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第二章
舞踏会に、この豚めも招待?
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三年間、社交界には顔を出しておりません。まあいわゆる拒食症と脱毛症で静養していたのですから、それは仕方ございません。
ですが、ダンスくらいは練習しておけばよかったわ。
というのも、アイスクリームを食べ終わった王太子殿下から「なんだい、王都に居るのなら、今日の王宮の夜会に二人とも来たまえよ」と誘われてしまったからです。
「あら、私は元々行く予定だったの。一応ヒューバート兄様にも招待状を送ったはずよ。お兄様、領地管理を家令に任せておけないから、欠席の手紙を送ったって言ったじゃない」
「ちなみに、ステイプルトン家は高額納税者ということで、王宮の舞踏会に招待されるようになった。さすがにスケジュールを合わせて、俺も応じるようにしているよ」
フリッツ通りで合流した二人を、わたくしは驚いて見つめました。
「え、ではお兄様も行くのですか? パートナーはどなたを?」
クライヴ兄様は思いきり顔をしかめて、ミラベルを見下ろしました。
「俺もミラベルも下手に誰かを誘えないんだ。ミラベルは未だに結婚したくないと宣うし、俺も今のところ興味無い。勘違いされても面倒だから、二人で行くことにしていた」
二人が一緒に来てくれるなら、心強いです。わたくしはホッとしました。
「イブニングドレスを貸してもらえるかしら、ミラベル」
わたくしが言うと、ミラベルは目を見張りました。
「農園ではワサワサしたドレスは必要なかったし……何を着ていけばいいか……。今の流行りも分からないの」
乗馬服やデイドレスしか持っていないのです。今後あまり着る機会もないでしょうし、わざわざ買うのもどうかと思いました。
この醜い豚めは、結婚披露パーティーが終わったら、もう社交の場には出ないもの。
何か言いたげなヒューバート様と、目が合いました。しかしすぐに彼は、サッと逸らしてしまいました。
ミラベルの方はというと、しばらく口を引き結んで固まっておりましたが、やがて恥ずかしそうに上目遣いでわたくしを見ました。
「いいけど、たぶん胸とお尻のあたりがパツパツになるし、その……うちにあるのは全部古いの。メイドのお給料が足りなくて、いいドレスを売ってしまったから」
ヒューバート様が悄然と俯き、小さくすまない、とおっしゃるのを聞きました。
わたくしとクライヴ兄様は顔を見合わせました。今の侯爵家が困窮していることを思い出したのです。
お兄様とわたくしは、すぐに二人をプレタポルテの店に連行いたしました。
「この店の既製品、質がいいからな。パートナーを務めてもらうんだから、俺が用意するのは当然だった」
クライヴ兄様がそっけなくそう言いました。
「ほんとですわ。わたくしのような豚がミラベルのドレスを着られるわけがないのに」
ええっ? とミラベルが目を剥きましたが、わたくしはヒューバート様に視線を移しておりました。
「ヒューバート様は燕尾服をお持ちですか? クライヴ兄様は社交界はお好きではございませんが、取引相手が多岐に渡るので、今後も舞踏会に招かれるかもしれません。ですから何着か必要でしょうし、ヒューバート様のもついでに購入しておいてよいでしょうか。お兄様とサイズ、同じくらいですもの。共有なされば便利だわ」
ステイプルトン家から贈られることをこの兄妹が屈辱と思わないよう、額に冷や汗をびっしょり浮かべながら早口で提案しました。
ヒューバート様はなんとも言えない複雑な表情をしつつも、頷いてくださったのです。
それにしても、今夜だなんて。あまりにも急すぎますわ。しかもいきなり王宮だなんて!
お作法だって忘れてしまったし、笑われたらどうしましょう。
わたくしは、三年前の婚約披露パーティーを思い出しました。
当時はバカで分かりませんでしたが、こんな醜い女がヒューバート様の婚約者として紹介されたのですものね。
誰も納得しなかったでしょうし、ヒューバート様まで笑われていたことでしょう。
悪夢がよみがえりますわ。
醜いのはもう仕方ないので、せめて身なりと、お作法だけはきちんとしなければ。
結局お洋服は、店員さんに丸投げするわたくしでございました。
ですが、ダンスくらいは練習しておけばよかったわ。
というのも、アイスクリームを食べ終わった王太子殿下から「なんだい、王都に居るのなら、今日の王宮の夜会に二人とも来たまえよ」と誘われてしまったからです。
「あら、私は元々行く予定だったの。一応ヒューバート兄様にも招待状を送ったはずよ。お兄様、領地管理を家令に任せておけないから、欠席の手紙を送ったって言ったじゃない」
「ちなみに、ステイプルトン家は高額納税者ということで、王宮の舞踏会に招待されるようになった。さすがにスケジュールを合わせて、俺も応じるようにしているよ」
フリッツ通りで合流した二人を、わたくしは驚いて見つめました。
「え、ではお兄様も行くのですか? パートナーはどなたを?」
クライヴ兄様は思いきり顔をしかめて、ミラベルを見下ろしました。
「俺もミラベルも下手に誰かを誘えないんだ。ミラベルは未だに結婚したくないと宣うし、俺も今のところ興味無い。勘違いされても面倒だから、二人で行くことにしていた」
二人が一緒に来てくれるなら、心強いです。わたくしはホッとしました。
「イブニングドレスを貸してもらえるかしら、ミラベル」
わたくしが言うと、ミラベルは目を見張りました。
「農園ではワサワサしたドレスは必要なかったし……何を着ていけばいいか……。今の流行りも分からないの」
乗馬服やデイドレスしか持っていないのです。今後あまり着る機会もないでしょうし、わざわざ買うのもどうかと思いました。
この醜い豚めは、結婚披露パーティーが終わったら、もう社交の場には出ないもの。
何か言いたげなヒューバート様と、目が合いました。しかしすぐに彼は、サッと逸らしてしまいました。
ミラベルの方はというと、しばらく口を引き結んで固まっておりましたが、やがて恥ずかしそうに上目遣いでわたくしを見ました。
「いいけど、たぶん胸とお尻のあたりがパツパツになるし、その……うちにあるのは全部古いの。メイドのお給料が足りなくて、いいドレスを売ってしまったから」
ヒューバート様が悄然と俯き、小さくすまない、とおっしゃるのを聞きました。
わたくしとクライヴ兄様は顔を見合わせました。今の侯爵家が困窮していることを思い出したのです。
お兄様とわたくしは、すぐに二人をプレタポルテの店に連行いたしました。
「この店の既製品、質がいいからな。パートナーを務めてもらうんだから、俺が用意するのは当然だった」
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「ほんとですわ。わたくしのような豚がミラベルのドレスを着られるわけがないのに」
ええっ? とミラベルが目を剥きましたが、わたくしはヒューバート様に視線を移しておりました。
「ヒューバート様は燕尾服をお持ちですか? クライヴ兄様は社交界はお好きではございませんが、取引相手が多岐に渡るので、今後も舞踏会に招かれるかもしれません。ですから何着か必要でしょうし、ヒューバート様のもついでに購入しておいてよいでしょうか。お兄様とサイズ、同じくらいですもの。共有なされば便利だわ」
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それにしても、今夜だなんて。あまりにも急すぎますわ。しかもいきなり王宮だなんて!
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誰も納得しなかったでしょうし、ヒューバート様まで笑われていたことでしょう。
悪夢がよみがえりますわ。
醜いのはもう仕方ないので、せめて身なりと、お作法だけはきちんとしなければ。
結局お洋服は、店員さんに丸投げするわたくしでございました。
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