【完結】あなたに醜い女と言われたので、身の程知らずのこの豚めは姿を消しますね

世界のボボ誤字王

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第一章

お兄様まで!

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「お兄様、そんなときは夜食を食べればいいのですわ」

 わたくしが慌てて提案すると、クライヴ兄様はなるほど、と大人しくなりました。

「そうだね。ミラベルのやつ……うちにお土産を持ってきたのに、君に見せびらかしただけで、そのまま持って帰ってしまったらしいじゃないか」
「四つはいただきましたわ」

 泣きながら追いすがるわたくしに「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、あげられないの! 食べている時が一番幸せってあなたが言っていたから今まであげていたの! でももうダメよ、我慢して! しっ! あっちにいきなさいっ!」と悲痛な声を投げつけて、逃げるように立ち去ってしまいました。うう、桃のタルト……。

 パチンと指を鳴らすと、お兄様は使用人の一人に命じます。

「シンシアの夜食用に、チョコレートのタルトを五十個ほど買ってきてくれたまえ。ああ、シンシア。食べる時は俺を起こすんだぞ。君が食べるところを見るのが、一番の楽しみなのだから」
 
 お母さまがげんなりした顔でおっしゃいました。

「シンシアは食べるのが大好きだから、わたくしも望むまま与えてきました。でも年頃なのだから考えないと」

 わたくしは、おやつを減らされては大変と焦ってしまいます。

「だ、だけど、ヒューバート様は、こんなわたくしがいいとおっしゃってくれました」
「そうとも、そのままのシンシアに惚れたのだろう?」

 お母様は、確かにそうなのよね……と悩んだ末に、それでも首を横に振るのです。

「デビュタント前ですから分からないでしょうけど、これからヒューバート様と社交界に頻繁に出るようになるわ。その体型は、世間一般にはみっともないのよ」

 なぜかお父様がお顔を痛そうに歪め、罪悪感たっぷりの声でお兄様を諭そうとなさいます。

「もう、お前たちを飢えさせたりしない。約束するからクライヴ。シンシアはもう、大丈夫だよ」

 兄様はイヤイヤするように首を振りました。

「別に誰がなんと言おうと、我々にとってシンシアは天使だからいいでしょう? ヒューバートだって婚約者に悪い虫が付いたら困ると思うんだ」

 そうですわ! お兄様はまあ置いておいて、ヒューバート様が可愛いとおっしゃっているの、そこが大事なのです。

「でもね、クライヴ。健康だって心配なのよ」
「健康?」

 クライヴ兄様が目を丸くしました。

「なぜです? 栄養失調より、よほどいいではございませんか」
「わたくしも知らなかったのだけど、この前シンシアを見かけた知り合いのお医者様から、言われたの。成人病って子供でもかかるらしいわよ」

 な、なんだって! とクライヴ兄様は叫びました。

「たしかに普通に考えたら、太り過ぎは良くないわよね。痛風とかもあるし」

 お母様の言葉に、クライヴ兄様はしばし呆然としてらっしゃいましたが、我に返るとわたくしが食べようとしていたプティングを、サッと目の前から取りあげてしまったではございませんか!

「お兄様!?」
「許せ妹よ、兄もこんなことはしたくないのだ」

 わたくし、甘いモノで締めないと永遠に食事が終わった気がしないのです! 淑女教育も食べ物の魅力の前では無力なものでした。

 お兄様が涙を流しながら高く持ちあげるお皿を取り返そうと、わたくしは必死にピョンピョン跳ねてしまいました。お兄様は、許せ、許せ、ああなんと辛いのだ、と号泣しております。

 まるで先ほどのミラベルだわ!

 お母さまは息をついて、わたくしにおっしゃいました。

「諦めなさい、シンシア。明日の準備をいたしましょう。コルセットで締めあげて、くびれを作らなければ」

 クライヴ兄様がまたナプキンを叩きつけました。拾ったり投げたり、忙しそうですわね。

「母上、シンシアを虐待しようっていうんですか。彼女にコルセットなど要りません」

 ダメだこりゃ、とお父様がつぶやくのが聞こえました。
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