【完結】あなたに醜い女と言われたので、身の程知らずのこの豚めは姿を消しますね

世界のボボ誤字王

文字の大きさ
上 下
54 / 91
第二章

この豚のクッションが足りないばかりに……

しおりを挟む
 ヒューバート様は、凍りついたように静止いたしました。

 やがて、錆びた蝶番の音がしそうなほど緩慢に首を動かし、わたくしのナイトドレスの上から太腿をまじまじと凝視しました。

 それから目をギュッと瞑り、口の中で何ごとか悪態をついてから、これまたゆっくり横になります。

 三年ぶりに、ヒューバート様の頭の重みが太腿にかかり、サラサラの髪の感触が、薄いナイトドレス越しに感じられました。

 ああ……やっと。やっとですわね。膝枕だったら、唯一あなたにしてあげられることです。

 わたくしは涙ぐみながら、どうですか? とヒューバート様の耳に囁きました。

「……ま、前より、クッション性が……」

 狼狽えたようにそう呟いて、彼はすぐに起き上がってしまわれたので、わたくしはがっかりしてしまいました。自分にです。

 ヒューバート様は俯いたままでしたので、その表情は長い前髪に隠れてよく見えませんでした。

 ですが、耳が真っ赤になっているようです。彼を怒らせてしまったのかしら。前のようにリラックスさせてあげられなかったから。

 まだ太腿はムチムチしていたと思いますが、やはり体重が落ち過ぎましたわね。そういえば、クライヴ兄様は軽々とわたくしを持ち上げていましたものね。

 お兄様の言うとおり、もっとムッチムチに太った方が良かったのだわ!

 まったく! わたくしはどこまでも役に立たない醜い豚女です。

「寝ようか」

 ヒューバート様の低くざらついた声に、わたくしは深く落ち込みながら頷きます。

「ごめんなさい」

 ソファーに戻ろうとすると、二の腕を掴まれました。

「どこいくの?」
「え?」

 彼は大きなベッドの、上掛けを剥ぎました。

「慣らすために呼んだんだ。隣に寝てくれなきゃ」

 事務的な声でしたので、わたくしは大人しく従います。

 寝相が悪いから、潰してしまうかも……。体重は軽くなったとはいえ、胸はやたらプリンプリンです。寝返りでも打って、うっかり彼の顔面に乗ってしまえば、窒息させてしまいそう。

 あ、でもわたくしが最初から下にいれば、彼の上にこの肉塊が乗ることはないのでは?

「ヒューバート様。太ももより、胸の上に頭を乗せた方がご満足いただけるかも。枕がわりに」

 水差しから水を注いでゴクゴク飲んでいたヒューバート様が、ぶふぁっ! と吐き出しました。

「ぐはっ! げほげほげほっ!」
「だ、大丈夫ですか」

 激しく咳き込み、しばらくのたうち回っていたヒューバート様です。しかしややあって落ち着くと、頭のおかしい人を見るような目でわたくしを睨みました。

「誘っているのかい?」
「胸枕を? ええ。そうですが」
「いや、そうじゃなくて……この子はまさか……自覚が無い?」

 失礼な。豚の自覚があるからこそ、間違ってヒューバート様の上に乗らないように、重しになってほしいのですよ?

「ヒューバート様、もういいかげんわたくしだって大人なのです。自分のことはさすがに分かっております」

 憤慨してそう申し上げました。ヒューバート様がたじたじになります。

「たしかに前よりわたくしは痩せました。でもまだお胸とお尻は凶器ですわ。圧死させてしまいます」
「確かに凶器だが、そういう意味ではなくてだね。君は女性としての自分をなんだと思っているんだ」

 あまり言いたくないことを言わせないでください。黒歴史なのですから。

「あれだけ学院の皆から言われたら、目が覚めますわよ。そこまでバカではございません」

 正確にはヒューバート様からきっぱり言われたからです。

 真綿に包まれて育てられたわたくしの幻想は霧散し、現実を見るようになったのですからね。

「さ、いらしてください」

 わたくしが仰向けに寝転がって手を広げると、ヒューバート様はしばらく顔を赤らめてわたくしを見下ろしていましたが、そのまま顔をわたくしの胸に沈めました。

「……やふぁらふぁい」
「ち、窒息しますわよ。逆です」

 ヒューバート様は渋々向きを変え、仰向けになりました。

 ふわんと胸が擦れて、なんだかソワソワするような、変な気分になりました。

「重いだろ?」
「ぜん……ぜん……温かくて、気持ちいい」

 少しでも彼が、膝枕同様にリラックスしてくれますように。

 そう思って彼の髪を撫でているうちに、先に眠りに落ちてしまったわたくしでした。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

処理中です...