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一章

襲撃

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 それは、一方的な虐殺だった。

 エルグランのおかげで、日が落ちてきた薄暗い中でも迷わず、彼らのアジトである島を包囲することができたからだ。

 艦隊の兵士たちは近くに艦を錨泊させ、艦載艇を降ろす。

 オールを動かし、無音で近くに忍び寄ることに成功した。



 海賊船は巨大な洞穴の中の水路に全て停泊してあり、乗組員たちは眠りについていた。

 よく訓練された敵の気配に気づかず、あっさり船に乗り込まれた見張りの海賊たちは、声一つあげることもなく喉を掻き切られた。

 ほとんどの海賊たちが、眠りから覚めることなく同じ目にあった。

 無抵抗とも言える乗組員たちを始末するのに、兵士たちは何の迷いもない。

 部下たちの効率の良さに満足し、艦隊の司令官は薄笑を浮かべて頷いた。

 しかしその顔はすぐに厳しいものに変わる。


「銀髪のゲルクはいたか?」

 アーヴァインは血の海と化した甲板を見渡しながら叫ぶ。

 何隻もある海賊の船の中でも、とりわけ大きなガレオンに狙いを定めて艦長自ら乗り込んだが、これは旗艦ではなかったのか?

 識別旗は海賊旗ジョリーロジャーのみ。黒い旗は洞穴の中では見にくい。

 『躯の家』は頭蓋骨に角が生えているはず。

 部下が旗をスルスル降ろし、艦載ランプで照らした。

 骸骨の図柄の横に三日月。

 煙草を握りつぶし、思わず舌打ちした。

 部下からの報告も待てず、苛立ちとともに自ら一人一人死骸を調べる。

 銀の髪の青年は見当たらなかった。

 やはりこの船ではない。

「提督」

 部下が駆けつけ、夜目の利く島鳩を渡される。副官が通信筒の手紙を外し、内容を読み上げた。

「躯の家の艦にも銀髪はいなかったそうです。海賊の一人を締め上げたところ、月光の旗艦で一緒だったとのこと」

 敵を見逃したのではないかと焦るアーヴァインの耳に、一層下からのどよめく声が飛び込んできた。

「ゲルクか!」

 アーヴァインは足早にメインハッチに向かった。




 カティラはまだ生きていた。

 生き残った数人の『月光』の乗組員たちと背中合わせに立ち、必死に兵士たちを牽制している。

 打ち合う金属の音が響く。

 一人、また一人と仲間が崩れ落ちていく。多勢に無勢だった。

 徐々に包囲の輪が狭まっているのに、カティラは諦めず、藍色の髪を振り乱しながらカトラスを振るった。



 突然の襲撃は、海神の与えし試練だろうか。もっと強く、ゲルクとまともに戦えるほど強くなりたいと願っていたから……。

「カティラ! もう止めろ!」

 ついに生きているのが首領一人になった時、見ていられなくなったエルグランが叫んだ。

 カティラは初めて、自分の仲間が治安警備艦隊の兵士たちと一緒にいることに気づいた。

 その目が驚愕に見開かれる。

「エルグラン、おまえそこで何をしているの?」

 カティラの美しい瞳に見据えられ、エルグランは苦しげに顔を歪めた。

 カティラはそれを見てすべて察した。

「裏切ったの? おまえ、私たちを裏切ったのか!?」

 部下たちを押しのけて、現場である一層下の後甲板に来たアーヴァインは、二人を見比べて唖然とした。

 なぜ、海賊船に女が……。

「『月光』の首領か?」

 横に並んだ司令官に尋ねられ、エルグランは小さく頷いた。アーヴァインは口笛を吹く。

「そういうことか。海賊の長が女とはな。俺はてっきり、ゲルクやおまえが同性愛者なのかと思ってたよ」

 そう言うと、自らサーベルを抜いてカティラの前に立った。

 エルグランが叫ぶ。

「おい、約束だぞ。彼女の命は――」
「安心しろ、殺しはしない」

 傷だらけの女首領と向かい合ったまま、アーヴァインはエルグランに返事をした。

 そしてカティラに尋ねる。

「おまえが『躯の家』の首領が愛した女か」

 カティラは答えず、肩で息をついたままカトラスを構えなおす。

 エルグランを睨みつけていたその藍色の大きな瞳は、今はアーヴァインにひたりと据えられている。

 ふと、アーヴァインは、この女が誰かに似ていると思った。

「ゲルクをどうしたの?」

 声が少し震えている。藍の瞳を翳らせているのは、不安と恐怖だった。

(なるほど、この女の方もゲルクを愛しているというのか)

 アーヴァインは微笑を浮かべた。

 ちょうどいい。

「そう聞くということは、おまえは居場所を知らんのだな……ならば――」

 突然、カティラの剣が跳ね上げられた。

(しまった!)

 取り落としたカトラスを拾おうと身をかがめたカティラの胸元に、アーヴァインの軍刀の切っ先が突きつけられる。

 カティラは動けなくなった。

「よくがんばった。女にしては大した腕だ」

 アーヴァインは真っ暗な水路を見下ろした。フンッと鼻で笑う。

「……さて、一緒に来てもらおうか。ゲルクを引き寄せるためのエサになってもらう」


――引きずられるように連れて行かれる『月光』の首領。その姿を遠くから見つめる視線があった。

「くそがっ」

 銀の髪をさらりと揺らすとその人影は、まるで影のように身を潜めていた岩場から素早く出て海に潜る。

 海賊船からの押収品である宝箱を運ぶ、治安警備艦隊の小船ランチの下にもぐりこんだ。

 だがそれに気づいたものはいなかった。

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