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蜘蛛の巣へようこそ

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 ささくれた心を、可愛いものを愛でることで慰めたかっただけ。

 相手は生徒だし、本気で七つも年下の子に手を出そうなんて、思っていなかった。

 でもハロウィン当日、天使のコスプレで来たセドリック君はあまりにキュートすぎて……。

 キスくらい奪いたいな……って、思ってしまったの。

 先生なのに、生徒から奪う。天使のファーストキッスを、この捨てられた安っぽい女がいただく。

 そう、私は清らかな魂を汚す悪魔。それを想像するだけで、背徳感に萌える、嫌な女。

 分かっている。後で自己嫌悪に陥るわね……。

 でもセドリック君の唇は瑞々しくて、すごく美味しそうなんだもん。


 ハロウィンのその日、私は生唾を呑み込みながら、部屋の中に天使を通した。

 悪魔に狙われていることも知らず、天使はニコニコしながら蜘蛛の巣の中に入って来た。

 私は後ろ手に、鍵を閉める。

「先生の家、学院から近いのにヴィラなんだ! すごーい、お金持ち。広いですね! 他のご家族はいないの?」
「わたし、地方出身だから。前は友人と住んでいたんだけど、出ていっちゃったの」

 セドリック君をリビングのソファーに座らせ、できたてのパンプキンパイを切り分けにキッチンに来た私。

 でもその耳に、

「それ、男の人?」

 と低い声が聞こえた気がした。

「え?」

 今の、セドリック君の声……じゃないよね?

「何か言った?」

 ナイフを持ったままリビングを覗くと、セドリック君は不思議な色を湛えた瞳をパチクリさせる。

「いえ、何も? 同居してた人はどうしたのかなって思って」
「……もうすぐ結婚するから、彼氏の実家に引っ越したの」

 セドリック君は、フワッとこちらが舞い上がりそうな笑顔を浮かべた。

「そうですか。先生寂しいよね」

 私は苦笑しながら紅茶とパイをトレイに載せ、セドリック君に持っていった。

「大人だから大丈夫よ。ところで、荷物少ないのね。その黒い箱、何が入っているの?」
「これが今度発表するスライムです」
「私も子供の頃、ネルネルネルネしたことあるわ」
「いえ、そうじゃなくて本物の──」

 彼の隣に、密着するように座る。

 ──さて、どうやってこの坊やから唇を奪おうかしら。

 エプロンを脱ぎながら、隙を窺う。

「先生、素敵なコスチュームですね」

 ボンデージスーツはさすがにやり過ぎたかな、と思いつつ、赤くなるセドリック君が見たくて、張り切ってしまった。

「悪魔という設定なの。今日はハロウィン、天使を堕落させる悪魔になるわ」

 その天使が自分だって、気づいてないのかしら。

 セドリック君はしばらくもじもじしていたけど、すぐに顔をあげた。可愛らしい笑顔でちょっと首を傾げて、テーブルの上の箱を手に取る。

「では始めるよ、先生」

 私はガックリした。お茶くらい飲んでゆっくり会話しましょうよ、研究熱心ね。

 ……当たり前か、将来がかかっているものね。

 どうしようかな……とセドリック君は、私のボンデージスーツを見る。

「僕、そういう玄人っぽいスーツって、穴が開いているものだと思ってました」
「あ、穴?」
「ヴァギナの部分にです」

 ヴァギナ……。

 あれ、なんか……イメージとちょっと違う言葉が彼の唇から漏れたけど、聞き間違い?

 私は戸惑いつつも答えた。

「ポルノショー用の店だったらあったかもしれないけど……これ、一応ハロウィンコスだから」
「いいんです。穴が開いている方が、都合が良かったものですから。僕の研究に必要なものが採取しやすいので、聞いてみただけです」

 私のボンデージに穴が開いていた方が、都合がいい?

 ビーカーを取り出す。

「ください」
「はい?」

 真顔で天使が迫ってくる。

「愛液です」
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