【完結】あなたに醜い女と言われたので、身の程知らずのこの豚めは姿を消しますね

世界のボボ誤字王

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番外編 ケンカップルの初夜

バーサーカー【クライヴ視点】

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「やあ……マスカキスター伯爵家のチェリー君。これは、蕎麦とかいうのと一緒に食すと美味しいよ。残念ながら、僕は啜るのがすごく下手でね、なぜか鼻から出てきてしまうんだ」
「そんなことは聞いていない。あと俺の名前はチャーリーだ」

 チャーリー君始め殿下の取り巻き達は、嫌悪感たっぷりの目で俺を見下ろした。

「貴族席に来いよヒューバート。俺たち貴族の子弟が軽んじて見られるだろう? 殿下だってきっと不快感を持ったに違いないぞ?」

 そうか? 王太子殿下は既に窓際のクッションたっぷりの席に収まり、ランチを注文しているぞ。ちなみにあちらは給仕が席まで運んでくれる仕様だ。

 俺はヒューバートに囁く。

「いけよ。君の席はそもそもあっちだ」

 ところがヒューバートは、俺の方を見つめながら天ぷらを飲み込み、おもむろに言った。

「……はぁ?」

 心底呆れたような、低い「はぁ?」だった。

 俺はその時思った。

 ヒューバートって、侯爵令息という自分を意図的に作っているのではないかと。

 本当は、俺と同じく俗っぽい人間なのに、貴公子はこうだという理想が自分の中にあって、それに当てはめようとしているだけで……。

 たじろぐ俺を一瞥してから、ヒューバートが再びカボチャの天ぷらに手をのばした時、チャーリー君が俺のカップを掴んだ。

 そして中に入ったグリーンティーを、俺の食べていたカレーライスにかけたではないか。

「貴族の横で、よくそんな下品なもの食べられるな。まるでウ○コじゃないか」

 俺はその時、頭が真っ白になった。俺の大好物の異国の料理に対し、絶対に言ってはいけない一言を放ったのだ。しかもここは食堂で、食べている生徒が他にもいるのにだ!

 案の定、カレーを注文した生徒たちのスプーンが止まり、石になっている。

「平民クラスの人気メニューらしいな。新興貴族とか呼ばれているようだが、しょせんお前らは下賤の血。俺たち貴族なら、ビーフストロガノフを食す。なあヒューバート、お前がいくら仲良くしようが、住む世界が違う。分かるだろう? 俺たち貴族からしたら、彼ら新興貴族は道端のウ○──」

 またカレーを侮辱しようとした! 俺はガタッと音を立てて立ち上がった。

 いいだろう、これ以上カレーを──俺の名誉を傷つけるつもりなら、出るところに出てやろうじゃないかチャーリー。俺の父には弁護士の知り合いがたくさんいる。持てる金をすべて使って戦ってや──

 ダンッと音がした。

 横を見ると、トレイを横にずらしたヒューバートが、テーブルの上に乗っていた。

 え……靴のままテーブルに……。

 次の瞬間彼は跳躍し、チャーリー君に回し蹴りを喰らわせたではないか!

 衝撃で吹っ飛んだ相手にそのまま躍りかかり、馬乗りになってマウントポジションで殴りつけるヒューバートに、他の貴族令息たちも俺も、驚愕のあまり身動き一つ取れない。

 あのヒューバートが喧嘩してる!? いや、一方的に殴りつけている!?

 俺は白目を剥いて伸びているチャーリー君の上に跨ったまま、無心に拳を振り下ろし続けるヒューバートを、大慌てで後ろから羽交い絞めにしていた。

「ねえ、ちょっと! やめたまえ! どう見ても意識が無いから! いろいろ問題になるから! そこの君たち、彼を……チェリー君を連れて行きたまえ!」

 結果的に平民の俺に命じられて、慌てて友人を引きずっていった貴族令息たちだ。

 王太子殿下はこれだけの騒ぎにも気づかず、ランチを持ってきた給仕に「やあ、これがそうか。私もずっとカレーという庶民の飲み物を試してみたかったんだ。美味そうだ」と、おっしゃっているのが聞こえた。

 やはり王族は我々と何かが違うのだろう。

 結果的に、意識を取り戻したチェリー君は、大泣きしながら先生にチクった。「パパにも蹴られたこと無いのに! あと俺チャーリーなのに!」と訴えたのだとか。

 ヒューバートはその日のうちに、学院長室に呼び出された。

 だがあちらはマスカスター伯爵家の次男。ヘビントン侯爵家の嫡男の方が学院長的には媚びへつらう存在だったようで、わずか三日の謹慎で済んだ。

「あの、なんであんなに怒ったんだ? 君だってカレーはそんなに食べないじゃないか」

 後で俺が恐る恐る聞いたところ、彼にきょとんとされた。

「嫌いなのは、カレーうどんだ。どうやっても鼻から出てくるし、僕の白いシャツに汁が飛んだら、すべてが終わりじゃないか」

 すべては終わりにならないと思うが。じゃあなんで?

「やつは君のカレーに、グリーンティーを入れたんだぞ。美しくないじゃないか」

 何を言っているか分からない。でもたぶん、俺の代わりに怒ってくれたんだなと思った。

 胸の中が少しこそばゆくなり、その日からヒューバートとは対等に付き合いたいと思うようになったわけだが……。

 まあ彼というより──いや、おこがましいかもしれないが、いつかヘビントン侯爵と対等になりたかったのだ。

 対等になることによって、俺とあの神々しいお嬢様──ミラベルとの隔たりも小さくなるのではないか、そんな希望を持ってしまったのもある。

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