俺に間男になれと? 主人に猟銃で撃ち殺される未来しか見えない!
そこで急遽、弟に奇病を発症してもらった。
勉強のしすぎで精神的に疲れ、全裸で絶叫する弟の心のケアに専念しますと言って、その屋敷の執事を辞めたのだ。
ところが次の就職先でも同じようなことが起きた。相手は王都近郊に居を構える貴族の令嬢だ。
親の決めた相手との婚約が決まった時、泣きながら告げられてしまった。ずっと好きだったと。私をさらって逃げてと。
駆け落ちするような間柄ではないんだが!?
女子の恋愛脳にはうんざりしたものだ。生徒に告白される教師の気持ちが分かる。
断ると、結婚する前に思い出を頂戴と言われ、それも拒否すると、お父様に犯されたと言うわ、と脅され……。
今度は有り得そうで申し訳ないが、母に危篤になってもらい、その職を辞した。
俺の先祖は、東の国境の向こう、草原を超えた東部の島から来た移民だと聞く。今は好戦的な遊牧民が草原を支配し、なかなかかの国の人間が入国できない。
そのため、このあっさりした薄い容姿はやたら珍しく、モテる要素になっていたようだ。雇い主が言うには、エキゾチックなのだとか……。
黒髪に糸目、象牙の肌は、この国の人種の血で薄れてきても、身体的特徴として残っている。まさかこれが貴族の女性から好まれるとは……。どちらかというと、差別の対象になりそうなものだが……。
まあ、厄介事に巻き込まれる見目なのはよく分かった。
だから次の奉公先は、夫人や年頃の娘がいないところにしよう。そう心に誓っていたのだ。
しかしながら、なかなか条件に合う働き先はなかった。
コンシェルジュのバイトをしながら就活していたある日のこと、破格の報酬で執事を募集している求人があると、斡旋所から連絡があった。
もともと執事の報酬は高額だが、そこでは専属騎士くらいの給料を約束しているというではないか。
まず、俺は疑った。
なぜ給与がいいか。
決まっている、何かしら問題があるからだ。
案の定だった。
ついでに言うなら、アダムソン家にお仕えし始めた頃は、お嬢様のことなどただの生意気なガキとしか思っていなかった。
少し俺の話をしてもいいだろうか。
ごく一般的な家庭に生まれた俺だが、十四の時に父を事故で亡くした。そして病弱な母と弟を養うため、コンシェルジュ&バトラーアカデミーの試験を受けることを決めたのだ。
最低入学年齢が十五からだが、高等科卒業レベルの学力が必要な試験を通過しなければならない。だからクラスメイトは、公立学校の高等科を卒業した十八からの入学者が多く、年上ばかりだった。
そのせいか、精神年齢が高めだと言われてきた。しかも東方の血が入っている俺は、実年齢より若く見えるようで、付いたあだ名がとっつぁん坊やだった。
まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく、早く稼ぎ頭になりたかった。
カリキュラムの最終段階にある実技研修期間は賃金も出るし、父のようにホテルやフラットマンションのコンシェルジュになるのもいいなと、考えた。
だが途中でバトラー科に編入し、けっきょくは執事になった。コンシェルジュより給与が高かったから……。
弟のヒューバートの将来の夢は医者で、彼の学費を稼がなければならない、そう思ったのだ。
意外にも、執事の仕事は天職だった。
領地管理は楽しい。収入は基本給プラス成功報酬で、どうやら自分には雇い主の財産を増やす才能があったようだ。仕送りも滞りなく進み、弟のヒューバートをまずは名門の王立学院に入学させることもできた。
執事生活は順調だった。
領主夫人に色目を遣われ、夜の奉仕を命じられてしまうまでは──。
俺に間男になれと? 主人に猟銃で撃ち殺される未来しか見えない!
そこで急遽、弟に奇病を発症してもらった。
勉強のしすぎで精神的に疲れ、全裸で絶叫する弟の心のケアに専念しますと言って、その屋敷の執事を辞めたのだ。
ところが次の就職先でも同じようなことが起きた。相手は王都近郊に居を構える貴族の令嬢だ。
親の決めた相手との婚約が決まった時、泣きながら告げられてしまった。ずっと好きだったと。私をさらって逃げてと。
駆け落ちするような間柄ではないんだが!?
女子の恋愛脳にはうんざりしたものだ。生徒に告白される教師の気持ちが分かる。
断ると、結婚する前に思い出を頂戴と言われ、それも拒否すると、お父様に犯されたと言うわ、と脅され……。
今度は有り得そうで申し訳ないが、母に危篤になってもらい、その職を辞した。
俺の先祖は、東の国境の向こう、草原を超えた東部の島から来た移民だと聞く。今は好戦的な遊牧民が草原を支配し、なかなかかの国の人間が入国できない。
そのため、このあっさりした薄い容姿はやたら珍しく、モテる要素になっていたようだ。雇い主が言うには、エキゾチックなのだとか……。
黒髪に糸目、象牙の肌は、この国の人種の血で薄れてきても、身体的特徴として残っている。まさかこれが貴族の女性から好まれるとは……。どちらかというと、差別の対象になりそうなものだが……。
まあ、厄介事に巻き込まれる見目なのはよく分かった。
だから次の奉公先は、夫人や年頃の娘がいないところにしよう。そう心に誓っていたのだ。
しかしながら、なかなか条件に合う働き先はなかった。
コンシェルジュのバイトをしながら就活していたある日のこと、破格の報酬で執事を募集している求人があると、斡旋所から連絡があった。
もともと執事の報酬は高額だが、そこでは専属騎士くらいの給料を約束しているというではないか。
まず、俺は疑った。
なぜ給与がいいか。
決まっている、何かしら問題があるからだ。
案の定だった。
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