【完結】あなたに醜い女と言われたので、身の程知らずのこの豚めは姿を消しますね

世界のボボ誤字王

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第二章

この豚のクッションが足りないばかりに……

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 ヒューバート様は、凍りついたように静止いたしました。

 やがて、錆びた蝶番の音がしそうなほど緩慢に首を動かし、わたくしのナイトドレスの上から太腿をまじまじと凝視しました。

 それから目をギュッと瞑り、口の中で何ごとか悪態をついてから、これまたゆっくり横になります。

 三年ぶりに、ヒューバート様の頭の重みが太腿にかかり、サラサラの髪の感触が、薄いナイトドレス越しに感じられました。

 ああ……やっと。やっとですわね。膝枕だったら、唯一あなたにしてあげられることです。

 わたくしは涙ぐみながら、どうですか? とヒューバート様の耳に囁きました。

「……ま、前より、クッション性が……」

 狼狽えたようにそう呟いて、彼はすぐに起き上がってしまわれたので、わたくしはがっかりしてしまいました。自分にです。

 ヒューバート様は俯いたままでしたので、その表情は長い前髪に隠れてよく見えませんでした。

 ですが、耳が真っ赤になっているようです。彼を怒らせてしまったのかしら。前のようにリラックスさせてあげられなかったから。

 まだ太腿はムチムチしていたと思いますが、やはり体重が落ち過ぎましたわね。そういえば、クライヴ兄様は軽々とわたくしを持ち上げていましたものね。

 お兄様の言うとおり、もっとムッチムチに太った方が良かったのだわ!

 まったく! わたくしはどこまでも役に立たない醜い豚女です。

「寝ようか」

 ヒューバート様の低くざらついた声に、わたくしは深く落ち込みながら頷きます。

「ごめんなさい」

 ソファーに戻ろうとすると、二の腕を掴まれました。

「どこいくの?」
「え?」

 彼は大きなベッドの、上掛けを剥ぎました。

「慣らすために呼んだんだ。隣に寝てくれなきゃ」

 事務的な声でしたので、わたくしは大人しく従います。

 寝相が悪いから、潰してしまうかも……。体重は軽くなったとはいえ、胸はやたらプリンプリンです。寝返りでも打って、うっかり彼の顔面に乗ってしまえば、窒息させてしまいそう。

 あ、でもわたくしが最初から下にいれば、彼の上にこの肉塊が乗ることはないのでは?

「ヒューバート様。太ももより、胸の上に頭を乗せた方がご満足いただけるかも。枕がわりに」

 水差しから水を注いでゴクゴク飲んでいたヒューバート様が、ぶふぁっ! と吐き出しました。

「ぐはっ! げほげほげほっ!」
「だ、大丈夫ですか」

 激しく咳き込み、しばらくのたうち回っていたヒューバート様です。しかしややあって落ち着くと、頭のおかしい人を見るような目でわたくしを睨みました。

「誘っているのかい?」
「胸枕を? ええ。そうですが」
「いや、そうじゃなくて……この子はまさか……自覚が無い?」

 失礼な。豚の自覚があるからこそ、間違ってヒューバート様の上に乗らないように、重しになってほしいのですよ?

「ヒューバート様、もういいかげんわたくしだって大人なのです。自分のことはさすがに分かっております」

 憤慨してそう申し上げました。ヒューバート様がたじたじになります。

「たしかに前よりわたくしは痩せました。でもまだお胸とお尻は凶器ですわ。圧死させてしまいます」
「確かに凶器だが、そういう意味ではなくてだね。君は女性としての自分をなんだと思っているんだ」

 あまり言いたくないことを言わせないでください。黒歴史なのですから。

「あれだけ学院の皆から言われたら、目が覚めますわよ。そこまでバカではございません」

 正確にはヒューバート様からきっぱり言われたからです。

 真綿に包まれて育てられたわたくしの幻想は霧散し、現実を見るようになったのですからね。

「さ、いらしてください」

 わたくしが仰向けに寝転がって手を広げると、ヒューバート様はしばらく顔を赤らめてわたくしを見下ろしていましたが、そのまま顔をわたくしの胸に沈めました。

「……やふぁらふぁい」
「ち、窒息しますわよ。逆です」

 ヒューバート様は渋々向きを変え、仰向けになりました。

 ふわんと胸が擦れて、なんだかソワソワするような、変な気分になりました。

「重いだろ?」
「ぜん……ぜん……温かくて、気持ちいい」

 少しでも彼が、膝枕同様にリラックスしてくれますように。

 そう思って彼の髪を撫でているうちに、先に眠りに落ちてしまったわたくしでした。
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