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第一章

客室に来たヒューバート様

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 そのディナーが終わってからも、ヒューバート様が遅くまで親族の皆さまと話しあっていたことに、わたくしは気づいておりました。

 ヒューバート様がわたくしのいる客室を訪ねてきたのは、皆が寝静まった頃です。

 ノックに驚いて、目をこすりながら起きたわたくしでした。手探りでマッチを擦り、ランプを点けます。

 いったい何ごとでしょうか。

 ガウンを着て扉を開けたわたくしの前に、やはりランプを持ったヒューバート様が、申し訳なさそうに立ちつくしておりました。

「寝ていたのにごめんよ」

 わたくしももう十五のレディです。今までのように夜遅くわたくしの部屋にいらっしゃるのは、良くないと思われたのでしょう。彼はしばらく戸口の前で、ためらっていました。

 見るからに疲れきり、やつれた様子の彼を見て、きっとご両親の死が重くのしかかっているのだと、わたくしは思いました。

 実際、わたくしたちステイプルトン一家も、優しくしてくださった侯爵夫妻が偲ばれて、晩餐の席では一言も話すことができませんでしたから。

 食事がほとんど喉を通らないミラベルを見ているのも、辛かったのです。

 わたくしは見かねてヒューバート様の腕を引っぱり、部屋の中に迎え入れました。彼が崩れ落ちてしまいそうに見えたからです。

「大丈夫ですか?」

 教会ではしゃんとしておいででしたが、まだ十八。埋葬の時はさすがに肩が震え、泣くのを堪えているように見えました。嘆き悲しむ妹の手前、泣くに泣けなかったのかもしれません。

 今になって、喪失の悲しみが押し寄せてきたのでしょうか。それとも、葬儀が無事に済んで、気が抜けたのでしょうか。

「疲れた」

 囁くように零したヒューバート様の呟きは、少ししゃがれていました。わたくしは彼にソファーを勧めました。

「親族の方々と、長いことお話ししてらっしゃいましたものね」

 申し訳ないと思いつつ枕元の呼び鈴を鳴らし、侯爵邸の使用人に起きてもらいます。

 暖炉に火を入れるほどではございませんが、ヒューバート様が寒そうに見えたので、彼のために温かいお茶を持ってきてもらうことにしたのです。

 既に寝る準備をしていた寝巻きとナイトキャップ姿の使用人に礼を言い、熱々のカップが載ったトレイを受け取ると、ヒューバート様に渡しました。

 彼はそれを啜りながらソファーにもたれかかり、じっとランプの灯りを見ています。

 お茶を飲んで落ちついたのでしょう、彼はやっと、ポツリポツリと話しだしました。

「叔父や叔母が、喪が明けしだい結婚しろって。早く後継者を儲けなければならないからと……」

 わたくしは、ドキドキしてしまいました。

 あら? これはもしかして、もうプロポーズかしら。望むところですが、わたくしまだ十五です。上流階級の娘の結婚が早いとはいえ、さすがに早すぎるのではないのかしら。

「僕はまだ十八だ。学院を卒業したばかりなのに」
「そうですわよね」

 わたくしだって入学したばかりですわ。だけどヒューバート様がお困りなら……。

 ヒューバート様は天井を見たまま、トントンとご自分の隣の座面を叩きました。

「シンシア、膝枕して」

 わたくしは嬉しくなって飛んでいくと、いそいそと彼の隣に収まりました。

 彼はカップをティーテーブルに置き、ゴロンと横になってわたくしの太腿の上に頭を乗せ、目を閉じました。

「はぁぁぁ……気持ちいい」

 深い息をついて彼がリラックスしているのを見ると、わたくしはそれだけで満たされました。

 こういう時、ヒューバート様のことが大好きだと、しみじみと思うのです。

 ですからプロポーズならいつだってお受けしますわ。結婚にはまだ早くても、そしてこんな寝巻き姿であっても。
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