【完結】あなたに醜い女と言われたので、身の程知らずのこの豚めは姿を消しますね

世界のボボ誤字王

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第一章

魔法が解ける

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「シンシア……では君は、この僕と結婚したくて?」
「だって、あの女は──」
「あの女?」

 ピクッと彼の優美な眉が動きましたが、わたくしは構わずに告げました。

「あの女より、わたくしの方があなたを愛しております」

 気持ちの大きさなら、絶対に負けません。

 ヒューバート様はそれを聞いて、脱力したように背もたれに体を預け、そして呆然と呟きました。

「ナディーン嬢に嫉妬して……僕を君のモノにしたくて、彼女を追い払ったということなのか?」
「彼女の父親はアル中などではござ──」
「聞かれたことにだけ答えろ」

 冷たく吐き捨てられ、わたくしの喉に言いかけた言葉が張りつきました。

 不快を露にしたその姿を目の当たりにし、わたくしは気が動転してしまいます。普段穏やかな人が怒ると、こんなに怖いのね。

 タジタジになりましたが、この時はどうしても彼に分かってほしくて申し上げました。

「そのとおりですわ」
「シンシア、君って子は──」
「どうせあの方は、もう戻っては来ません。大金持ちと、結婚してしまうのです。ですから彼女のことは忘れてわたくしと──」

 その言葉は、今ここで言ってはいけなかったのだとすぐに分かりました。

 彼は片手を挙げてわたくしの言葉を遮り、おもむろに立ち上がります。

「そうか……それでナディーン嬢は」

 ヒューバート様は自分のデスクに歩いていき、引き出しから紙とペンとインク壺を取ると、わたくしの目の前に置きました。

 わたくしはそれを見て、目を見張りました。

「約束だったろう? シンシア」

 ヒューバート様は、わたくしにむしろ優しい口調でそうおっしゃいました。

 ただそのヘイゼルの瞳は、コインのように無機質な光を放っており、いつもはそこにあるはずの温かみが微塵も感じられませんでした。

「君との婚約は偽装だった」

 もちろん、承知しておりました、でも──。

「僕に好きな人ができたことが、君には我慢できなかったんだね」

 わたくしを、愛してほしかっただけです。だってヒューバート様だってわたくしのこと──。

 しかしながら彼のその顔色を見れば、わたくしが勘違いしていたことを認めざるを得なかったのです。

 どれだけがんばっても、彼がわたくしと結婚したいと思うことなど無いのだと、この時はっきりと思い知らされたのです。

「気づかなかった僕が悪い。まさか君まで、僕を狙っていたなんて」
「ご、ごめんなさい、いつか振り向いてもらえるかと──」
「君のことは女性としては愛せない」

 彼が呟いたその言葉の中に、わたくしは嘲りを聞きとった気がしました。被害妄想と思いたかったのですが、もうそうは思えません。

 彼が、はっきりおっしゃったからです。

「君は、醜いね」

 ストレートに傷つく言葉でした。

 あの優しいヒューバート様が口にするとは思えず、わたくしは竦みあがってしまいます。

 ヒューバート様は、わたくしにそんなこと絶対に言わない。だってヒューバート様は、いつもわたくしをウットリ見ていて、可愛いねって──。

「婚約解消の契約書だよ。さあ、サインして」

 大きな窓ガラスに映る自分の姿に一瞬目をやり、わたくしはすぐに逸らしました。

 なんてバカだったのでしょう。やっと気づいたのです。

 今まで、ポジティブすぎたのだわ。太っているから可愛いのだと、思い込んでいたのです。

 いえ、太っていることは醜いと、本当は知っていたのかもしれません。

 しかし、わたくしが愛している人たち──家族やヘビントン侯爵家の兄妹から、可愛い可愛いと誉めそやされれば、その他有象無象が何を言おうと関係なかったのです。

「早く、婚約破棄を」

 醜いなんてキツい言葉を言わせてしまうほど、わたくしは彼を怒らせてしまった。ヒューバート様を狙う他の女性同様のことをして、そう思わせてしまった。

 後悔でしゃくりあげるわたくしに、彼は迫ります。

「さあ、君から振るんだよ」

 猫なで声に、わたくしはついに口が裂けても言いたくなかった言葉を、口にしておりました。

「ヒューバート様、貴方との婚約を破棄させていただきます」

 それは、彼をわたくしから解放する言葉でした。

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